大航海時代の支配者
夏を目前に、海に浮かぶ帆船をモチーフにした、
19世紀のエナメル絵付けステンドグラス をご紹介いたします。
ずんぐりとしたフォルムは15世紀に地中海で開発された帆船である
キャラック船(Carrack)と思われます。
キャラック船とは、3本ないし4本のマストを備え、丸みを帯びた船体と
特徴的な複層式の船首楼、船尾楼がある船。
最も有名なキャラック船はサンタ・マリア号(La Santa Maria)。
それは、かのクリストファー・コロンブスが新大陸に到達した際に乗船していた船のこと。
小さな船体で大西洋を横断したサンタ・マリア号は
最後は1492年12月24日にイスパニョーラ島で座礁し解体され、
使える木材は要塞の資材として使用されたといわれています。
サンタマリア号の特徴はメインマストに赤い十字がついた帆を張っていたこと。
このステンドグラスの帆には十字は無く、普通のキャラック船のようにみえます。
そして、船を取り囲む円には、アカンサスと
英国・チューダー王朝の象徴であるチュードル・ローズ。
このステンドグラスの推定製造年代は19世紀後半。
既にキャラック船は時代遅れのものとなっていました。
キャラック船が海を走っていた15-16世紀の大航海時代、
それまで海を牛耳っていたスペインの無敵艦隊が、
1588年にアルマダ海戦によって大英帝国に敗れるという歴史的事件が起こります。
このようなキャラック船、そしてその後のガレオン船が
メインだったこの海戦を記念して、キャラック船を取り囲む大英帝国の象徴、
チュードル・ローズを配した絵柄がつくられたのかもしれません。
海の部分のガラスには細かな気泡が混じり、
濃紺とターコイズブルーが不思議なゆらぎとともにせめぎ合っています。
象徴的な図柄、達者な細工とガラスの持つ神秘的な透明感。
人間たちの想いとは裏腹に、
どこか静かな佇まいをみせる一隻の帆船。
15世紀の帆船を、貴方の家という港に停泊させてみてはいかがでしょうか。
by N