プレコ病を知っている方は、まだおりますでしょうか?その昔、日本が90年前半のバブルであった時代、熱帯魚の入荷もすざまじい勢いがあった頃の話ですが、ワイルドで入りたてのプレコには、着状態が悪い時も良くありました。
熱帯魚専門店、特に直輸入を謳い文句にしていた店が乱立していた頃、魚は右から左へ売れてゆくような時代があったのを覚えています。私も学生の頃、そのようなお店に大量入荷があった時に手伝いに行っていたのですが、ある送り先から来る箱の中には数箱、開けた途端に異臭を放つ箱も存在しました。袋を取り出すと、魚は生きている。しかし魚の粘膜液が異常分泌しているのか、水は濁り、魚の皮膚が溶けたような、なんとも形容し難い臭いが漂うのです。そう言う箱は即隔離し、トリートメント水槽を作るのですが、魚体は所々赤くただれ、ヒレもバサバサになった魚が到着します。特徴的なのは皮膚が雲母状にただれ、皮膚が溶けて鉄生臭い強烈な臭いがする事です。
このような症状がプレコに多かった為、すぐについた名前が「プレコ病」でした。細菌系とも、pHショックとも言われ、結局誰もその原因を掴めないまま、毎日数回100%ちかい水を換えたり、エルバージュなどの細菌系の薬を使ったり、高温にしてみたりと、さまざまな方法で治療が試みられましたが、他の魚に広がるのも非常に早く、魚の体力勝負そして時間との勝負の病気でした。実際の生存率は数%だったと思います。
その後ブルーアイプレコでの発症が多くみられたことから、ブルーアイ病とも呼ばれました。後にこのブルーアイ病はリッケチア系の細菌が関与していると言う論文が出ましたが、あいにく細胞内に入り込む細菌に効く薬は無く、対処療法しかないと言われてきました。治った魚はプレコ病のキャリアーとしてずっと隔離飼育をする事が望ましいとも言われました。
プレコ病末期のプラチナロイヤル。皮膚がただれ、溶けたようになり、白い雲母状に患部が全身へ広がって行く。
餌も食べなくなり、目も凹んでしまう。
しかし私が2003年にアラグアイア河の支流、リオ・ド・ペシに行った際、現地で20cm以上のアラグアイアロイヤルを研究用に採取すべく、23-25cmほどのロイヤルプレコを複数匹漁師さんのトロ箱に入れていた時に、一瞬だったのですが、風に乗って「あの」臭いがしました。一瞬疑ったのですが、船の上で日がガンガンに当たるトロ箱の中の真っキンキンのロイヤルプレコを1匹取り出して匂いを嗅いでみました。弱くですが、何とあの皮膚が溶ける臭いがしたのです。この時はショックを受けました。もしかしてワイルドで現地で泳いでいる時から発症しているのか?と本気で思ったからです。しかし、全ての個体を匂って確認してみると、全ての個体が臭くなりかけていたのです。これで100%理解しました。プレコ自身がストレスを受け、そのストレスが皮膚を溶け出すような病気を起こすのだと言う事を。自分が潜って採取したばかりの魚は臭いがしません。トロ箱に入れておいてしばらくすると、臭うのです。過度のストレスから自分で皮膚を溶かしてしまう仮説が立ちました。
その採取旅行では、自分は採って溜めておいたロイヤルを夕食前に解剖し、その後食べてしまったのですが、匂いは少しするにしても、あの雲母状のただれを出す個体は見ませんでした。その時は商業採取に付いて行った旅行でしたので、価格帯的に売筋のSーMの個体達を大きな袋で大量に詰め込み、朝昼晩と1日5-6回は水と酸素を換えながら、何百匹ものプレコを2-3日かけストック場へ運んで行ったのです。採るのは一瞬で簡単ですが、この移動をしながら数日にかけて活かしてストック場まで運び込む大変さを目のあたりにしました。この詰め込まれたチビロイヤル達の臭いは、少々プレコ病の匂いもしましたが、どの個体も元気でストック場でサイズごとに分けられ、状態を上げてから出荷されて行きます。
さて、ストックされて皮膚がただれるほどストレスを受けたプレコ達は、どうやって救えるのだろうか?その旅行から帰った後も、私の中にはそんな疑問が渦巻いていました。私は現地で水質調査をしたわけではないのですが、一番疑われるのがアンモニアです。狭い場所に複数詰め込まれ、水が急激に傷んで行く。この時、酸素量低下や水温上昇、それに伴って何が変わって行くでしょうか?あれだけの粘液等の老廃物を排出し、魚を苦しめうるもの。それは、アンモニアです。プレコ病とはひとえに過度のアンモニアショック、またはアンモニア中毒から来る病気で有る事が推測出来ます。
相手がアンモニアであれば、水換えが効くのは納得できます。そこで実際にこの病気を治すには、どうすれば良いのでしょうか。私はゼオライトを使います。アンモロックやアムクオールなどの液体を使うのも良いのですが、これは入荷したてや一時的に飼育水のアンモニア濃度を下げる時にだけ有効です。魚が白い雲母状のただれを出している時は、ゼオライトでしっかりと出続けるアンモニアを吸着してやる必要があります。調子が良かった水槽でも、混泳魚同士のパワーバランスが崩れたり、メス個体が抱卵して体力が一時的に無くなったりすると、その個体だけプレコ病のような症状を発症する事があります。
飼育水に塩などが入っている場合は速やかに水換えをし、十分な量のゼオライトを入れます。1-2日でゼオライトを取り出し、バケツなどに入れ、塩を入れて吸着したアンモニアを放出させます。ゼオライトは塩の投入で瞬間的にアンモニアを放出するので、何度か塩水に出し入れしてアンモニアを抜きます。その後はきれいな水で濯いで乾燥させてやれば、また次回使用できます。飼育水槽には新しい、または校正の終わったゼオライトを入れ、皮膚のただれが治るまでこれを繰り返します。濾過崩れでアンモニアが高濃度出ることによって発症するケースもあるので、アンモニア試験紙など簡易なものを常備し、疑いがあれば直ぐに測る事をお勧めします。ゆっくりですが、だんだん皮膚のただれが止まり、その下から模様や新しい皮膚が再生されて来るのが見えてきます。餌を食べている個体であれば、結構安心して見ていられますし、治りも早いです。傷ついた時の治りと何ら遜色ない回復を見せるでしょう。
2026年3月15日にうちのドラゴンハイフィンの1匹が吻部に白い雲母状の傷を付けている事に気が付きました。
3月17日です。雲母状のただれが見れます。水槽全体でこの個体だけですが、ケンカも疑います。しかし、各鰭も綺麗な事から、プレコ病、もしくは何らかの原因でアンモニア中毒になっていると判断しました。ゼオライト投入開始です。
3月20日、17日から雲母状のただれは広がらず、皮膚の再現が見られます。この個体は問題無く餌を食べているので、回復もスムーズです。
ゼオライトは1-2日おきに取り替え校正し、交互に取り換えてアンモニア中毒を悪化させないように努めます。
そして3月24日、発見から約1週間で概ね皮膚のただれは見当たらなくなりました。しかしまだゼオライトは抜きません。ゼオライトをもう一回取り換えて様子を見ます。
このドラゴンハイフィンは4月にはすっかり模様も戻り、以前と変わらないほど回復しました。ここでゼオライトでの治療は終了です。
今回この個体は抱卵したことで体力を使い、アンモニアに敏感になった模様と思われます。うちに来た時よりも腹鰭上部の腹部がカサを増し、小さいながらも抱卵し始めたように見られます。
私はプレコ、特にロイヤルプレコはゼオライトと相性が非常に良く、アンモニアに弱いと思っています。プレコ飼育者であれば、このゼオライトとアンモニア試験紙は常備しておきたいアイテムであると思います。
この記事は、今月発売されたアクアライフ7月号にて書かせて頂いた、飼育論の記事に補足する形で載せておこうと思い書きました。












