わが家の有名血統のハイパンシストルスを紹介します。ワイルドも100匹以上居たのですが、停電事件を機に規模を縮小した際、3−4匹を残して出してしまいました。しかし残しておいたスポット柄のサイレントスノウ♂個体が死んでしまい、即戦力の魚は居ません。



それでは


まずはこちら、#5の子です。オリジナルの子で、おそらくワイルドF2。全く化ける事なく、そのまま成長しました。若干の尾筒のまがりと、目と鰓蓋の間が大きく凹んでいることが特徴です。全体にトゲがなく、ツルッとしていますがオスのようで、しょっちゅう土管に入るようになりました。この模様が反転したら、良い感じでしょう。

#5
#5 オリジナル個体、オス個体?



次は#4の個体。ひ孫なので、F3です。ジジババは全てリアルのサラブレッドです。つぶらな黒がちな目が可愛い子で、どうやら女の子のようです。



#4 黒目、メス個体



お次は#3。この子だけリアルです。リアル同士のF2で、お父さんはハニカムのようです。どうやら女の子のようですが、よく土管にも入ります。まだオテンバそうなので、繁殖期に入るには時間がかかりそうです。

#3
#3
#3
#3 メス?




#2といきたいのですが、残念ながら体が大きかったこの個体、さらにガタイの良かった#1に負けて落ちてしまいました。こちらも#3と同じ血統のF2でした。




そしてこちらが#1個体。トゲトゲの♂個体。直系第4セットのF2です。模様表現は#5とほぼ同じで、やはり同じ血を感じます。なぜか狭い土管が好みで、メスを受け入れてくれるのか心配です。子煩悩な良きパパになってくれることに期待。



#1 オス個体








さてリメイクさんを後にすると、今度は北上。あのアクアショップ・finさんです。だいたい年に一度は日本へ帰るようにしているのですが、地元の名古屋の熱帯魚屋さん以外では、まずfinさんにうかがいます。旧店舗時代からご主人の小林さんのセレクションには目を見張るものがありました。まだK2やサビーといった日系ブラジルの業者から、世界初と言われる魚が入荷していたアツい時代に、素晴らしい魚達を見せて頂きました。何より産地の情報の信頼度がネットを通じて格段に上がった事が、それまでの熱帯魚飼育の趣味レベルと違いました。採取業者から直接チャットで産地情報が聞けた時代に入り、熱帯魚飼育が盛り上がった時期でした。とにかく京都のfinさんには、特別個体や特殊なナマズ、特に美しいプレコの入荷には昔から定評が有りました。



このfinの小林さんの偉業は、いち早くから美しいHypancistrusの血統を見い出し、ブリード技術を確立しラインブリーディングを始められた事だと思います。まだリアル表現が遺伝するのか分からないうちからブリードの可能性を検証した事が、現在様々な美キンペコをブリードする趣味の世界につながったと思います。そして運命とも言えるCF血統との出会いが有り、今現在でもこの血統が持つ魅力を引き出し続けています。累代を重ねてなお素晴らしい表現の幅を見せるこの血統は、finさんのブリーディング技術で花開いたと言えます。日本はL236に関してはドイツに遅れをとった感がありましたが、L333のクオリティに関しては世界トップです。世界ではインペのようにどの子供も安定して同じ形質が得られるラインが人気であるのですが、同じ一腹でも生まれてくる子供達が様々な表現を見せる日本のL333には、また違った楽しみ方があると思います。



さて今回は、いつもながらのヒパンキ話の他にも、若い店員さんのシノピーさんを交えてお話が出来ました。私達が伝えられるうちに、こう言った若い世代の方が一緒にこの趣味を広げていく事は非常に重要だと思います。我々が30-40年間培ってきたものが、この先彼等の代でどの様に進化するのかを一緒に見ていける事は、楽しみでしかありません。

また来年1月にも、finさんを訪れる予定ですが、私は個人的にCF血統の家系図が欲しいところです。


さて実はこの夏、我が家では旅行中に停電が起こり、バックアップバッテリーが思ように作動しなくなる事故が有りました。すぐさま知り合いに救助を求め、バッテリーのスイッチを手動で入れて頂いたのですが、デカい親もののプレコを全て殺してしまいました。体がデカい分、酸欠に陥るのが早かったようで、ウチのブリード用の親魚は全て死んでしまいました。先回紹介した10年もののアラグアイアパナクエも居なくなってしまい、急遽水槽の整理をし、120匹のキンペコ、3匹のポリプ、その他諸々を売りに出して再スタートを切りました。プラチナロイヤルとジャマシンのサンダー幼魚、そしてセレクトされたHypancistrusだけに絞り、現在水槽を再編成中です。



そんな最中にも、トカンチンスのボウズロイヤル、ペルーのフォークテールアカリ、そして最近では8年ぶりに入荷のあったドラゴンハイフィンを仲間に加えました。

日本旅行の続きです。

 

広島を後にすると、そのまま京都へ立ち寄りました。京都ではまず、アクアリメイクさんに向かいました。アクアリメイクの菊島さんとは面識は無いものの、アクアリウム・サンクの時から入荷魚が素晴らしく、注目していたお店です。結局サンク時代に訪れそびれてしまい、数年越しにようやく訪問が実現しました。バスを降りてお店を探しましたが、Googleが教えてくれた住所には、熱帯魚屋さんらしきものは皆無。どう見ても普通の民家を道沿いに歩くと、見事に通り過ぎている…。何度見直してもさっぱりだったのでお電話をかけると、大きなお家の玄関が開いて、ご主人が飛び出して来ました。看板も何も無いとは、恐れ入りました。知っている人でなければ入店出来ない営業スタイル。なかなか出来ることではありません。これで商売が成り立っているのですから、ご立派です。

 

さて、中に入ると…そこはもう熱帯。外から着込んで入店するとものの数分で脱ぎたくなるのですが、菊島さんとのお話が止まる訳がありません。リメイクさんのHPを見る限りではキンペコ専門店かと思ったのですが、そこかしこに大型のタンクが置かれ、シクリッドやガーなども充実していてびっくりしました。プレコは流石にキンペコ。しかもワイルドはほぼ居らず、ブリーダーさんからの買い取り個体達がさまざまな水槽に散りばめられて展示販売されていました。HPには個体ごとに掲示されているので、この量の在庫をMix状態でストックしている中から抜き出して販売している現実を見ると、並大抵の情報管理ではありません。私には出来ません。

 

私はリメイクさんを見て、熱帯魚飼育の最先端の形であると確信しました。飼育の先にある、ブリードの世界。かつては金魚や錦鯉、ディスカス、グッピーなど。そして最近ではキンペコをはじめプレコのセレクトブリードがメインとして商売が成り立つ時代になりました。ワイルドの魚に感動し、それを飼育し繁殖を楽しむ。綺麗な個体を系統立ててセレクト。そして累代繁殖してゆき、各ブリーダーがしのぎを削って美を競うように専門店に持ち込むこの一連の流れが、ワイルド個体の搾取を和らげつつも、飼育者や見るものへの意識をその魚の現状や、生息環境の変化に否応がなしに向けさせる事となるでしょう。今ブリードで作出されるメガクラウンゼブラは年々ラインパターンが美しくなり、ひと昔前では考えられない程の普及を遂げています。ワイルドで入手するのはほぼ困難なリアルと言われるラインパターンの個体達は、今や故郷のシングー河を離れたさまざまな国で盛んにブリードされ、取引されています。ネットが繋がれば、看板が無かろうが地方にあろうが関係無い営業形態は、かなりの固定費を削減できるのかも知れません。良い物を届けて、またお客さんが美しい魚を売りに来る。このお店は確実に飼育者を育て、この趣味の広がりを示していると思いました。アクアリウム・サンク時代にはワイルドプレコの入荷ラインナップに心が躍りましたが、今回リメイクさんとなって訪問してみて、ブリードプレコの発展、そして飼育者が行き着くところの正しい形を見せていただく事が出来たと感じました。

かなりひどい写真ですが…








ちょうど10年前の2015年1月、今は無きWB・サビーさんから3匹のアラグアイアロイヤルが、カナダのオリバー経由で送られて来ました。到着時Mサイズの約10cmほどでした。この10年で生き残ったのはこの1匹。今では約25cmに成長しました。この個体は幾度もの停電や留守番など、私のさまざまな実験にも付き合って生き残っています。成長期に思うように育てられなかったこともあり、目が大きくなってしまいましたが、数年前に成長させる方法が軌道に乗り始めた時から体型もラインも、長期飼育個体特有なメタボ体形から劇的に変わりました。また幼少期や、デブっていた頃の写真は折を見て記事にまとめます。とりあえずですがKeiさん、いかがでしょうか?

この2月に出た、ニューインペリアルダップルドとキンペコに学名が付いた論文について、私なりの個人的な感想と考察を書きたいと思います。ニューインペリアルダップルド(L174)がHypancistrus yudja、キンペコ(L66、L236、L333、L399、L400など)がHypancistrus seideliとなりました。Hypancistrus yudjaはシングー流域のボルタ グランデ・ド・シングーに分布するネイティブの一族の名前から命名され、Hypancistrus seideliはドイツのプレコブリーダー、そして愛好家のインゴ・ザイデル氏のキンペコに対するこれまでの功績を称える形で命名されました。

 

原文

 

今回の論文では、この分布図がまずまずの収穫だと思います。白い四角がゼブラプレコ、緑の丸がニューインペリアルダップルド、黄色の三角がその他のキンペコの分布図になります。黒く塗りつぶされた場所がタイプロカリティーになります(ホロタイプが採取された場所)。インペやニューインペリアルダップルドがかなり局所的で(1種類ずつですからね、無理もありませんが)、キンペコはまあ少なく見積もっても4タイプはいるので、かなり広い分布になります。その割に採集地がまばらで、局所的に集中していて、全くサンプルの無い流域もかなりの面積があり、全く網羅していないことが伺えます。何となく黄色の三角の集合を見ていると、4−5の地域に分かれているようにも見えなくはありません。上流部からL66,L236,L 333,L399& L400(L 399とL400は混生しているのは既に知られていますが)の生息域が分かれているとしたら、興味深い分布図に見えます。
 

 


ニューインンペリアルダップルドは36匹のサンプル。その他のキンペコは111匹と、サンプル数はかなりの小規模です(4−5種居るとした場合、1種につきおよそ20数匹ずつの勘定ですね)。キンペコについて言えば、各ボディーパーツを測定したデータ(テーブル#2)のレンジがとても大きく、有意の誤差も大きい事から、今回の記載にはかなり大雑把な分類がなされている事が伺えます。インペやニューダップルドは形質が均一ですから種内で測定のレンジや誤差が少ないのは頷けますが、これだけ地理的にも広い分布を見せ、体型もそれぞれ異なるキンペコを、1種で片付けるのは強引ですね。大人になったサイズが似ているからとか、頭が細長いものや幅広で短い物が居ると言っただけの記述はお粗末感が拭えません。今回文中でキンペコを趣味のレベルで細分化している様に、種として細分化してゆく作業が必要だと述べられてはいますが、実際今の現状を考えるとダムもできてしまい、また業者が移動中に弱った魚を違う場所で放したりした影響で、現在アルタミラ近郊でいくつかの種が混じって存在してしまっている現状があり、過去に遡って標本と分布を考えなくてはいけない事と、それを行なってももう手遅れなほど現状が変わってきてしまっている事が壁となっている様です。Hypancistrusはアマゾン本流に注ぐ大支流の合流点付近に多く生息する事から、これからはダムの影響などが比較的低いこうした各河川の合流点で採取されるHypancistrusのサンプルを随時種として検討してゆく方向になると予定しています。今回のシングー中流から下流域のHypancistrusの遅すぎた記載が教訓となって、次の記載に活かされることを期待するしか無さそうです。今回の論文は、もはやダムの影響で野生個体の確認が出来なくなって来ているニューダップルドの記載と、過去から現在まで精力的にキンペコの繁殖や情報発信に貢献して来たインゴ・ザイデルの功績を讃える為に、とりあえずこの2種を記載した様な印象を受けました。今回の論文でキンペコは、共著者の中でも分類学者のサバジやPYダニエルの得意とする、CTやレントゲンを使ってまでの微細な骨構造の精査を全くしていません。ダムによる生息地の破壊、現在混生してしまっているそれぞれのタイプのキンペコ達、過去の標本の少なさから、そう言った調査が出来ない理由があると見て取れます。

今回、私の記載論文の解析はこんなところです。日本語訳してもあまり収穫は無かったという残念な結果ですが、Dr.ソーサもこれから徐々に情報が発信されるとSNSやYoutubeで言っているので、中下流域のキンペコの分類情報はまだ続くと思われます。

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