それでは、どうぞ。















 


















私が別れを告げた夜、天ちゃんは泣かなかった



天)じゃあ…行くね。

夏)うん。

天)不規則な生活、しちゃダメだよ?

夏)、、うん。



5年間、ずっと天ちゃんのことを愛してた。それは天ちゃんも同じで、私たちは紛れもなく世間一般でいう『恋人』でいられた


それが崩れたのは彼女のたった一度の失敗


浮気だった


私はそれを許すことができなかった。信頼しきってだからこそ、なおさら無理だった



天)……ごめんね、

夏)うん、、大丈夫。

天)もし私があんな事しなかったらさ、まだ恋人でいてくれた?

夏)…。



キャリーケースの持ち手を握りながら、玄関のドアの前で立ち尽くす天ちゃんの問いに、私は答えることができなかった


胸の奥がチクチク痛む。私の気持ちを知ってるくせに、わざとらしく聞いてくる天ちゃんに腹が立ったから



ーーーー



天)夏鈴ちゃんのこと、ずっと守るよ。



ーーーー



天ちゃんは付き合ってから、ずっと私にそう伝えてくれてた。それが嬉しかった。本当に好いてくれてるんだなって自信さえも持てた


なんでだろ、どこで歯車は狂っちゃったのかな…



夏)どうかな、天ちゃんの言葉はいつも軽かったから。

天)っ、

夏)…多分、離れるタイミングが今だったってだけじゃないかな?

天)、、、悲しいな。



本心ではなかった


できることなら私だってずっと天ちゃんといたかったし、一度きりの失敗を許せる自分でいたかった


だから天ちゃんのその絶望に似た表情、思わず気持ちが揺らいでしまいそうになる


絶対に許してはあげないけど



天)夏鈴ちゃんを好きな気持ちに嘘はないよ?

夏)じゃあなんであんな事したの?

天)それは…、

夏)答えられないでしょ?そういうところだって、軽いって言われるの。

天)…ごめん、



『天ちゃんはいつまでここにいるつもりなんだろ』


私の乾ききった心がそんな風に語りかける。今だって本当は天ちゃんが大好きだ。その気持ちに嘘なんか絶対にない


けど…



夏)行きなよ。

天)っ、

夏)私さ、好きじゃない人に時間使いたくないから。



これは心にもない事だったのか


本心を曝け出すのは誰だって怖い。でも今の私は心も頭も麻痺ってて、天ちゃんにどんな酷い言葉を投げても、少しも罪悪感は湧いてこなかった



天)ごめん…行くわ、

夏)、、、うん、元気で。



ギュッ



夏)ちょっと、

天)ずっと好きだよ、、夏鈴ちゃんのこと…ほんとに愛してるからっ、



私に抱きついて来た天ちゃんの体は少し震えていて、すごく暖かかった。抱きしめ返したりはしない。それをしてしまったらきっと天ちゃんの思う壺だから



天)もし私を許す気になってくれたら連絡して…どこにいてもすぐに駆けつけるからさ、、

夏)…。



私はこの先の人生で、天ちゃんを許すことができるだろうか?


分からない。分からないから何も答えてあげない。答えてしまったら、きっと私は天ちゃんを許してしまうから



夏)………軽いよ、



最後に天ちゃんの耳元で呟いた言葉は、多分自分自身に向けた言葉だった
































おわり。