イスマエルによって秘密裏につくられた秘密結社は、どのように資金を集めるかという問題に直面していた。そこで、2016年初め、イスマエルらは秘密結社ではなく政治団体として活動することを決定する。

 

政治団体として世間に公にするためには、団体の名前が必要となってくる。イスマエルらメンバーはパリのアパートの一室に集まり、そこで夜な夜なアイデアを出し合った。格言や文法表現・レトリックを組み合わせた名前案をそれぞれポストイットに書き出していき、その中でついに≪En Marche ! (前進!)≫が生まれたのだ。

 

その頃、エリゼ宮(大統領官邸)ではフランソワ・オランド大統領の2017年大統領選挙に向けた会合が頻繁に行われていた。秘密裏に自身の出馬も計画しているマクロンもその会合に出席していた。会合兼食事会がお開きになった場で、マクロンはオランド大統領を呼び止め、そこでこう切り出した。

 

≪数か月前にちょっと話したかもしれないけど、若者を中心としたシンクタンクを設立することに決めたんだ≫

 

オランドはこう返した。

 

≪素晴らしいじゃないか。頑張ってちょうだい!≫

 

この2人の会話のすぐあとに、マクロンは故郷アミアンで300名の市民やマスコミを集めて、このシンクタンクの設立記者会見を行う。もちろん、マクロンはこの場で自らの大統領選出馬について一切言及しなかった。あくまでも準備段階であったのだ。

 

マクロンの秘密結社が世間に公になった舞台裏で、黒幕たちは資金集めに奔走していた。大統領選出馬のためには2000万ユーロ、日本円にして約26億円必要であった。

 

2016年春、資金集めのための会合が初めて開かれる。そこに30名ほどの有力者が招かれたのだ。エマニュエル・マクロンはまだ当時、経済産業大臣の職にある。よって、この会合は極秘であった。この類の会合はだいたい夜9時ごろから始まり、挨拶、政治団体のプレゼン、質疑応答という45分ほどの短いものだったという。IT企業経営者、投資家、地主、大手企業社長、ヘッドハンター、新興企業家など業界によって別々に会合は行われた。

 

フランスの法律では一個人は年間7500ユーロ(約100万円)までしか政治団体への寄付は認められていない。よって、より多くの協力者を集める必要があったのだ。

 

この会合に出席したある大手旅行会社社長はこう語る。

≪エマニュエル・マクロンが考えていることは、(フランスの富裕層)が考えていることと同じだった。私たち富裕層というのはフランスの問題点や何がうまく機能していないかという点を熟知している。だから彼の言葉に共感したのです。まるで需要と供給が一致したかのように。≫

 

ただ、マクロン側も慎重に協力者を選別していた。というのも、当時マクロンは現職の経済産業大臣の身である。よって経済産業省と利害関係にある協力者は徹底的に調査され、どんなに大口の寄付であろうとも排除していったのだ。

 

マクロンの政治団体En Marche (前進)は1300万ユーロ(17億円)の寄付金を集めることに成功、残りの700万ユーロ(9億円)はマクロン自身のポケットマネーから支払われた。

 

こうして、Le Casse du Siècle(世紀の破壊)の準備が整ったのである。

(続)