4月22日、日曜日、フランス下院の国民議会でLa loi asile et immigration(移民収容法案)が可決された。
7日間、61時間にも及ぶ集中審議は、予算委員会を除いては異例のことで、この議論の過熱ぶりは2013年の同性婚合法化と2014年の産業界の大幅な規制緩和を実現したマクロン法制定時以来だと、ル・モンド紙は報じている。
内務大臣ジェラード・コロンブによって提出されたこの法案は移民保護申請を簡素化・短縮化することと国境付近の移民流入問題を改善することを目的としたものだ。この法案は228名の賛成票(反対139棄権24)で可決された。マクロン大統領が昨年結成した共和党前進と呼ばれる与党グループの議員が賛成票を投じた一方で、右派の共和党や極右政党の国民戦線、さらには、左派の社会党や不服従のフランス党の政治家が反対票を投じた。
この法案は右派の政治家からは甘すぎると、そして左派の政治家からは極めて非人道的だと批判されている。また、マクロン大統領の政権与党内でも賛否両論があり、議会に出席しなかった議員も多く、さらには党結成以来はじめての造反者が出た。今回は現在フランスを揺るがす移民をめぐる法律について詳しく解説していきたいと思う。
そもそも、移民・収容法(La loi asile et immigration)と呼ばれるこの法案の争点はいったい何なのか?
主に4つのポイントがある。
まず、1つ目は移民申請猶予期間を本来の11か月から6か月へと短縮した点だ。この猶予期間の短縮には政府の全く異なる2つの思惑が見え隠れする。まず、人道的な配慮から移民申請者の手続きを簡素化し、彼らに安定した身分を素早く与え保護する目的である。しかし、この猶予期間の短縮は、移民申請者をすばやく本国へ強制送還できる可能性もはらんでいるのだ。実際に今日では4%もの移民申請者が強制送還されている。
2つ目のポイントは移民審査に適さなかった人々の拘留期間の最長を45日から90日へと延長した点である。実際は15日間の延長を3度繰り返せるので135日まで延びることになった。他の受け入れ先のEU加盟国か本国へ強制送還されるまで、この拘留施設で長期にわたり収容することが可能になった。
3つ目のポイントは移民審査に通った人々をこれまで以上に優遇するという点だ。移民審査に通れば10年の難民ビザか1年の付帯的保護ビザのいずれかが貰える。この付帯的保護ビザと呼ばれるものが1年から4年に長くなったのだ。 また、彼らは本国に住む両親だけしかフランスへ呼べなかったが、その兄弟もフランスへ呼び寄せられるようになった。
そして、4つ目のポイントは密入国者に1年の懲役と3750ユーロの罰金を科すというものだ。
マクロン大統領は就任以来、強靭さ(fermeté)と人道(humanité)の二つの言葉を巧みに使い、移民問題に取り組んできた。 これは移民に否定的な保守層と人権問題に敏感なリベラル層の双方を説得するための手段だったのだ。
マクロン政権はこの両陣営間のバランスをとりながらこの法案についての議論を深めていたのだ。
さて、具体的に、右派左派両陣営はこの法案のどの部分を批判しているのだろうか?
右派の保守政治家、特にイギリスに近くドーバー海峡沿いに位置する町カレーや、イタリア国境に隣するアルプス山脈を地盤とする議員らは、この法案では国境地帯の移民流入問題に対処しきれないと批判している。
また、左派の政治家からは移民審査猶予期間の短縮は論外であると批判。というのも、政情不安や迫害にあってフランスへ逃げてきた人々は、ほとんど皆フランス語が話せない。たった6か月間で複雑な移民申請手続きをこなすことなど実質不可能であるというのだ。
そんな彼らはまず、Associationと呼ばれる団体の協力を得て移民保護申請をスタートさせる。2017年は合計10万400名の保護申請があり、この数字は前年の2016年に比べ17%も増えている。それぞれの県庁のOFIIと呼ばれる移民局に彼らが提出した書類は、OFPRA(難民保護事務局)と呼ばれる別の機関に送られ、ここが申請者と面談をして6か月以内にフランスへの滞在を許可するかどうかの判断を下す。先も述べたが、ここで難民認定されると10年のビザが貰え、それに満たない場合は、付帯的保護ビザと呼ばれる1年ビザが与えられていた。
万が一、このOFPRAで移民申請が下りなかった場合、救済措置としてCNDA(移民保護裁判所)と呼ばれる機関に送られる。ここで約5か月後に最終の審判が下されるのだ。この機関でもアウトの場合は強制送還の手続きがとられる。ちなみに2017年は14800人が強制送還され、この数字は前年の2016年に比べて14.6%も増加している。
CNDAでも移民申請が認められず、フランス滞在に必要な書類を保持できなかった場合、行政拘留センターという場所に収容される。この行政拘留センターはいわば、塀で囲まれた刑務所のようなものだ。そして、このような施設は空港の滑走路わきにあったりし、非常に劣悪な環境なので、無実で何の罪もない人々が強制的に拘留されているとリベラル層は批判している。
また、この行政拘留センターの最大の問題は乳幼児を含む子供たちも多く収容されている点だ。昨年にはフランス国内で約300名の子供がこのような施設に収容されていたと言われており、フランス政府はこの問題で、合計6度も欧州人権裁判所に告発されているが、状況は年々悪化するばかりである
さて、この記事を書きながら、ふと思ったことがある。それはこの法案の中で移民と政治難民の区別がきっちりとなされていない点だ。ル・モンド紙の記者マリリン・ボウマード氏もこの点を指摘しており≪政治難民と移民の問題を同時に扱うことは誤解を生み、すでにフランス国民の多くはこの両者の違いについて深く考えていない≫と述べている。
また、所属する政権与党の共和国前進の党議拘束を破り、唯一この法案に反対票を投じたジャン・ミシェル・クレマン議員はTwitterで≪結果的にこの法案は国民戦線(極右政党)にとって最高だろう。移民と難民保護の議論をごちゃまぜにした彼らが勝者だ≫とつぶやいた。
下院である国民議会を通過したこの法案は6月中に上院である元老院に送られ再び議論される。

