米国の連邦最高裁が大学による人種を考慮した入学選考を違憲と判断したことについて、日経で続報が報道されている。日頃ダイバーシティ推進や女性活躍推進の研修を行っている身として、複雑な気持ちだ。

 日本、周回遅れどころか、3周くらい遅れてるじゃないか。

 その前にまず、米国で何が問題になっていて、どこが論点になのか、簡単に整理したい。
 ハーバード大とノースカロライナ大では、いわゆる「アファーマティブアクション(Affirmative Action(AA), 積極的差別是正措置)」が行われている。AAとは、人種・民族や肌の色など、これまで白人に比べて不利な立場にあるとされるマイノリティに対して特別の機会を提供することにより、実質的な機会均等を実現する制度。大学におけるAAとは、具体的には合格者の一定割合をマイノリティに充てる制度である。
 このAAは白人に対する「逆差別」であり、国民の平等な権利を保障する憲法修正第14条に違反すると最高裁が判断した。
 もともとAAは、「差別」されているマイノリティに対する「実質的な機会均等」のための措置。それが違憲ということは、つまりマイノリティに対する「機会均等」は達成された、もう差別されていないから優遇措置は必要ない、なのにAAを続けることは、マジョリティへの「逆差別」になる、という意味に解釈される。
 乱暴に言えば、「米国社会でマイノリティはもう差別されていないのか? 均等な機会を享受しているといえるのか?」が論点であり、それに対して連邦最高裁は「YES」、大学や企業は「Not yet」と反発していると見做せる(米国の生情報にアクセスしていないので、日経だけを読んでの想像だが)。

 もともと、米国におけるAAは、今から60年近く前の1964年に公民権法によって人種差別撤廃・マイノリティ機会均等が法制化された翌年から始まった。1967年には、AAの対象に「性別」が加わえられ、多様な人材の計画的採用・育成・昇進の推進、今でいう「ダイバーシティ推進」の動きが始まった。
 翻って日本のAA(Affirmativeという耳慣れない言葉のかわりにポジティブアクションと呼ぶよらしい)は、少子高齢化による労働力不足という喫緊の課題の打開策として女性活躍、つまり「性別」の観点でのダイバーシティ推進がメインとなっている。その女性活躍も、男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年、私が社会人2年目の年であったことはともかく、米国の性別AAより20年遅れ。スタートが20年遅れていたのである。



 その後、1999年に男女共同参画基本法、2015年に女性活躍推進法、と進んできたが、WEFが発表するジェンダーギャップ指数は、2023年は146ヶ国中125位と過去最低
 そりゃそうだ。20年先をいく欧米は、日本が追い付くまで待っていてくれるはずもなく、着々とマイノリティの人種の人たちや女性やLGBTQ+に対する差別撤廃、機会均等を進めている。
 ちなみに、AAの一つであるクォータ制(取締役人数の一定割合を女性に割り当てることを義務付ける制度)が一定規模以上の企業に導入されている国は、イスラエル(1999年~)、ノルウェー(2003年~)、スペイン(2007年~)など(内閣府、平成23年版男女共同参画白書)。

 日本では、大企業の反対によっていまだに実現していない。ここでもやはり20年遅れである。   …(下)に続く。。。