同窓会の開催頻度が、年を追うごとに増えていく。数ヶ月後のその日、既に予定が入っているわけでもないのに、出欠どちらに〇をつけるか、しばし手が止まることがある。そんな私たちの習性は、洋の東西を問わないらしい。
 「同窓会」と題する、ハーバード・ビジネススクール(HBS)のマーケティング科のデイヴィッド・E・ベル教授からのメッセージは、その心理を辛辣にえぐっている。

 HBSでは、学期末の最後の授業で、教授陣が自らの体験に基づくさまざまなメッセージを学生に贈るのが慣例だそうだ。その語録を集めた「ハーバードからの贈り物(2004年」という本は、当学を卒業する幸運に恵まれなかった私たちに、そのお裾分けをしてくれる。
 その中の一節が、ベル教授であった。「同窓会」に対する彼のアドバイスは明快だ。卒業後、5年、10年、15年と定期的に案内状が届く同窓会へは、

 「行ってはいけない」

 そこで再会する旧友の実績や収入と、自分自身をどうしても比べてしまうのが人の性。他者と比べると、日頃大切にしている自分自身の目標や成功の基準がお留守になる。果ては、同窓会があると思うだけで、意識的あるいは無意識的に、自分の人生の決断が歪む恐れがある、と教授は警告する。友だちの手前、短期間で履歴書にハクがつきそうな仕事を選んだり、すぐに成果の出ない夢や目標を後回しにしたりして、リスクを伴う決断を避けるようになる、というのである。
 だから、同窓会には出るな。潔い発想。

 もちろん、同窓会に出ないだけで、高い夢を実現できるわけではない。必要以上に不安を抱かずキャリア追求のリスクテイクをするための極意を、教授は3つ伝授する。

 ①仕事の見返りとして自分が望んでいるものに忠実であること。
 彼自身は、社会的名声と融通性だったので、研究職を選んだ。裕福になることを望む人は、決して選ばない職業である。
 そういえば自分の就活中、ちゃらちゃらしたミーハー心から、マスコミを受けようかと思った。でも試験問題集を手に取っただけで、リスクテイクする根性がなくなり、エントリーもしなかった。1年上の先輩から「お金が欲しければ金融、有名になりたければマスコミ、権力なら官僚、ヒマが大切ならメーカーよ」と言われ、メーカーを選んだっけ。20代の頃のあの価値観は、今でも変わらない。

 ②成功の意味をあまり狭くしないこと。
 夢や目的があまりに具体的だと、「失敗」のリスクは高まる。教授はイギリスから米国大学院に留学したが、そのときハーバード学長になることだけを目的にしていたら、その可能性の低さとリスクの高さで、留学する気を失っていただろうという。とりあえずの一歩は具体的に、理想は適度に幅を持たせて曖昧に、ということか。
 そういえばメーカーから金融会社に転職するとき、「全く知らない領域の知識をつけてみよう」くらいのノリだった。だから、あのような無謀な決断ができたのかもしれない。

                                  ・・・その2に続く