「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」

宮澤賢治の言葉です。

昔、この言葉が大きく映しだされる舞台の仕事がありました。

先輩が、この言葉が舞台に出ると、

 

「ありえないよ。こんなことありえない。」

と言いました。

僕の顔はその言葉に同意していなかったのだと思います。

先輩は、

「現実的じゃない。人の欲望はそれぞれだよ。

際限がない。」

そんな言葉を口にして、

それからいろいろ理屈を話してくれました。

その理屈がどんなものだったか、今はよく覚えていません。

 

でも、この言葉は僕にはとても大切な言葉です。

世界は繋がっている。

遠く離れていても、同じ地球の上にいて、

同じ空気の繋がりの中にいる・・・

 

今朝はいい天気で、家の周りはとても静かです。

ここは車もめったの通らないので、

時々空を飛ぶ飛行機の音や、

生活音が聞こえてくるだけです。

 

ここは平和です。

人間の営みとは別に地球そのものは、

淡々と生き続けている・・・・・

 

その地球の上で、人が線を引き、奪い合う。

今も、それが地球の反対側で続いている。

この同じ空気の中で。

 

この空気を震わせている争い、殺戮の振動は、

この地球の反対側にまで来ているのじゃなかろうか。

空気の動きは僕の一挙手一投足に

僅かに影響を与えているのかもしれない・・・・

 

それ以上に今は様々な情報が流れてくきます。

私たちの心にどんな影響を与えているのだろう。

 

宮澤賢治の生きた時代には、

戦争があり、関東大震災があり、チフスの流行があり・・・・

情報として、

タイタニック号の沈没事故もあった・・・

 

世界で起きていることが、遠くから地鳴りのように響いてくる。

それを敏感な賢治は、微かな振動も身体全体で受けてめていたのかもしれない・・・・

 

せっかくこの地球に生まれてきた命が、

命を繋ぐためにではなく、ただ奪われる・・・・

 

命がその使命を終える時、別の命に吸収されて、

そこから新しい命が生まれてくるというのが、

この世界が多様性を持って

この地球を彩ってゆく本来の形なんだろう。

 

それを奪う。

空はこんなに青く澄んでいるのに、

雲はあんなにも白く素敵に形を変えながら流れてゆくのに。

緑は美しく、自然は確かに厳しさを持っているし、

人間を特別扱いはしないけれども、

優しく美しい。

この素晴らしい世界の中で、人間は、人間だけの理屈で、

破壊し奪い合い、殺し合う。

 

多くの人は望んでいないのに。

人の理屈が、鬼を生み出してしまう。

心が鬼になっているのに、その人は気づかない。

理屈が心を押しつぶしてしまうのか・・・・

 

武器では平和は作り出せない

武器でほんとうの解決はできない

武器は武器を生み争いの種を生み続ける

 

鬼の心を持っている人が

人の心を取り戻してくれることを願う。

 

舞台は、心を持っている人はより強くそれを持ち、

心を失っている人は心を取り戻すためにあるといい。