2015年の重大古生物ニュース | 化石の日々

化石の日々

オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。


(イメージ/足成より)


あっという間の2015年でした。
今年は、NHKの『生命大躍進』と科博での『生命大躍進展』があり、
映画『JURASSIC WORLD』の公開があり、
いろいろと、研究発表外のニュースが多かったような気がします。

当オフィスでは、twitter を通じて、今年も地質や古生物関する和文ニュースを紹介してきました。その中から、今年も土屋個人として「覚えておきたいな」と思った古生物ニュースを簡単(今年は忙しいので)に紹介しておきたいと思います。
例年のことですが、以下はあくまでも個人的見解です。また、以下の「●月」という表記は、ツイートした時期で、必ずしも論文発表とは一致しませんので、あらかじめ、ご承知ください。


3月 
オルドビス紀のアノマロカリス類は、濾過食者!?
アノマロカリス類の新種がモロッコのオルドビス紀の地層から発見されました。アノマロカリス類といえば、カンブリア紀のものが有名ですが、これまでにオルドビス紀以降から報告がなかったわけではありません。ただし、その詳細は未定でした。
新たなアノマロカリス類には、Aegirocassis benmoulae という学名がつきました。アノマロカリス類の新属新種です。推定全長は2mで、濾過食者だったのではないか、とされています。学名がついたことで、無視できない存在となりましたね(^^;
この化石が報告されたモロッコのFezouata Fromationは、「カンブリア紀の生き残り」といっても良いコたちがみつかっています。2016年も注目の地層です。
なお、Fezouata Formationに関しては、拙著 
オルドビス紀・シルル紀の生物  もご参考にされてください。
Aegirocassis benmoulae に関しては、拙著 「もしも?」の図鑑 古生物の飼い方 にも簡単な解説を書いています。


4月 
ブロントサウルス、復活か?
Brontosaurus という恐竜は、首と尾の長い四足の植物食恐竜グループである「竜脚類」の代表として、長い間親しみをもって知られていました。おそらく一定以上の年齢層のみなさんは、「子供の頃の恐竜図鑑には必ず載っていた」というご記憶をおもちの方も多いと思います。
しかし、近年は Apatosaurus と同種とされ、Apatosaurus の方が先に名づけられていたことから、Brontosaurus の名前を抹消、Apatosaurus に統一するという方向で、一般向けの図鑑も進んでいました(先取権の原則)。
ところが再研究によって、Brontosaurus Apatosaurus とはやっぱり異なる恐竜である、という指摘がなされました。この指摘が正しければ、Brontosaurus という名前が再び復活することになります。図鑑などに携わるみなさん(私も含まれますが)には、今後の同行と取り扱いが注意な恐竜です。
Brontosaurus ”抹消” のお話に関しては、拙著 ジュラ紀の生物  や、大人のための「恐竜学」 もご参考に。


皮膜をもつ恐竜化石を発見
中国河北省のジュラ紀の地層から、「皮膜(飛膜)」の痕跡のある恐竜化石が発見され、「 Yi qi 」と名づけられました。
これまで知られていた恐竜の“翼”といえば、それが飛行用かどうかは別として、鳥類と同じ羽根でできたものでした。近年の恐竜の「鳥っぽい復元」は、まさにこのトレンドにのったものです。
しかし、Yi qi の化石の両手首からは細い杖のような骨がのび、その骨と手の間に皮膜が保存されていました。まるで翼竜のそれのような翼です。この化石を報告した研究者は、この皮膜製の翼を使って、Yi qi  は飛行をすることができたとみています。
こうした“既存の概念”を崩すような発見。楽しいですね。


6月 
ハルキゲニアに眼と口を発見
カナダ・カンブリア紀の愛すべき“小動物” Hallucigenia sparsa についての新知見です。これまで、眼も口も確認されていなかった彼ですが、新研究によって眼があり、ずらりと喉の奥に並ぶ歯(つまり口)が確認されました。
なんとなく「ほわっと」していた頭部の位置が、これで確定したことになります。
Hallucigenia 属には他にも中国の H. fortis がいて、こちらでは以前より眼が指摘されていました。両種の復元された姿がだいぶかわってきたので、そろそろ図鑑などで「ハルキゲニア」として、一つの絵で紹介するのは限界かもしれませんね。
なお、Hallucigenia は、その復元が紆余曲折を経てきたことでもよく知られています。そのあたりのお話が気になる方は、拙著 エディアカラ紀・カンブリア紀の生物  をご参考に。



9月 
最古のウミサソリ類は、全長1.8m!
古生代を代表する節足動物の一つ、ウミサソリ類。その最も古いとされる化石が発見されました。
アメリカのオルドビス紀中期の地層から発見されたその化石には、Pentacopterus decorahensis という学名がつけられました。新属新種です。その大きさは1.8m。当時の動物としては、大型なコです。
オルドビス紀のウミサソリ類としては、Megalograptus がよく知られています。しかし、その大きさは50cmほどです。これでも当時の海では大型の部類なので、Pentacopterus の存在感がいかほどか、ということになります。
ウミサソリ類は実に機能美あふれる存在で、プレ・魚類時代の代表的な“海の強者”として、個人的に注目しています。


ツノガイ、数週間で化石に!
生物が死んで化石になるまでに、どれほどの時間がかかるのか?
これまでは、とてつもなく長い時間がかかって、ようやく化石になると考えられてました。しかし、新たな研究によって、ツノガイが数週間ほどで化石化していたことが指摘されました。
ここでいう「化石化」とは、生物体を包み込む「ノジュール」という岩塊が完成したことを指します。
生物にもいろいろと種類が異なりますし、成分も異なります。ノジュールにしても、場所によってその生成環境が異なります。
したがって、この発見が「一般解」となるかどうかは、現段階ではわかりません。
しかし、これまでの常識を覆すような短期間の研究結果は、衝撃でした。


新種の人類? ホモ・ナレディ
南アフリカで発見された人類化石が新種の Homo naledi であるかどうかということで、議論が起きています。
発見された化石は、すばらしく保存状態の良いもので、実際、その写真をみると惚れ惚れとしてしまいます。
しかし、それが新種であるかどうかというのは別の問題。
Homo naledi は私たち現生人類(Homo sapiens)を含む Homo 属の原始的な存在で、Homo 属以前の特徴も持ち合わせている、とされています。
しかし、化石の年代が今ひとつあやふやで、また新種であるかどうかについても疑義が指摘されています。今後の展開が気になる人類です。



10月 
キリンの首は、2段階で長くなった
「首の長い哺乳類」の代名詞でもあるキリン。
その首は、いつから長くなったのか。どのように長くなったのか。そんな研究です。
キリンの仲間たちの首は、1600万年以上前から頚骨の上の部分が長くなりはじめ、その後、遅くても100万年前には下の部分も長くなりはじめたことがわかりました。
また、現生キリン類の仲間には、オカピのように「首が短いキリン類」もいます。オカピは、“原始的なキリン類”の姿を示す好例として知られていたのですが、実は「長くなりかけた首が、2次的に短くなった」ことが指摘されました。
キリンのお話は、何かというと話す機会が多いので、この研究は一つの話題になると思います。来夏刊行予定本に、もう少し詳しいお話にして収録したいと思います。



11月 
冷凍ホラアナライオン(しかも幼体)を発見
論文が出たものではありませんが、結構、衝撃的だったので、個人的には重大ニュースです(^^;
冷凍マンモスや冷凍ケサイは知られていますが、冷凍ホラアナライオンというのは初めて見ました。しかも幼体で、その保存は完璧。「さっき寝た」というような状態でまんま凍ってました。現時点で記者発表レベルですが、今後の続報に期待が高まります。来夏刊行予定本に、標本画像を収録する方向で編集さんと進めています。



12月 
北海道むかわ町のモササウルス類は「世界屈指」
「むかわ町穂別」といえば、近年、恐竜発掘で露出が増えてきた町です。そんなむかわ町で発見されたモササウルス類の化石が、新種であり、しかもモササウルス類で初めて「両眼視」が確認され、さらに「夜行性」であった可能性が指摘されました。『JURASSIC WORLD』で大きく(いろんな意味で)登場したモササウルス類についての新知見です。





みなさんが「重大」と感じられたのは、どんなニュースだったでしょう?
来年も、古生物学の新たな研究成果が楽しみですね。
当オフィスでは、twitterを通じて和文ニュースを拾いだし、
また、さまざまな媒体でそうした研究成果を報じていきたいと思います。

同時に、これまでの研究成果で「大きく報道されていなかったけれども、実はオモシロい」話題にも、引き続き注目していきます。

みなさん、2015年もおつきあいくださり、本当にありがとうございました。
良いお年をお迎えくださいませ。





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ほかにもイロイロ。2015年のご褒美と2016年の起爆剤にいかがですか?