2024年03月21日14時57分 配信
金相場は過去最高値更新、FOMC以外にも地殻変動

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 金相場は過去最高値更新、FOMC以外にも地殻変動が起きている
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<金相場の上昇トレンドを追認したFOMC>
3月19~20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を経て、COMEX金先物相場は改めて過去最高値を更新する展開になった。FOMCの政策が発表される直前の20日終値は1オンス=2,161.00ドルだったが、FOMCの内容が伝わった後のアジアタイム早朝には一時2,225.30ドルまで値上がりしている。3月8日に2,203.00ドルまで上昇した後は上げ一服となったが、約2週間の時間を経て、改めて過去最高値を更新している。上昇トレンドが持続中であることが確認できる。

FOMC後の値動きとしては、2,160ドルから2,190ドル水準まで概ね30ドル急伸したのが当初の反応だった。その後はじり高の展開で2,200ドルの節目に到達すると、出来高の急増を伴った急伸地合になり、その時に高値2,161.00ドルを付けている。2,200ドルにストップロスの売りや新規買いのトリガーがかなり大量に設定されていたことが窺える値動きになっている。一方、その後は利食い売りで2,200ドルを割り込んだ局面で再び出来高の急増が確認されており、2,200ドルの節目を抵抗線から支持線に転換できるかを打診する局面になっている模様だ。

【COMEX金先物相場(日足)】
FOMCの結果だが、結論としては米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ着手に対する信頼感が改めて高まったことが、米金利低下・ドル安連動で金相場を押し上げたといえる。最も注目されており、かつ予想が難しかったのが米金融当局者のフェデラル・ファンド(FF)金利見通しだが、2024年は4.6%(昨年12月時点は4.6%)、25年は3.9%(同3.6%)、26年は3.1%(同2.9%)とされた。これは24年中に3回の利下げを想定していることを意味する。25年と26年については利下げ回数がそれぞれ1回分減らされているが、全体としては利下げに対する積極姿勢を維持したと評価できる。

1月と2月のインフレ指標が強めだったことで、PCEデフレーターの2024年見通しは昨年12月2.4%から2.6%まで引き上げられている。こうした動きからは利下げ回数を2回に減らすといった対応があっても違和感がなかっただけに、FRBの利下げサイクル入りに対する自信の強さが窺える結果になったといえる。

ドット・プロットでみてみると19人中で4回利下げが1人、3回利下げが9人、2回利下げが5人となっている。昨年12月時点では4回利下げが4人、3回利下げが6人、2回利下げが5人だったため、過去3ヵ月で3回利下げ見通しに意見が集約されつつあることが窺える。ドット・プロットを前提にすれば、2024年は3回利下げを47.4%、2回利下げを26.3%の確率で織り込むことが支持される。そして、当面はこうした金利見通しに沿った相場展開が基本になる。

CMEのFedWachだと6月利下げを74.9%の確率で織り込んでいる。2月消費者物価指数が強めの数値になったことを受けて、6月利下げに対しては懐疑的な見方も再浮上していたが、今回のFOMCで改めて6月初回利下げをメイシナリオに設定することになる。そして年末までの利下げ回数は3回が33.6%、4回が31.5%、5回が17.1%を織り込んでいる。ドット・プロットと比較すると若干利下げの織り込みが過熱化しているが、3月時点であることを考慮すれば大規模な調整圧力が求められる環境にはない。米金融当局者の現時点での見通しとマーケットの織り込み状況に大きな乖離が生じている訳ではなく、2,200ドル台は通常の相場環境として受け入れ可能な環境になっている。

パウエルFRB議長の記者会見では、「かなり早い時期に(バランスシートの)縮小ペースを鈍化させることが適切になる」と指摘されたこともポジティブ。まだ具体的な時期については明示されていないが、最短で4月30日~5月1日の次回会合において、バランスシート縮小ペース鈍化が発表される可能性がある。利下げに先行して量的引き締め(QT)を停止する流れが想定されている可能性が高い。こうした動きも、金利とは別の視点から金相場を下支えすることになるだろう。

年初からの傾向として、米金利動向と比較して金相場は底固い展開を見せている。それでも米金利上昇・ドル高局面では売られやすく、米金利低下・ドル安局面では買われやすい基本環境に変化は見られない。今回のFOMCで米金利上昇・ドル高圧力に終止符を打つことができれば、利下げを先取りする形でのコアレンジ切り上げが正当化される。未経験の価格ゾーンのため、2,200ドルの次は2,250ドル、2,300ドルと乱暴な議論になりやすい。

【米金融当局者のFF金利見通し】
<FOMCだけではない3月の金市場の大きな変化>
一方、足もとではFOMCの影に隠れた格好だが、金市場の資金フローに大きな変化が生じ始めている。最大の金上場投資信託(ETF)「SPDR GOLS SHARES」の投資残高が大きく上昇し始めているのだ。3月8日時点では815.13トンだったが、15日には14.98トン増え、その後は18日が1.48トン増、19日が4.03トン増、20日が1.15トン増となっている。

1月が27.96トン減、2月が28.24トン減だったのに対して、3月は20日時点で15.59トン増となっている。まだ基調転換が実現したとまでは断定できないが、これまで金価格が高騰してもETF残高は一貫して減少していたため、仮に売却が止まるだけでも大きな変化であり、買い越しに転じると金需給の形式が一変することになる。FOMCをきっかけに、機関投資家の金投資スタンスが更に大きな変化を見せるのか、今後数日の金ETF残高の動向は重要である。

中国市場では3月入りしてから明らかに金現物投資ニーズの水準が切り上がっており、価格上昇局面でも買い控えといった動きは確認できない。逆に先高観から買い急ぐような動きさえ観測されている。金相場の高騰局面で金ETFからの供給が途絶えて買い手に転換し、中国現物需要も一向に衰えないのであれば、需給要因からも金価格の高騰が支持されることになる。短期目線では米金融政策見通し、それに呼応する米金利・ドルの動向に強く反応するが、それとは異なるマクロ環境の地殻変動も、金相場の高騰を支持しよう。従来の常識とは異なる論理で金価格の高値形成が促され始めている。

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