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南アフリカPGM鉱山部門の苦悩、業界団体は現金燃焼を報告
2024年02月07日19時19分 配信

南アフリカPGM鉱山部門の苦悩、業界団体は現金燃焼を報告
小菅努のコモディティ分析 ~商品アナリストが読み解く「資源時代」~

<南ア業界団体は、PGM鉱山会社の資金燃焼を報告>

NYMEXプラチナ先物相場は1オンス=900ドル水準で下値を支えられる一方、本格的な上昇再開は見送られる不安定な値動きが続いている。金相場が2,000ドル台でボックス相場を形成している影響もあり、プラチナ相場もトレンドが定まっているとは言い難い。ただし、900ドル割れに対しては昨年に続いて抵抗を見せており、900ドルを割り込むような場面では、ファンドの物色意欲が強まる傾向にある。

その要因の一つがコスト環境であることは間違いないだろう。南アフリカ鉱業カウンシルが年次報告を行っているが、それによると2023年の鉱業部門の投入コストは前年比で8.6%上昇となった。22年の13.8%からは伸び率が鈍化したが、それでも21年の8.1%上昇、20年の6.0%上昇、19年の8.1%上昇などと比較すると、強めのコスト高圧力が発生していることが確認できる。

【南アフリカ鉱業部門投入コスト(前年比)】

特に23年8月以降はコモディティ価格の軟化傾向も強くなったことで、白金族貴金属(PGM)の主要鉱山会社の一部が資金燃焼(cash burning)状態に陥ったことが指摘されている。23年のPGMの平均価格は、ドル建てでプラチナが1.2%高、パラジウムが36.1%安、ロジウムが56.5%安、イリジウムが5.1%高、ルテニウムが15.8%安となっている。コスト高とPGM価格安が同時進行したことが、鉱山会社の経営環境を急激に悪化させている。

プラチナは、地下鉱における操業が主流のために、元々が高コスト環境にある。労働集約型の産業とあって、機械化や設備近代化によるコスト削減効果が乏しく、容易にコストを削減できない環境にある。高インフレ環境において人件費の高騰は避けられないだけに、既に人員削減の動きが始まっている。PGM部門の労働者は18万1,806人と報告されているが、その内の4,000~7,000人の雇用が影響を受ける可能性が指摘されている。

また、人件費と並ぶコスト要因が電力価格だが、電力料金の高騰問題の直撃を受けている。そもそも電力供給量も22年の電力供給施設の爆破事故から大きく立ち直っていない。新たな電力施設の稼働、再生可能燃料への移行といった対策も講じられているが、10~12月期のデータで言えば事故直後の電力供給量と殆ど変わっていない。

【南アフリカ電力供給(前年比)】

鉄道輸送の問題も解決されなかった。南アフリカの鉄道輸送は国営の貨物輸送会社トランスネットが担っているが、大規模な銅線ケーブルの盗難、車両不足などの影響で、鉄道輸送が混乱状態にある。汚職で車両購入に多額のリベートが上乗せされ、しかも納車が十分に行われていない。特に影響を受けているのは石炭部門だが、南アフリカの鉱業セクター全体の問題になっており、鉱山と港湾との物流の混乱、コスト高が深刻化している。今後はPGM価格の下落と投入コスト高を受けてのリストラの必要性が訴えられている。

こうした鉱山会社の経営環境の厳しさからは、PGM価格が回復するか、大規模なリストラで投入コストそのものを抑制していくことが求められよう。昨年の段階でアングロ・プラチナを筆頭に2024年の生産調整、リストラ計画が打ち出されているが、このままPGM価格の早期回復見通しが立たないのであれば、供給サイドからの需給引き締め圧力が強まり始める価格水準とみて問題ないだろう。少なくとも中長期スパンであれば、900ドル水準のプラチナ相場は買い妙味が大きい。需要不安などで急落することがあると、より大規模なリストラが始まる可能性が高い。

<膨張した投機筋の売りポジションの行方>

短期目線では、引き続き米金融政策環境と、それを受けての米金利・ドルの動向が重視されている。中国経済の減速懸念が非鉄金属相場の上値を圧迫していることはネガティブだが、工業用金属目線で積極的な売買は行われていない。

金相場と同様に、米経済の底固さから米金融当局者が利下げ開始に慎重なスタンスを示していることが上値を圧迫するが、5~6月の利下げ開始見通しは維持されており、緩やかな上昇地合が支持される環境が続く。米経済の底固さを背景としたプラチナ相場買いといった動きはみられない。

米商品先物取引委員会(CFTC)によると、年初からファンドは4週連続で売りポジションの積み増しを進めていたが、1月30日の週は5週間ぶりに売りポジションが減少に転じた。一方、買いポジションは昨年末の4万4,404枚に対して4万3,818枚まで小幅減少している。

1月の軟調地合はファンドが戻り売り圧力を強めた結果であり、引き続き下げ一服感をショートカバー(買い戻し)の動きに発展させることができるかが焦点になる。金相場とは異なり、売りポジションの規模が拡大しているだけに、突発的な上昇リスクは高めの地合になる。50ドル単位の値幅が重視されているため、950ドルを上抜くと底入れ感が更に強化されることになる。