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FOMC後の金投資環境、慎重な利下げ見通しで慎重に2,100ドル台を打診 2024年02月02日15時02分 配信

<3月利下げ否定のショック限定的、地合改善が進む>

COMEX金先物相場は1オンス=2,070ドル台まで値上がりし、中心限月ベースだと概ね年初の相場水準を回復している。今年は年初から利下げの織り込みの過熱感が材料視され、金相場は年初の2,072.70ドルに対して1月25日には2,004.00ドルまで下落していた。米長期金利は3.9%水準から4.2%水準まで約0.3%上昇し、それが金相場を70ドル近く押し下げた計算になる。

しかし、既にこうした米金利上昇圧力は一服しており、特に30~31日に開催された今年最初の米連邦公開市場委員会(FOMC)と前後して米長期金利が3.9%水準まで戻したことが、金相場の反発を促している。年初からの金相場の傾向としては、ドルインデックスより米長期金利との逆相関関係が強く、当面は金利低下圧力を見ながらの展開が続く可能性が高い。

1月30~31日のFOMCだが、総じて事前に想定されていた通りの内容と言えよう。フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は5.25~5.50%で据え置かれている。焦点は今後の金融政策環境だが、マーケットの関心が依然として高い3月利下げの可能性については、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長がかなり強めのトーンで否定している。議長は、「3月までに(利下げ)確信する水準を達成する可能性があると考えていない」として、利下げ判断に必要なデータは次回3月19~20日の会合までに入手することは難しいとの認識を示している。また、今回の会合では「利下げの提案がなかった」ことも確認しており、十分に議論は煮詰まっていないとの認識が示されている。

マーケットは依然として3月利下げの可能性を完全に排除せず、CMEのFedWatchだと37.0%の確率で利下げを織り込んでいる。こうした状況では、3月に向けて何度か過熱感解消の調整売りが膨らむリスクを想定しておく必要がある。しかし、3月利下げがないことは今回のFOMCで事実上決着がついており、金相場が大きく値を崩すリスクは後退している。

実際に今回のFOMCを受けて、バークレイズやBofA、ゴールドマン・サックスといった大手金融機関も相次いで3月利下げ見通しを取り下げ、初回利下げ時期を5~6月に先送りしている。パウエルFRB議長は利下げ時期について「年内」と漠然とした表現に留めているが、昨年13月の当局者の金利見通しからみても、5~6月に初回利下げを実施し、その後は慎重に複数回の利下げを打診する方向性を想定するのがだとうだろう。

<初回利下げは5~6月、慎重な利下げが金価格を押し上げる>

今回のFOMCでは3月利下げの可能性を事実上排除した一方、利上げ終了から利下げに向かう方向性については、逆に強化されている。声明文では、追加引き締めに関する文言が削除され、もはや追加利上げの可能性については完全に排除されたとみてよいだろう。これまでになかった「雇用とインフレ率の目標達成に対するリスクのバランスが改善しつつある」として、利上げ政策が一定の目標を達したと評価していることが示唆されている。

一方で、利下げについては「委員会は、インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信がさらに強まるまで、目標誘導レンジの引き下げが適切になるとは予想していない」と、条件を示した格好になる。具体的な数値目標までは設定されていないが、パウエルFRB議長もインフレが依然として目標(=2%)を上回っていることを指摘し、「利下げ前に更なる確信が必要」、「目標回帰を確信するには、持続的な確証を得る必要」があるとの認識を示している。この確信や確証を得るための条件については明らかにされていないが、少なくとも直近の12月PCEコアデフレーターの前年比2.9%は不十分であり、3月FOMC前に発表される1月データでも確信が得られることは難しいとみている模様だ。

もちろんPCEコアデフレーターの2%到達を待つことはないとみられるが、少なくとも更に目標の2%に向けてディスインフレが進むとのもう一段階高いレベルの動きを見て、利下げに着手する流れになる。

ただし、PCEコアデフレーターの6カ月年率換算だと11月と12月はともに1.9%上昇であり、現在のトレンドが維持されるとインフレ目標達成は十分に見通せる状況にある。PCEコアデフレーターの発表は3月会合で1回(=1月分まで)だが、5月会合だと3回(=3月分まで)入手可能になる。過去3カ月でPCEコアデフレーターの伸び率が0.8%低下したような勢いは想定されていないが、現状よりも更に目標に近づいていれば、5月、おそくても6月には初回利下げに踏み切ることが可能になる。

マーケットが年末までに1.50%もの利下げを織り込んでいる以上、今後も利下げ織り込みの過熱状態を巡る問題は何度か金相場を下押しする場面がみられよう。実際には年内4回程度の利下げに留まる見通しであり、6回もの利下げ織り込みは過熱状態にある。

最近の米長期金利とドルとの関係性だと、米長期金利が0.1%強低下すると、金相場は2,100ドル台へのレンジ切り上げが可能になる。米長期金利が昨年12月27日の3.783%を下抜いていくタイミングで2,100ドル台を過熱感なく達成することが可能になる。世界各国で利下げのタイミングを巡る議論が活発化していることでドルの値動きは不安定化しやすいが、ディスインフレや雇用鈍化の兆候をデータで確認しつつ、慎重にレンジを切り上げていく展開が続こう。

金相場の2,100ドル台は昨年12月4日の過去1日しか経験したことがなく、同日に過去最高値2,152.30ドルを付けている。年初の調整局面でも2,000ドル割れは回避されており、2,100ドル台では改めて投機筋の物色意欲が強まる見通しにある。地政学リスクが重層的な広がりを見せていること、米地方銀行の経営不安が再浮上していることにも注意が必要だが、米金融政策要因だけでも強含みの展開が続こう。