900ドルのプラチナ相場は買い場、需要への供給対応が難しい値位置


2024年01月23日19時52分 背信

900ドルのプラチナ相場は買い場、需要への供給対応が難しい値位置

投資は自己責任で

<年初から利下げ織り込みの過熱感を解消する動き>

NYMEXプラチナ先物相場は、昨年12月28日に1オンス=1,031.00ドルまで値上がりして同6月8日以来の高値を更新したが、2024年入り後は調整売りが上値を抑え、辛うじて900ドルの節目水準でサポートされる展開になっている


基本的な相場ロジックは金相場と共通しており、マーケットの利下げ織り込みの過熱感を解消する動きが、米金利上昇・ドル高と連動して貴金属相場を押し下げている。直近高値1,031.00ドルを付けたのも、主な要因としては2024年の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを織り込む動きだったため、そうした動きの過熱感が強まったことに対する調整局面との評価になる。FRBが利下げに向かう見通しには変わりがないが、3月利下げが実現する条件は厳しく、今後も過熱感解消の調整売りをこなしながら、値固めを進めていくフェーズになろう。


米商品先物取引委員会(CFTC)によると、ファンドは過去2週連続で買いポジションを縮小、3週連続で売りポジションを拡大しているが、相場変動要因としては41%がファンドの利食い売り、59%がファンドの新規売りになる。昨年8~11月に見られたような本格的な売り圧力は見られないが、短期の値下がりを狙った売りポジション構築の動きがみられたことが値下がりペースの加速を促す一方、これが今後のショートカバー(買い戻し)による相場反発の原動力になることが予想される。


<生産コストの成約を無視した値下がりは続かない>

プラチナの独自材料としては、引き続き供給制約の強さに注目すべきだろう。パラジウム相場は昨年安値を既に下抜いており、プラチナ、パラジウム、ロジウムで構成される白金族貴金属(PGM)バスケット価格は生産コストの限界ラインに到達していることが推測されている。それは、昨年にアングロ・アメリカンが2024年と25年の生産ガイダンスを引き下げたことで確信に変わっている。低収益の鉱区の操業を維持することができない環境になっており、同社のみでもPGM生産は30万オンス規模減少するが、同社の生産構造からはパラジウムよりプラチナの減産量の方が大きくなる見通しにある。


年初から鉱山各社から追加の生産調整の動きなどは報告されていないが、これから南アフリカのプラチナ供給は大規模な電力供給障害が発生しない前提の下でも減少することになり、需要への対応に不確実性が高まる。


特に、中国は必要以上のプラチナ輸入を行っており、欧米の地上在庫のタイト感が強くなっている。中国国内のプラチナ需給に関しては詳細な統計を得られていないが、国内の排ガス規制強化の動き、戦略物資の備蓄増強の動き、更には単純な値頃感からプラチナの買い占めを行っているとみられる。こうした状況で南アフリカなどの生産調整が始まると、欧米でプラチナ需給の引き締まりが価格上昇を促すリスクが高まることになる。鉱山会社の減産対応のペースにも依存するが、最短で数カ月でプラチナ価格への影響が顕在化する可能性がある。

【NYMEXプラチナ先物相場(日足)】


<マクロ需給環境の目線では下げ過ぎの評価>

需要サイドでは、自動車メーカー各社の電気自動車(EV)生産計画が未達になるなど、EVの普及が想定されていた程に進まず、ハイブリッドやプラグインハイブリッドなどの環境車の人気が相対的に高まったことはポジティブ。世界的な利下げを巡る動きもあって、自動車排ガス向け触媒需要は大きく落ち込まない可能性が高まっている。また、排ガス規制強化、メーカーの自主対応が強化されていることも、プラチナ需要を下支えする見通しになっている。


パラジウムに対するプラチナの割安感は薄れてきているが、現時点ではパラジウムからプラチナへの代替需要発生の動きに変化は生じない見通し。価格の問題に加えて、パラジウムは引き続きロシア産依存のリスクが高く、触媒用貴金属としての位置づけが2022年以降に大きく変わっている。今年のプラチナ自動車触媒用需要は、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシルが昨年11月報告で前年比48.7万オンス減の766.3万オンスとの見通しを示しているが、もう少し強めの数値で着地できる可能性が浮上している。


長期的には電気自動車の普及が進む見通しには変わりがないが、普及曲線に関しては下向きの修正圧力が強くなっており、その分だけプラチナは水素や燃料電池などクリーンエネルギー分野での需要創出のための時間を稼ぐことができよう。


WPICは2024年の世界プラチナ需給が35.3万オンスの供給不足と、23年の107.1万オンス程ではないものの、2年連続の供給不足を見込んでいる。価格低下による供給制約の強まり、EV普及の遅れによる需要悪化リスクの後退を受けて、マクロ需給要因ではプラチナ相場の900ドル水準は底値圏との評価が維持される。こうしたマクロ需給要因で短期の値動きが規定されることはないが、米利下げ織り込みの過熱感解消が進めば、こうしたマクロ需給環境が相場反発のテーマとされる可能性が高い。最近の傾向として50ドル刻みの値動きになるため、900dドル水準でのサポートから950ドルを突破すると、1,000ドル台回復が見えてこよう。