②キプロス情報です。

「週末は小幅連騰、キプロス問題で週明け1600ドル台回復」(2013年3月18日記)

週末3月15日のNY市場の金価格は、小幅続伸となった。前日比1.90ドル高の1592.60ドルで取引を終了した。1600ドル手前での膠着状態が続いているが、金ETFからの資金流出が続いている割には値を保っているといえる。

市場の関心は、今週19、20日に開かれるFOMC(連邦公開市場委員会)に集約されている。今回のFOMCでも現在実施されている毎月850億ドル(住宅ローン担保証券400億ドル+米国債450億ドル)の証券買い付け(=市場への資金供給)いわゆるQE3の継続は賛成多数で確認されそうだ。問題は、この買い取り策の終息の方策を話し合う予定があること。このところFRB内部でも拡大一方の資金供給についてインフレやその他副作用を懸念する声が高まっているのも事実で、一定のコンセンサス(共通認識)を作っておこうという試みと思われる。その内容が終了後に発表される声明文やバーナンキ議長の記者会見でどのように謳われ、説明されるかがポイントになる。内容如何により金価格は、上げ、下げ両サイドに振れる可能性がある。

週末を挟んで飛び出したのが、金融危機の救済を巡って話し合が行われてきたキプロスを巡る処理の問題。ギリシャへの債務免除に関連して金融機関が不良債権を抱え金融危機に陥ったキプロス救済措置が週末16日に決まり総額100億ユーロ(約1兆2000億円)が支援されることになった。ところがその条件のひとつにキプロス国内の全銀行預金への課税が含まれたことから波乱の様相を帯びてきた。10万ユーロ以下の預金には6.75%、10万ユーロ以上の預金には9.90%とされ、キプロス議会が本日この申し出を批准すると19日の金融機関の開店時までに自動的に引き落とされることになった。というのも本日18日は休みとなっていることによる。1回限りの特別課税とは表現するものの、実質的には預金カットであり、支援を行うにあたり預金者にも相応の負担を求めるということだが、一般預金者を中心に反発の動きが強い。この週末はATMに人が殺到しカラになり引き出し不能になったと伝えられている。

ユーロ圏の中でのキプロスの経済規模はわずかに0.2%に過ぎない。それでもユーロ圏の枠組みの中で危機が発生した際には、預金カットもありうるという前例をこの問題は残すことになる。当局側が特例措置と例外を表明したとしても、まだ片付いていないギリシャやスペインなどこのところ落ち着きを取り戻している国への飛び火が心配されることになる。何よりキプロスからの預金流出が加速すると(取り付け騒ぎ)銀行は破たんに至ることになる。

この問題を受けて週明け本日のアジアの市場ではユーロが急落し、株式市場も反落となっている。このところファンドによる空売りを大量に抱えている金市場は、買戻しの動きに一時は1600ドル大台を回復する動きとなっている。





2013年3月18日(月)発行

===================================
 キプロスが預金封鎖を受け入れ、まずは買い反応を示した金相場への影響
===================================

地中海にある人口110万人、面積9,251平方キロメートル(四国の約半分)のキ
プロス共和国が、マーケットの関心を一身に集めている。先週末にはユーロ圏
財務相会合が開催されたが、16日に合意されたキプロス救済計画に、銀行預金
への課税という前例のない措置が盛り込まれたことが、欧州不安の蒸し返しに
つながるリスクが警戒されているのだ。

今回の救済計画では、キプロスに対して100億ユーロ(約1兆2,220億円)規模
の支援が行われるが、その条件として銀行預金への課税が盛り込まれていたこ
とが明らかになっている。

具体的には、10万ユーロ(約1,220万円)未満の銀行預金に6.75%、10万ユーロ
以上の銀行預金に9.90%の課税が実施されることになる。現地での報道では、
銀行預金の取り付け騒ぎなども発生しているが、欧州中央銀行(ECB)のアス
ムセン理事によると、既に預金口座から徴収予定分に関しては凍結されてお
り、3月18日が銀行休業日となるため、19日の営業再開前に徴税が行われると
解説されている。これはまさに預金封鎖に他ならず、01~02年にかけてのアル
ゼンチン通貨危機で、アルゼンチンとウルグアイが銀行業務停止に踏み切って
以来の異常事態が欧州でも発生していることになる。

しかも、欧州当局者の要求は更に厳しいものだった模様だ。米紙ウォール・ス
トリート・ジャーナル(WSJ)が詳細に報じているが、欧州中央銀行(ECB)当
局者は、今回のユーロ圏財務相会合での支援が見送られるのであれば、キプロ
スの二大銀行が破綻すると警告を発し、キプロスのアナスタシアディス大統領
に預金課税の受け入れを迫った模様だ。ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理
事は一気に30~40%の徴税を主張するなど、水面下で激しい駆け引きが行われ
ていたことが報告されている。支援がなければ預金者の負担も避けられない状
況にある中、この程度の負担を求めるのは合理的との判断がある模様だ。

ユーログループのダイセルブルーム議長は、「キプロスの金融の安定化に資す
ることになり、全預金者に貢献を求めることは当然と思われる」とのコメント
を発表しているが、これなども支援が無かった場合の預金者負担を念頭におい
たものとみられる。「支援見送りによる損害」と「支援を受ける条件としての
預金者負担」の均衡点が、今回合意された預金課税の税率という訳である。な
お、これと同時に法人税率も従来の10.0%から12.5まで引き上げられることが
明らかになっている。

これに先立つ欧州連合(EU)首脳会議では、財政緊縮と歳出削減要求を緩める
など、経済成長に配慮する姿勢も報告されていた。オランド仏大統領は「財政
緊縮が行き過ぎれば過剰な失業を生む」、「成長を優先課題にしようとするの
であれば柔軟性が必要」との発言を行っている。このため、マーケットではキ
プロス支援問題の先行きを楽観視するムードが強かったが、その期待が見事に
裏切られたというのが、週明けのマーケットの混乱状況である。

キプロスの経済規模はユーロ圏全体の僅か0.5%に過ぎず、無理をして銀行預金
への課税という強硬措置を行う必要はなかったのかもしれない。今回の預金課
税で想定される税収は58億ユーロであり、支援計画の規模を今回決定された
100億ユーロではなく150億ユーロとすれば、特に大きな問題は生じなかったは
ずだ。実際、ユーロ圏の救済はキプロスで5カ国目であるが、他の国ではこの
ような厳しい支援条件は求められていない。

しかし、この問題はイタリアやスペインといった大国への問題波及を阻止し
て、欧州債務危機の収束を実現できるかユーロ圏首脳の手腕を試す試金石と
なっていただけに、ユーロ圏当局者は厳しい対応が必要と判断した模様だ。す
なわち、キプロスに対する支援そのものというよりも、その先にあるイタリア
やスペイン危機に対するマーケットの懸念を打ち消したいとの意向が働いたと
みている。


一方、こうしたキプロス情勢を受けての金相場の反応であるが、COMEX金先物
相場は15日の終値が1,592.60ドルだったのに対して、一時1,607.60ドルまで
15.00ドルの急伸地合を見せている。為替相場は大きくドル高(ユーロ安)方
向に振れたものの、それ以上に「安全資産」としての観点に基づく買い圧力が
優勢だった。いわゆる「セーフへブン(資金の退避場所)」としての投資需要
が金相場を押し上げている。ただ、買い一巡後は再び1,600ドル台を割り込む
など、現段階では明確な方向性を打ち出せているとは言い難い状況にある。


ただ、キプロス預金封鎖の第一報を受けての金相場が、「買い」で反応したの
も事実であり、その意味では金相場が「安全資産」としての観点から売買され
ていることが確認できたことは大きな収穫である。2月下旬のイタリア政局の
混乱も、金相場にはポジティブに機能したことを再確認したい。ただこれを裏
返せば、リスク投資環境の地合悪化を促すような動きが見られない限り、ドル
建て金相場の本格反発は難しいと言うことでもある。

仮にキプロス情勢が大きな混乱をもたらすのであれば、単純な「安全資産」と
しての退避需要の他に、米欧の金融緩和圧力に対する信認の高まりも、金相場
を大きく押し上げよう。3月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に対する影
響は時間的に限定されようが、この問題の進展状況次第では4月4日のECB理事
会で追加緩和策の導入などが行われる可能性も十分に考えられる。また、米国
の量的緩和第3弾(QE3)の早期縮小・停止観測にも、一定のブレーキを掛ける
ことが想定されよう。

当面の相場反発の原動力は、大口投機筋のショートカバー(買い戻し)に留ま
るとみており、それに伴う上昇目途は1,650~1,700ドルを想定している。た
だ、仮にキプロスの混乱がユーロ圏全体の取り付け騒ぎにまで発展する事態に
なれば、投機マネーの再流入で1,750~1,800ドル水準まで値位置を切り上げる
だけの潜在的なエネルギーは有していると考えている。FRBのバランスシート
の規模、CRB商品指数の水準などを考慮すれば、1,800ドル水準が現在の金相場
の理論値と考えている。そして、この1,800ドルと現在の価格とのギャップ
が、マーケットの金融緩和政策転換見通しを織り込んだ結果ということにな
る。

特に、金市場は他マーケットとは違って緩和政策の早期縮小・停止観測を織り
込んでいるだけに、この見通しが修正された際の反動は大きくなる可能性が高
い。今年に入ってからは、「金融緩和政策の拡大を織り込む株式相場」と「金
融緩和政策の早期見直しを織り込む金相場」との違いが目立つ相場環境が続い
ているが、最近は両市場における金融政策見通しを統一しようとする動きが金
相場の安値是正を促している。この流れを一段と加速させるきかっけになるか
否かというのが、金市場からのキプロス情勢の基本的な見方になる。

今FOMCで注目すべきは、声明文の内容よりもバーナンキFRB議長の記者会見に
対する金相場の反応である。同議長は、2月の議会証言において、雇用情勢の
見通しが「大幅に改善」しない限りは、緩和政策の見直しは必要ないとの基本
方針を示していた。今回も同様の発言内容を想定しており、その意味ではサプ
ライズの可能性は低いとみている。ただ、2月に金相場の底入れを促すことに
失敗したバーナンキ発言が、ここにきて正当に評価される地合に変わっている
のであれば、少なくとも金相場の下値不安は限定されよう。現在の金相場の地
合を計る上での試金石にはなると考えている。