年頭予祝会を終え、第3回警視庁警察官採用試験が近づき、よろず屋相談所を訪れる「心」たちもひと段落した我が家。


近所の氏神様に初詣でに行き、今年一年の幸福と「心」たちの合格祈願をした。

あと私達に出来ることは、祈る事しかない。


その後、妻の実家に行き親族皆で食事会をした。

息子が警視庁警察官採用試験に合格した事を親戚皆が喜び、特に息子の祖父にあたる妻の父が誰よりも喜んだ。「この年になって、こんな喜びがあるとは思わなかった」と言うほどだ。うれしい年明けとなった。


夜家に帰りお茶を飲んでゆっくりしていると、妻が「誰か来た」と言って玄関を見に行った。


「よろず屋相談所は年明けいつからになりますか?」と「心」が来ているようだ。


「良かったら今からでもいいよ」と

言うと、「お正月なのに申し訳ないです」と恐縮していたが、せっかく来てくれたし、第3回採用試験も近いので、年頭第1回目のよろず屋相談所を急遽開所する事にした。


竹内久志  30歳  岐阜県在住

岐南商業高校卒業後、運送会社に就職。経理を担当し現在に至る。


昨年初めて警視庁共同試験を受けるものの、一次不合格となる。


年齢のせいもあるのか、ドンと構えている印象の彼。揺るぎないものを奥底に持っているようだ。


「1月の試験で絶対に受かりたくてここに来たのだろう。年齢の事もあるし」当たり前のようにそう思った。が、しかし、


「今年中に採用試験に受かりたいと思っています」と彼は意外な言葉を口にした。


「今度の試験で絶対に受かりたくて来たんじゃないの?」


「はい。今度の試験は全力でやりますが、きっとものすごい倍率になると思われるので、受かればラッキーくらいでやろうと思っているんです」


今までの「心」たちのように「次は絶対に合格するんだ!倍率は関係無い!」と覚悟を決めて受験することが当たり前だと思っていたので、意外な考え方に少々戸惑った。


「私の場合、絶対に〇〇するんだ!と決めてしまうと上手く行かない事が多かったのです。『〇〇出来たらラッキー』と緩く考えると逆にスルッと上手く行ったりするんですよね」と彼はその根拠を話した。


「警視庁警察官になりたい」という熱い思いがあるのかどうか、この時点で私は見極める事が出来なかったので、あらためて聞いてみる事にした。


「何故警視庁警察官になりたいの?」


「本当は高校生の頃から警視庁警察官になりたかったんです!でも親に危ないから辞めろと言われ続けて諦めてきました」と悔しさを吐き捨てるように言った。


「親御さんは今も反対されているの?」


「いえ、自分の中に警視庁警察官への思いが何度も湧き上がり、消える事がなかったので、一昨年、自分の人生だから後悔したくない。警視庁警察官になりたいんだ!好きにさせてくれ!と両親に思いをぶつけました。あまりの私の気迫と真剣な思いに両親もようやく理解してくれて、昨年受験する事が出来ました」


「覚悟を決めたから、ご両親に思いが伝わったんだね」


「はい。準備不足もあったかと思いますが、絶対に合格するんだと気負いすぎてしまって前回は不合格になっと思います。1月は高倍率になる事が予想されますし、気負いすぎて失敗しない為にも受かればラッキーと言うくらいの気持ちで行きたいんです。それが一番自分に合っていると思います」続けて彼は何故警視庁警察官になりたいのかを語った。


「警視庁は実力主義だと言われています。高卒であっても実力次第で捜査一課長にもなれます。首都警察で刑事になる事が私の夢でもあり、夢を諦めかけた人に30才を過ぎても警察官になれるという道標を作って行きたいんです。それが私の覚悟です」と言い切った。


彼は誰よりも熱い志を持ち、しっかり覚悟を決めていたのだ。


「ありがとう。よくわかったよ。君の場合は執着を手放して、夢を引き寄せるようだね」


「執着を手放す…ですか?」


「うん。執着というのは、ひとつのことに囚われてしまってそこから離れることができず、前に進めない状態のことなんだ。不安も大きくなるんだよね。それを一旦手放す事で不安が無くなって物事が良い方向に進む事が出来る。それを執着を手放して夢を引き寄せるという事なんだ」


「知らずに自分でそれを選んでいたという事ですね」


「そう。覚悟以上のもを持つと執着になるんだと私もあらためて君から学んだよ。君はすでに覚悟を決めているし、熱い思いも備わっている。君のやり方で警視庁警察官採用試験に合格して欲しい」


「ありがとうございます。少々不安にもなっていたので、そう言ってもらえて力が湧きました。今年中には警視庁警察官採用試験に合格します!正月早々話を聞いてくださってありがとうございました」と丁寧に頭を下げて帰って行った。


絶対に警視庁警察官になるんだという覚悟。覚悟以上の執着。これらは紙一重なのかもしれない。


人それぞれがベストの道があるのだという事。覚悟を決めて臨めば、どの道を通っても、少々人よりも遠回りしても夢に辿り着く事に変わりは無いのだと、今回の「心」から学んだように思う。


つづく。。。