また1人、うれしい知らせを持ってやって来た。


「無事合格する事が出来ました!ありがとうございました!」


彼も飛田給駅に向かう電車の中で出会った2人の心のうちの1人だった。

彼も合格の報告に来てくれたのだ。


谷川幸人 25歳  富山県在住

警視庁警察官採用試験

共同試験       二次不合格  2回

警視庁試験   一次不合格  1回

                        二次不合格  2回

6回目にして最終合格する。


氷見第一高校卒業後、アルバイトをしながら公務員専門学校に進むが、共同試験2回目不合格を機に退学する。アルバイト先の貿易会社の社員となり、現在に至る。

社員になったのを機に、一度警視庁警察官を諦めた経緯がある。


「難関試験を突破してよく頑張ったね。おめでとう」とお祝いの言葉をかけた。


「ありがとうございます。あの時から、絶対に警視庁警察官になるんだと自分に言い聞かせて試験に臨みました。面接でも熱い思いを出せたと思います」


「それは良かった。一度警視庁警察官を諦めたようだけど、また志すキッカケは何かあったのかな?」


「高校時代サッカー部で、昨年部活の集まりがあった時に尊敬していた先輩も来ていたんです。その先輩が、6回目にして警視庁警察官採用試験に合格して、本当に嬉しそうに皆に報告していました。その姿を見て、自分も諦めていた警視庁警察官への思いが湧き上がってきました。それがキッカケです」


「6回目は君と同じだね。諦めなくて本当に良かった。受験勉強は独学でやったのかな?」


「先輩からも、お前も諦めるなと、今度は絶対受かると思って受けてみろと言われ、先輩が使っていた問題集や資料をもらって猛勉強しました。その気になれば、独学でも合格できるんだと実感しました」


「警視庁警察官への道がまた作られたんだね。良い話だ」


「はい。ただ、独学だとやっぱり孤独になるんです。励まし合うあう仲間もいない訳ですから、弱気になってしまうんです。ちょうど落ち込んでいる時に、あの電車に乗っていたという事です」


「そうだったんだね。あの時は自分も訳が分からず、もっと親身に寄り添ってあげれば良かったよ」


「いえ、絶対に警視庁警察官になるんだ!という熱い思いを持ち続ける事が大切だと言って下さったお陰でまた奮起できたんです。感謝しています」


「そう言ってもらえてうれしいよ」


妻が「不合格になった子や1月に受験する子達が何人か来てて、合格者の話を聞きたいって言ってるけど、いいかな?」と彼に聞いた。


「はい。僕が分かる事なら喜んで話します」と快く引き受けてくれた。


6人ほどの「心」たちが彼の話を聞きに来た。皆メモを取る準備をしている。


彼は丁寧に、教養試験、適性検査、論文試験、体力検査の要点を分かりやすく伝えた。そして、面接試験は力を込めて、いや、心を込めて伝えた。


「時事問題は新聞、ニュースを毎日見てどのような事を聞かれてもいいように準備をしておく事です。もし答えに自信が無くても、分かりません。と言うだけでは無く、自分の考えを述べるくらいに質問に対して諦めないようにする事が大切です」


「心」たちはうなずきながら、一生懸命メモを取っている。


1人の「心」が「6回目で合格されたそうですが、今までの受験とは何が違っていましたか?」と彼に質問した。


「絶対に警視庁警察官になるんだと言う覚悟です」と彼は毅然と答えた。

「覚悟を決めると、自ずと考えが深くなります。そして熱い思いも心の奥底から湧き上がってくるものです。それが面接官にも伝わったんだと思います」


「心」達は黙って大きくうなずいた。


彼の話が終わったのを見計らって、

「合格者の生の声が聞けて良かったね。私も前から言ってる通り、警視庁警察官に絶対になるんだと覚悟を決める事なんだよね。彼に続いて、みんなも合格できる事を祈っているよ」


「話が聞けて本当に良かったです。ありがとうございました!」


「覚悟を決めて受験したいと思います!」


と「心」達は何かを得て帰って行った。


「谷川君、本当に合格おめでとう。よく報告に来てくれた。君の話がどれだけ受験者を勇気づけたかわからない。ありがとう。立派な警察官になってね」


「はい。ありがとうございます。優しくて強い警察官になります!」と敬礼して帰って行った。


一度諦めた警視庁警察官。

何かのキッカケで思いが再び湧き上がり掴んだ夢。


不思議な縁でやって来た「心」たちの最高の道しるべが作られた。


つづく。。。