人は親や周りの大人に沢山の愛情を注がれて育つものだが、愛情を十分に注がれずに育つ人もいる。
今日やってきた「心」は後者である。
田所奈美 19歳 高知県在住
黒潮商業高校卒業後、大手電機メーカーに就職し現在に至る。
5人兄弟の3番目。
両親は子育てに関心が無く、放ったらかしで育ったという。
「長女という事もあって、家の事を何もかもさせられました。妹や弟の面倒も見てきたんです。子どもだけ産んで放ったらかしにしている両親のようには絶対にならない!と思って生きてきました」
まだあどけなさが残る彼女だが、ブレない決意を持って生きてきたのが伝わってくる。
「小さい時からずいぶんご苦労があったんだね」
「はい。でもお陰で何でも1人で出来るようになりました。妹や弟は可愛いし、私にとってはかけがえのない存在です。妹達の将来の事も考えて、警視庁警察官になりたいと思ってこちらに来ました」
彼女は両親を反面教師にし、勉強も頑張った。高校受験の時、進学校を受験するよう担任が勧めてくれたが、両親が大学へ進学させるお金が無いという理由で、卒業したらすぐに就職できる商業高校へ進学せざる得なかったという。
商業高校でも必死でバイトをしながら勉強も頑張った。
高校でも成績優秀だったので、大学への推薦ももらえたのだが、この時も両親が反対。警視庁警察官になったOGが警視庁について色々と教えてくれた時に興味を持ったものの、「東京へは行かせない」と両親が阻み、地元の大手電機メーカーへ就職を決めたのだ。
「厳しい環境の中、よく頑張ってきたんだね。普通はモチベーションが上がらないのに成績優秀とは大したもんだ」志望動機を聞く前に、なんとか受からせてあげたいと思った程だ。
「この惨めな生活から抜け出そうと必死でした。学校へ行ってる時は良かったです。でも、就職してからは、どれだけ頑張っても大学卒業者にはかなわないという事を身をもって感じました」
今の状況では、妹達を救い出す事が出来ないと本気で危機感を覚えたという。
そんな時、警視庁警察官になったOGの言葉を思い出した。
「警視庁は実力主義だから、頑張れば認めてもらえて上に上がって行けるんだ」と。福利厚生の良さも知った。
「警視庁警察官になるしかないと思いました。私は被害者の気持ちに寄り添う事が出来る自信もあります。それに悪い者は許さないという正義感も持ち合わせています!」と決意を語った。
「それだけ動機もしっかりしているなら大丈夫だね。今度はご両親の犠牲にならないように貫いて欲しい」
「はい。今度は誰が何と言おうと自分を貫きます!私が警視庁警察官になってしばらくしたら、妹達を呼び寄せて、東京の大学に行かせたいんです」
妹や弟も彼女が東京に呼び寄せると聞いてモチベーションが上がり、成績も優秀だそうだ。
彼女は妹達の将来まで考えて、警視庁警察官になろうと考えているのだ。
「君は熱い思いを持った警察官にふさわしい人間だ。私も絶対になって欲しいと心底思う」
「ありがとうございます。1つ教えて下さい。息子さんが警視庁警察官に合格できた秘訣は何ですか?」
今までやって来た「心」達にも言ってきた事を彼女にも言った。
「充分過ぎる準備と、絶対に警視庁警察官になるんだという覚悟を決める事だよ」
「分かりました。しっかり受験準備をし、覚悟を決めて採用試験に臨みます。正直、まだ不安がたくさんあって押しつぶされそうになる事もあるんです」
「そういう時は、大丈夫心配ない。私なら合格出来る!って言うんだ」
言霊の大切さを伝えた。
「前向きになれる事が私の良さでした。私なら合格出来ます!」
「よし!言葉に出して言ったから大丈夫。そのように良い結果になって行くよ」
「言霊も大事にして、採用試験に向けて油断のないよう全力で頑張ります!ありがとうございました!」と意気揚々と帰って行った。
両親を反面教師に頑張ってきた彼女。本当は言葉では言い表せないほどの厳しい環境に置かれていたのだろう。
人は色々な理由をつけて、楽な道へと行きたがる傾向にあるが、妹達への思いが彼女を奮い立たせたのだろう。私もこの歳で19歳の女性から学んだ。
彼女の夢が叶い、幸多き人生へと向かうよう心から祈った。
つづく。。。