警視庁警察官採用試験に一発で合格する者もいれば、3回以上受けても合格に至らない者もいる。
なんとしても次回は合格したいと、今日も心がやって来た。
「こんにちは!よろしくお願いします!」と元気良く挨拶し、私の前に座った。
林田理玖人 20歳 熊本県在住
八千代工業高校(機械科)卒業
警視庁警察官採用試験 過去3回受験
一度だけ二次試験に進むも不合格となる。
3歳の頃、両親が離婚。母親に育てられる。
現在は、公務員専門学校に通いながら伯父(母親の兄)の経営する建築会社でアルバイトをしている。
「今まで応援してくれていた母親が、最近、東京へ行かないで欲しいと言い始めたんです。熊本県警ではダメなのかと。僕は、警察官は警視庁と決めているから県警は考えられないと伝えたんです。それから母は何も言わなくなりました。賛成しているのか、反対してるのか分かりません」
「君はなぜ警視庁警察官になりたいの?」
「僕は、今の天皇陛下と皇后陛下が好きなんです。皇族の車列を守ったり、外国の要人を守るSPになるのが僕の夢です。だから、警視庁警察官でないとだめなんです」と思いを語った。
「そうか。警衛警護の仕事がしたいんだね」
「はい。そうです。でも3回受験しても受からなくて、だから母もあきらめがつくように行かないでと言ったかもしれません」
「君が受かったら、お母さんはとてもうれしいはずだよね。警視庁警察官になったら、家族寮もあるし、いつかお母さんを東京へ呼び寄せたらどうだろう?それならお母さんも安心するんじゃないかな?」
「呼び寄せるなんて考えてもいませんでした。それなら母親も安心すると思います」
彼は自分が育った環境を語り始めた。
「母と2人になってから、伯父が僕の父親代わりになって可愛がってくれました。自分の子と同じように接してくれて、色々な所にも連れて行ってくれました。伯父がいたから、父親がいなくても寂しくなかったんです。叔母も良くしてくれて、警視庁警察官になる事をあきらめたらだめだと言ってくれます」
「警視庁警察官採用試験に行く時は毎回東京までの交通費を伯父が出してくれました。」
「素晴らしい伯父さんと叔母さんだ。それは期待に応えたいね」
「はい。それともう一つ気がかりな事があって、田舎なので母はママ友ともまだ繋がりがあって、母子家庭だから就職も限界があるねと言われるらしいんです。僕がなかなか受からないから辛いです」
「母子家庭だからという偏見よりも、自分が優位に立って、人を見下したいんだよね。普通は応援してくれるはずだよ。
じゃあ 次は絶対合格する!と覚悟を決めて受験しよう。母子家庭だからだめなんかじゃない!そんな事関係無いんだ!俺は受かったんだ!どうだ!って言えるようにしようよ」
彼は声をあげて泣いた。
「はい。絶対合格して、どうだ!って言ってやりたいです!」
色々辛い思いもしたのだろう。
「そうしよう。もう弱音は吐けないね。合格したらお母さん、伯父さん、叔母さんがどれだけ喜ぶかわからないよ。一次試験の対策をしっかりして、まず一次試験を突破しよう。二次試験も重要な面接がある。
次の試験は全力で頑張って欲しい」
息子がどのように対策をして合格を勝ち取ったかを彼に伝えた。
「自分には足りなかったものがたくさんありました。合格者の対策はやはり違いますね。参考にして絶対合格します!色々と教えていただいてありがとうございました」
「お母さんにきちんと、警視庁警察官になりたいともう一度伝える事。伯父さん、叔母さんにもバックアップしてもらうようによく頼むんだ。絶対力になってくれるはずだよ」
「はい。そうします!力が湧いてきました。ありがとうございました!
失礼します!」と力強く言って彼は帰って行った。
次こそは絶対受かる。と確信を持てた「心」との出会いだった。
つづく。。。