入学式の日、尾井一雅は早目に家を出た。朝早く目が覚めてしまったこともあるが、家で何もしないでいると上柳詩衣のことが頭に浮かぶ。医学部に入り医師として二度とあんな思いをしたくないという気持ちにもなるが、詩衣を失ったことによる喪失感で何もしたくない気持ちに支配されてしまうことの方が多い
とにかく体を動かし頭を働かせていないと心の穴に飲まれそうになってしまう
家を出て電車に乗る。電車が止まり席を立つ。ドアが開いて降りようとしたところで足が止まる
一雅「ここじゃねえや」
この駅は半年前まで通っていた大学のある駅で、医学部のある大学はさらに3つ先の駅になる。席に戻ろうとしたが、すでに席は他の人が座っていた。一雅はそのままドアに寄りかかった。このドアは降りる駅までドアが開くことはないのでちょうどよかった
電車を降りる。大学までは歩いて20分程。バスも出ているが、まだ時間にはかなり余裕があるので歩いて行くことにした
10分程歩くと大学が見えてくる。一旦立ち止まり深呼吸
一雅「よし」
気合いを入れ歩き出した時だった
「逃げろーっ」
後ろで誰かが叫ぶ
一雅「逃げろ?」
振り返ると目の前にトラックが
一雅「何で?ここ歩道だろ…」
逃げろと言われたがトラックの車幅と歩道の幅はほぼ一緒で、一雅の左側は建物がありシャッターが閉まっていて右側は街路樹で逃げるところなどなかったが、一か八かで街路樹に飛び込む決心をしてジャンプをした
ドンッ
鈍い音と強烈な痛み
ああ、間に合わなかったんだ…
薄れ行く意識の中、一雅は居眠りをしている運転手の顔をはっきりと見た
つづく