今考えれば、あり得ない。夢だったと言われれば、そうかもという気もする。でも間違いなく存在していたし、わたしだけではなく何人も彼を見、触れ、会話をした。そして今のわたしがあるのは彼のおかげ…
川野そら(かわのそら)は窮地に立たされていた
部長「どういうことだね」
そら「申し訳ございません」
そらは深々と頭を下げる
部長「申し訳ございませんじゃすまないんだよ」
と言って
バンッ
机を強く叩く。その音にそらはビクッとし、肩を小さくする
部長「向こうは取引を止めると言っているんだぞ。どれだけの損失になると思っているんだ」
そらはびくびくしながら、釈然としていなかった。そらは何のミスもしていない。ただ、そらの担当だというだけで怒られている。そもそも取引先を怒らせたのは今年入社した専務の娘である。しかもコネ入社。ミスをしては周りが怒られ、当の本人は知らん顔である。今までは小さいミスでなんとかなっていたが、今回は勝手に注文を受けてそれを忘れ、取引先に損失を出してしまった。さすがに誰かが責任を負わなくてはならない。そこで担当だったそらが責任を負うことになった
部長「今日中に辞表を出せ。本来なら損失したお金を出してもらわねばならんのを、それで許してやる。有難いと思え」
と言うと手のひらを振って、無言で出て行けと言う
そらが部署に戻ると、みんなが一斉にそらを憐れむように見て、そらから視線を逸らす。そらは涙を堪え、震える手で辞表を書いて課長に提出する
課長「なんだ?」
そら「今までありがとうございました」
と頭を下げる
課長「部外者は早く出て行ってくれ」
あまりにも冷たい言葉に涙が溢れそうになったが、そらは荷物を手早くまとめて会社を後にした
つづく