結花「山田さん、山田さん」
山田朝衛門を呼ぶ。その声がまだ暗い竹林に響き渡る
まぶたが重い。山田朝衛門は目で開ける力すらなくなっていた
結花「山田さん、山田さん」
浅倉結花の声がした気がした。手を伸ばそうとするが、その手も感覚がなく手が有るかもわからない。目から涙が流れる。頬を涙が流れていく感じをうけたが、その感覚も次第に薄れていった
嫌な予感がどんどん膨らんでいく
結花「ねえ、居るんでしょ?返事をしてよ」
浅倉結花は地面に膝をつける
結花「ねえ、何か言ってよ」
浅倉結花が祠の前にある土を掴む
道真「今あやつは死に直面している。助けたいか?」
結花「どうやったら…」
道真「あやつ、山田朝衛門は我と同じ神だ」
いつ頃だったか、浅倉結花はそんな気がしていた。山田朝衛門の空気が、普通とは違うと
道真「我らは信仰され存在が許される。あやつの唯一の信仰する者が亡くなろうとしておる」
結花「ならあたしが」
道真「そなたの想いは信仰ではない。それでは救えぬ。それでも救いたければ、その想いを消し純粋に信仰者となるか?」
この想い、好きという気持ちを捨てる…
浅倉結花は返事を戸惑う
道真「苦しいか?苦しければ全てを忘れさせてやろう」
浅倉結花は首を振る
結花「この気持ちは捨てられない」
浅倉結花が立ち上がり振り返り藤原道真を見つめる
結花「この気持ちは…」
浅倉結花はコートの胸のところを掴む。藤原道真はそんな浅倉結花を見て微笑む
道真「そなたが山田朝衛門を助ける為に信仰者となると言ったなら全てを忘れてもらったが、山田朝衛門を想う気持ちに免じてそなたの力を貸してやろう。山田朝衛門のところまでそなたを送ろう。しかしそれまでだ、あとはそなたが山田朝衛門を救って見せろ」
浅倉結花が頷くと、光が浅倉結花を包みこんだ
つづく