佐玖伊「枝衣」
呼びかけるが反応しない。目が開いているので起きてはいるようだが、その視線は焦点が合わず宙をさ迷っていた
佐玖伊「枝衣」
佐玖伊は肩を掴み、枝衣を揺する。が、枝衣はまったく反応をしめさない。まるで、魂がないように感じた
主理「何をしてもムダさ。彼女の心は深い闇に封印されてる」
佐玖伊は主理を睨む
主理「俺はもう何にもしない。ただ、時間がないぞ。もうすぐ死神(特殊警察)が来る」
佐玖伊は強く目を瞑り考えるが、いい考えが浮かばず時間だけが過ぎて行く
枝衣は真っ白な空間の中にいた。上も下も見渡す限り真っ白だった。枝衣は何か変化があるのではないかと歩き続けたが、景色が変わることはなかった。体力的に疲れることはなかったが、精神はギリギリのところまで磨り減っていた。やがて歩くことを止め、座り込んでうつむいていた
枝衣「なに?」
ここに来て初めての変化だった。地震のように揺れた。地面だけでなく、この世界すべてが揺れたように感じた。そして
「…」
人の声。枝衣は神経を集中する
佐玖伊「枝衣」
佐玖伊の声だった。その声はこの世界すべてに響き渡っていた
枝衣「佐玖伊、私はここだよ」
枝衣は力一杯叫んだが、その声は佐玖伊に届くことはなかった
佐玖伊「枝衣ー」
主理「ムダ、ムダだよ」
主理は狂ったように笑いだした。佐玖伊はそれを無視して名前を呼び続けた
ピクッ
枝衣の指が動く
佐玖伊「枝衣ー、起きてくれー。お前がいなければ俺は生きてる意味ないんだよ」
佐玖伊はいつの間にか泣いていた。涙が枝衣の手の上に落ちる
主理「ほ~ら、死神がやって来た」
足音はこの階にやって来たのがわかった
佐玖伊「枝衣、好きだよ」
佐玖伊は枝衣にくちづけをした
真っ白な世界が揺れる。立っているのが出来ないくらい
枝衣「きゃっ」
枝衣は手をついてなんとか上半身を起こしていた。やがて、目の前の地面にヒビが入る。そしてその隙間から光がもれる。枝衣はその隙間に指を入れ
枝衣「さ…佐玖伊ー」
叫んだ。ヒビは広がり、真っ白な世界が崩れていった
佐玖伊「枝衣ー」
佐玖伊が枝衣を抱きしめる。枝衣の手が佐玖伊の背中にまわり
枝衣「佐玖伊」
枝衣は佐玖伊を抱きしめた
佐玖伊と枝衣はお互いを確認、おでこをつける
佐玖伊「枝衣」
枝衣「佐玖伊」
佐玖伊「枝衣好きだよ」
枝衣「私も、佐玖伊好き」
くちびるを重ねる
主理「感動の再会中悪いが、タイムオーバーだ」
3人は特殊警察に囲まれていた。主理が笑みを見せる
主理「危険な目に合わせた、せめての償いだ。逃げろー」
特殊警察の動きが止まる
主理「今のうちだ」
佐玖伊「主理」
主理「いいから早く行け。そんなに長く持たない」
枝衣「ありがとう」
主理「幸せになれよ」
2人は手をつないでその部屋を後にした
主理「さて、最後の仕事だ」
主理はポケットからボタンを取り出す
主理「ぐっ」
腹部に衝撃を受ける。血がどんどん流れ出る。主理はボタンを落としてしまう。幻からさめた特殊警察はライフルを構え、次々と主理に弾を撃ち込む。主理は地面に倒れ込む
特殊警察の数人が部屋を出て行こうとしていた
主理「させるかよ」
主理は最後の力で地面を叩く
部屋は閃光と轟音に包まれた
枝衣を救い出してから3日。政府が手の出せない自治区に枝衣と沙凪が旅立つことになった。2人はギフトとして、指名手配されていた
沙凪「出ちゃうよ」
枝衣「うん」
佐玖伊と枝衣が無言で向き合っていたが、自治区行きの電車の出発が迫っていた
佐玖伊「絶対迎えに行く。この国をまともにして」
枝衣「待ってる」
発車のベルが鳴る。2人の手が離れていった
絶対迎えに行ってやるから待ってろ
佐玖伊は誓った
早苗「お待たせしました」
聡子「これでこの国は…いえ、世界はすべて」
聡子の笑い声は警笛に消された
つづく