雲は揺蕩う。

 

降り始めたと思った雨は、あっという間に止んで。

真っ青な空の上に浮かんだ雲は、絶えず形を変えながら、真っ白な幻想みたいに浮かび続ける。

 

「…で? どうすんの……?」

「……え!?」

 

突然声を掛けられて、変な声が出てしまう。

それを彼…凛音は、「何だよ、その声(笑)」って言いながら、何が可笑しいのかクツクツと笑い続ける。

 

「これから…どうすんの?って聞いてんの。」

「……っていうのは?」

「だーかーらー(笑) ずっとここにいるつもりなのか…

すぐに帰るつもりなの?ってこと。」

 

凛音は、ベッドの下に放り出されてたスマホをむんずと掴み上げ、その画面を見るともなく見つめ…

なんてことは、私の勝手な見方であって、実際はどうなのかなんてわかるわけもないんだけど…

 

「……ってか、ずっといられても困るでしょ?」

 

私は思ったままを口にする。

私は、ここに居続けても困ることなんてないけど…

凛音はきっと違うんだろう…って思う。

 

凛音と私の関係は…

特になんでもなくて。

 

ツッキーナを狙ってた凛音が、本来のターゲットを見失って、その隣にいた私を成り行き上連れ帰った…ってだけなんだろうから。

 

「…なんだよ、その言い方。 別にそんなこと言ってないじゃ…」

「じゃあ、ずっとここに私が居てもいいの?」

「……え?」

「…だよね。 …大丈夫。

もうすぐ帰るから。」

 

凛音は、困った顔をして私の顔を見つめる。

…いや。

そんな顔をさせたいわけじゃなかったんだけど…。

 

一瞬だけそう思ったけど、そのことを凛音に伝えるのはどうなのかと思った。

だって…

私たちは、成り行き上一緒に居るだけの二人で…

ある意味、ツッキーナがいなきゃ成り立たなかった二人で…

 

「…ごめんね。

ツッキーナじゃなくって、私で。」

 

そう思ってたから言った言葉って訳じゃなかった。

意地になってたわけじゃなくて…

本当に、ごめんねって思って言った言葉で…

 

「……なんだよ、それ。」

「…え?」

 

凛音の表情は、どこか苦しげにも見えて。

…ってか、それも私の願望だったりするんだろうか。

 

「ずっっと、そんな風に思ってたの?」

「…え、だって…」

「いや…確かに。

最初はあの娘…ツッキーナが目的だったんだけどさ…」

 

…やっぱり。

分かっていたことだったはずなのに、直接言われると結構傷つく。

私は、ツッキーナのおまけ。

その事実が胸を貫く。

 

「結構…さ。

相性良かったり…しない?」

「……は?」

 

だから、その凛音の言葉に、直ぐに反応なんて出来なかった。

”相性”って…?

 

「いやー。

意外だったんだけどさ。

俺ら……超気持ちよかったよな。」

 

そう言って私を見た凛音の目は…

ギラギラと輝いて見えたのは、私の偏見に満ちた視線だったからだけじゃないと思う。

 

「…私、帰る。」

「…え!? ち、ちょっと…」

 

慌てる凛音を横目に、私は床に落ちていた衣服を身に付け始める。

…馬鹿にしすぎ。

私にだって、私なりのプライドってものがあるんだ。

どれだけいい加減な奴に見えていようとも…

 

「ね、ね! 連絡先って、これでいいんだよ…」

「…はぁ? まだ連絡してくるつもりでいるわけ?」

「あ…いや…」

 

いう言葉の端々を最後まで聞かずに答える私を、どこか慌ててる風な凛音が必死に見つめる。

こんな風に、見て欲しいわけじゃないのに…

どこかでそんな風に思う自分を跳ねのけて、私は玄関で靴を履く。

 

「…じゃあね。」

「…あ、コウ…」

「…え?」

「あ、あの…これから、コウって呼んでも…」

「じゃあね。」

「…え?!」

 

凛音の言葉を最後まで聞かずに、勢いのまま部屋を出た。

途端に、ジリジリと肌を焼くような日光に包まれる。

これから凛音との関係がどうなるのか…

それを、全部凛音に託して、私は暗い気持ちのままマンションのエレベーターに乗った。