この作者も天才だと思う。

 

著:高山 羽根子

ジャンル:SF

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 「首里の馬」で芥川賞を受賞した作者のデビュー作。

デビュー作は創元SFの短編賞佳作となった本作。

 

 目玉案件でなかなか本も読めない状態ではあるものの…

私の趣味はドライブ、映画だけにとどまらず、裏側で粛々と

活字を脳にインプット。(最近なかなかすすまない)

これで未読本はなんと68冊まで減ったのだけれど。

 

 数年前の「SFが読みたい」で紹介されていた本書。

ちょっと気にはなっていたのだけれど、なかなか手が出ず。

芥川賞受賞したからと言う訳でもないが思い切って購入。

なにより、創元SFの文庫本の棚に、これがある書店そのもの

が少ないのでなかなかゲットできないのも現実。

かなり大型の書店に行かないとお目にできない。

八戸ではまず無理なシロモノ。(読みたければポチるしかない)

 

 5編の短編で構成された本書、ちょっとご紹介。

 

 

 ■ 「うどん キツネつきの」(表題作)

    Unknown Dog Of Nobody

   この短編にはいずれも、英語やフランス語、さらには

   エスペラント語の横文字タイトルがついている。

   例えば、この「うどん…」では、頭文字を連ねるとUDON

   となり、「うどん」と読める。

 

   下校途中に歩道陸橋を歩いていると、不思議な声で鳴いて

   いる捨て犬(のような生き物)をさびれたパチンコ屋の屋上に

   みつけ拾って育てる女子中学生の物語。

   結構、長生きの「うどん」と名付けられたその犬(のような)。

   別に大きくなって暴れだすとか、超能力を使うとか…そんな

   展開は何もない。 淡々と物語が優しく進む。

   これ…SFか? と、途中は思っていたがSFだ。 立派な。

 

 ■ 「シキ零レイ零 ミドリ荘」

    Malnova Domo

   これは珍しいエスペラント語。

   坂の底にある、今にも崩壊寸前の古アパート。

   そこに住むのは不思議な人たちばかり。

   元宇宙船乗りだったと豪語する将棋好きなじーさんや。

   中国人やベトナム人、ヲタクのひきこもり…隠された

   地下室には得体の知れない象形文字があったり…。

   ほのぼのと不思議な物語。

   携帯の電波すら通らないアパートの奇譚。

 

 ■ 「母のいる島」

    The Mother on the Slope of Yomotsu

   おやおや、凄い横文字タイトルだ。

   よもつの坂にいる母… こりゃ黄泉平坂の事か(笑)。

   黄泉の国に続く「よもつひらさか」。

    16人目(!)の子供の出産で、危篤状態になっている

   母親を見舞に、日本全国から子供がその島に集合。

   離島で育った娘たちは「訓練」と言う事で母親から色々

   教わっていたようで…。

    私はこの話を読んで、ゼナ・ヘンダースンのピープル・

   シリーズを思い出した。「血は異ならず」は私の記事にもある。

   このピープル・シリーズもほのぼの泣かせるSFなのだけれど…。

 

 ■ 「おやすみラジオ」

    Radio Meme

    都市伝説のような噂… それを追求していく事で実際に

   様々な謎に遭遇していくと言う、ちょっとミステリアスなお話。

   これはかなり凝った構成になっている。

   ネット社会のミームのような、情報が情報を操作・伝播する

   ような… そんなお話。

 

 ■ 「巨きなものの還る場所」

    Le Grand Conservatoire

    フランス語タイトル。

   上述の4作品は、ほのぼのしたSFの傾向だったけれど。

   これは一転して、伝奇もののような… それでいてファンタジック

   な物語の多重構成になっている。

    青森市のねぶたや、十和田の三本木…軍馬のからみや

   岩手県のオシラサマ、さらには島根県の国引き伝説。

   様々な伝承が時代や地域を絡めて語られる異色作品。

   学天則とかも出てくるから「帝都大戦」を思い出した。

 

 私は、「母のいる島」と「巨きなものの還る場所」が好きだ。

 ミドリ荘も面白い(笑)

 こんなゆる~い日常生活のちょっとSFチックな話から、伝奇もの

 のような構成までこの著者は天才だなと思っていたら芥川賞を

 受賞だと言う。 やっぱりな、と言う感じ。

 たぶん、このデビュー作だけで、この作家のファンになる人も

 多かろうと思う。

 

 また、書店で見かけたらこの人の本を読んでみよう。

 

 

 

 

「血は異ならず」もPickに入れておこう。