良くも悪くもディズニーアニメのようなSF

 

著:ザック・ジョーダン

ジャンル:スペースオペラ

原題:"THE LAST HUMAN"

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 この本の予告と言うか、キャッチに「スペースオペラ」と言う文字

があり、スペオペ冒険譚大好きな私はずっと買うか、買うまいか

迷っていたが。

あまりに書店の棚から「読んでくれ~」「読んでくれ~と秋波を

送ってくるので読む事にした(笑)。

スペオペ大好き人間が、ためらうこともなかろうにと思われるかも

知れないが… ザック・ジョーダン? 聞いたことない…というのが

最大の理由だった。

 

 あとがきを読むとさもありなん。

本作は著者の事実上の処女長編なのだそうな。

なるほど、それで納得がいった。

正直、SFと言うか、スペオペにしても結構中身が雑っぽい。

ちょっと期待し過ぎたかも知れないが、あ~、こりゃおかしいと

私が見ても思うシーン…設定と辻褄が合わないシーンが

2~3ヶ所あるからだ。

 

 ひとつだけタネをあかせば、一部星系の崩壊を数光年だか

数十光年だか離れた場所から見ているシーンがあるのだけれど、

その崩壊は直前に引き起こされ、観測者はワームホール(の、

様なルート)で観測地点まで脱出している。

言わば時間的には「直前」の出来事なのだけれど。

 この、世界設定では移動はワームホール(の、ようなもの)を

通る以外には光速を越える速度は、禁忌の人類による超光速

エンジンしかありえない事になっている。

 

 数光年か、数十光年離れた場所の崩壊を観る事なんか、

理を無視した宇宙戦艦ヤマトの世界だけで十分だ(笑)。

その光景を見るのに数年だか数十年だか、かかるはず。

それが、なんのてらいもなく記述されているのだから宇宙活劇

にしても、ちょっとなぁ~…と、私は思ってしまう。

 どうせなら、「レンズマン」のように超光速通信や観測ができる

世界設定なら違和感はない。

変にリアルだから、粗が出てしまうと言う感じ。

ま、他にもダイソン球ステーションの中でこんな粗が2ヶ所ある。

「スペオペ」と言うなら荒唐無稽のなんでもありの方が痛快で

面白いと私は思うのだけれども。

 

 

 ■ さて、どんなお話か…

 

 この世界観はさほど難しくもなく。

(あまり難しい世界設定は「スペオペ」には向かない)

ヒロイン、サーヤ(中学生ぐらいか?)は、宇宙でも希少種の

捕食者・狩人・殺し屋のウィドウ類に育てられた最後の人類。

 ウィドウ類…冷血、キチン質の外骨格に先が鋭利な刃物に

なっている8本の外肢を持ち、狙われたら逃げられないと畏怖

される種族… その種族の母性によりサーヤは厳しく育てられ

人類であることをひた隠し、低層知性体として巨大ステーション

で暮らす日々。

 ステーションには、様々な知性体が知性カーストによって

生活環境を守られ、それを「銀河ネットワーク」が統治している。

銀河ネットワークは、巨大な知性の集合体で一種神様的な

存在でもある。

そんなステーションが数千ある世界観がこの物語の舞台。

それぞれのステーションは…あぁ、ワームホールと言うよりも

どこでもドアのでかいゲートのようなもので繋がっている。

 

 高階層知能との駆け引きと言う物語は、ペリー・ローダン

スタメン作家のK・H・シェールがン十年前に書いた

宇宙船ピュルスの人々」がスリリングでヒジョーに面白い。

地球人の心さえ簡単に読んでしまう高階層知能に地球の

位置を悟らせず地球に脱出すると言うお話だけれど、本作は

もう地球そのものが滅ぼされている。

 銀河ネットワークに反旗を翻したたったひとつの種族が

人類だったのだから。

 

 忌み嫌われるゆえに、自分が人類である事を決して他人に

知られる事なく生きて来たサーヤのたったひとつの願いは。

「同胞(人類)に逢いたい」だった。

そしてもたらされる、生き残った人類コロニーの噂。

低階層知性として扱われるサーヤは、人類を探す旅を余儀なく

されるのだけれど…。

 虚々実々な高階層知能が互いに巡らす銀河的陰謀に

巻き込まれていく最後の人類。

彼らはサーヤの敵なのか、味方なのか。

 …と、こんなお話。

 

 ■ 感想

 

 感想は上述の随所にもう込めているけれど。

上巻が冗長と思える程に長く、下巻が走りまくると言う感じが

否めない。

世界設定は悪くはないのだけれど、その描写はもっとすっきり

まとめれば面白いのに…と思ってしまう。

上下巻合わせて、文庫本で700頁ほどになるが、冗長な部分

を整理すれば、500頁未満でテンポよくまとまるはず。

 

 キャラクターが、ディズニーやピクサーのCGアニメのような

イメージで、台詞もそれらとさして変わらない。

モンスターズ・インクみたいなキャラがたくさん登場する。

…とは言え、主要キャラは10人にも満たないが。

 

 高階層知性体が暗躍するので、敵なのか味方なのか

様々などんでん返しが下巻に集中するのが残念っちゃ残念で。

上巻での画策をはたらく知性体が、下巻ではなんの伏線にも

なっていなかったり、「冒険譚」とは言い切れない物語でもあるし、

銀河規模の抗争があったりで、設定が壮大過ぎて白けてしまう

のが「スペオペ」とも言い難く…。

 

 これなら熱線銃一丁で宇宙を渡り歩くノースウエスト・スミスとか

アニメの「コブラ」みたいな物語の方がはるかにスペオペかと思う。

まずは、最初の作品と言う事で、これからに期待かなぁ。

正直、ヒューゴー賞とかのメジャークラウンにはまだまだほど遠い

感じは今のところ私にはする。

 

 あ、そうそう。

これは続編が出るかもしれない。

… と、付け足しておく。