銀河を股にかける大恋愛編の開始

 

 

著:ダン・シモンズ
ジャンル:SF
 ☆☆☆
この書評をというか自分なりの記録を「ハイペリオン」
「ハイペリオンの没落」と書いてきて、これがシリーズ
3作目なのだが、正直「書くんじゃなかった」と
今思っている。 
友人に「ハイペリオンが面白いぞ」と言っても、
「どんな話?」と聞かれるとあまりのボリュームなので
説明のしようがないのだ。 
「とにかく読んでみろ」としか言えない。 
それもなぁ・・と思ってどこかに記録しておくかと
軽い気持ちでここに書き始めた。 
私の文章力やボギャブラリではこのシリーズの面白さを
1万分の1でも伝えることは到底不可能だと思う。 
この、感想を読まれてもたぶん、どんな話なんだか
さっぱりわからんと思われる方も多々いるだろうし、
先の友人にしても「私のブログ読め」と言ってもさらに
わからなくなるかもしれない。

 

これから、この「ハイペリオン」シリーズを読もうという方は、素直に読んで欲しい。 
ハイペリオンを取り敢えず読んだがさっぱりわからんかったという人は、おそらくは
謎の追及者だろうと思うが、私にも想像の域をでない謎がまだ一杯あるのでこれまた
想像で応えるしかない(取り敢えずシュライクの謎は説明できる程度にはわかったが)。 
ネット時代なので各種情報は簡単に検索できるだろう。
ハイペリオンに関連する各個書評を閲覧することも簡単だが、各人それぞれどの点を
書評に挙げているのか、これはもうまちまちに違いない。
本当にボリュームがありすぎて、全てを説明するには同じ分量のスペースが必要という、
読んだほうが早いし正確という結果になってしまう。
本作、ハイペリオンシリーズはSFというジャンルを好きな人も、そうでない人も、
十分面白く読めてしまうほどに、様々なジャンルがてんこ盛りの大長編なのだと
いうことを改めて記しておきたい。

 

じゃ、正直ちょっと気が進まなくなってきたが『エンディミオン』どんな話なのか
紹介してみよう。
是非、これは1万分の1以下だと思って読み進めて欲しい。
前作『ハイペリオンの没落』から300年が経過している。 
300年も経ったのに本作のヒロインはかつての巡礼者ブローン・レイミアの一人娘
アイネイアーだ。 
ヒーローには、惑星ハイペリオンの羊飼いの青年、ロール・エンディミオンが登場する。

 

そして、かつての巡礼者だった老詩人(延命手術を繰り返し300年を生き延びた)
と巡礼者のお供だったアンドロイド・ベティック。 
さらには敵(?)ながら美味しい話独り占めのフェデリコ・デ・ソヤ神父大佐などなど
魅力的な人物が新たに参戦。
ひとつ忠告しておくと、「エンディミオン」から読み始めるなどという愚行を決して
おかしてはならない。
前作2話がなければ本書の面白さなど半減どころか話しにならないのだ。 
それほどまでに前作2作の設定や登場人物のエピソードが反映されている。 
また、勿論、前作までの謎の大部分が後半2作で語られる事になるのだから。
(大部分であって全部じゃないぞ)
あ、そのハイペリオンの謎の数々は「後は自分で考えろ、ヒントは十分出した」ってものと、
「これがその真相だ、どうだつまんないだろう」ってものと、「まだまだ教えてやるもんか」
って3種類に分類されることだけは先に言っておく。 
私は個人的に著者、ダン・シモンズ本人にもわけがわからなくなっているのではないかと
密かに思っているのである。 
いや、絶対そうに違いない。 間違いないっ!

 

あぁ、書けば書くほど前置きが長くなってしまう。
ちょっと紅茶でも飲んで気合入れなおそう。 
ともあれ、前作までで「どこでもドア」は破壊されたし、超光速通信手段もなくなった。
連邦そのものが依存していたインフラがなくなり崩壊してしまったと言える。 
移動には宇宙船が必要となるし、それには時間がかかるのだ。 
「エンディミオン」と「エンディミオンの覚醒」は主人公たるロール・エンディミオン
によって語られる。 
彼は物語冒頭から、殆ど脱出不可能の独房衛星に閉じ込められ、彼の回顧録という体裁
で話が進んでいくからだ。 
何故そうなったかも勿論語られていくが・・・先に書いたかつての巡礼者の一人、
老詩人のサイリーナスが自分のハイペリオン叙事詩『詩篇』を完成させるために
エンディミオンに無理難題を押し付ける所から始まる。 
この爺さん、いかに延命手術を受けているとはいえ、ハイペリオン時代で既に600歳
ぐらいなのだから、この時には千歳近くになっているはずだ。
老獪としか言いようが無い。 
爺さんの言い分は「時間の墓標がもうすぐ開く、少女が一人出てくるのでお前はその娘を
守れ」と。 他にも色々あるのだが・・。

 

ただの羊飼いだった青年にいきなりのインポッシブルミッション。
おそれいる。そして、「時間の墓標」から現れた少女こそが全宇宙の運命を左右する
「教える者」、レイミアの一人娘、アイネイアーなのだ。 
その予言自体が、またかつての巡礼者、ホイト神父・・・彼は教皇にまでなっている・・・
しかも、人類を脅かしたテクノコアとの混血であるアイネイアーを忌み嫌っている・・
から発せられたものだった。 
かくして、ロール・エンディミオンのアイネイアーを守る冒険の旅が始まる!
ってちょっと映画の宣伝みたいな。 
本作は、『ハイペリオンの没落』書評の最期にも書いたとおり、「銀河を股にかけた大恋愛小説」
なのだ。 
アイネイアーは「愛を知らなければならない」少女であり、そのためにはエンディミオンには
想像を絶する苦労が強いられる事になる。
その苦労を前以てもし知っていれば誰もが逃げ出す。 
そして、アイネイアーそのすべての苦労、先に待つすべての運命、すべての終焉を
「知っている」のである。勿論、そうだったとわかるのはもっと先の話。
ともあれ、彼らの活躍で幾多の謎が解き明かされていくし、新たな謎も生み出されていく。

 

老獪サイリーナスが出したインポッシブルミッションは
 1:アイネイアーを守護し自分の元に連れてくること 
 2:オールドアースを見つけて元の場所に戻す 
 3:アウスターと協力してバクス(時の一大宗教派閥)を壊滅 
 4:テクノコアの陰謀を暴け 
どれひとつとっても、羊飼いの青年には不可能な話だが、彼にしか出来ないという。 
何が何だかわからないまま読者の視線=エンディミオンの視線で語られる壮大な物語。

 

本作と最終作の魅力のひとつは、様々な惑星を旅するエンディミオンの目を通した描写。 
まるで、現実にあるかのような風の星や高山の風景、氷の星、緑の星、その他多くの
世界描写、これはもうダン・シモンズの真骨頂と言える。 
ノンフィクションの旅行記を読んでいるかのような鮮明な描写力。
また、宇宙に浮かぶ”聖樹船”や、アウスター世界の宇宙に樹木を張り巡らせた超巨大な
”バイオスフィア”の描写は心の中に美しいという言葉だけでは表現できそうも無い世界を
描いてくれることは間違いない。 
このシリーズが「とんでもない」作品であるのはこれらの緻密な、心の中に直接響いてくる
ような様々な描写なのだ。 
風のにおいかぎ、氷の冷たさを感じ、燃え盛る火の熱さに手を引っ込める・・・そんな
感覚をあなたもきっと感じることだろう。
アクションも満載だ。 超高速で移動するシュライクとシュライクを上回る性能をもつ
ラマダンス・ネメス部隊の闘いは、サイボーグ009が加速しながら強敵と戦うシーンを
思い出す。 
シュライクとは敵なのか味方なのか・・この謎も明かされるがそうそう簡単にはわからない
ように出来ている。 
ふふっ。 何せヤツは時間・空間に支配されない鬼神なのだ。

 

話は最終話『エンディミオンの覚醒』になだれ込む。
真の完結編、泣きに泣いた悲劇と大団円が待っている。