八戸女子中学生刺殺事件考2 包丁から窺える状況 | 人はパンのみにて生くる者に非ず 人生はジャム。バターで決まり、レヴァーのようにペイストだ。
「18時から18時20分まで家に居なければならない」。

中々、不可思議な被害者の言だが、一つ腑に落ちるものがあるとすれば、それは家庭訪問や面談の時間割としてよくあるものと云うことである。面談と云えば「三者面談」、即ち被害者・犯人・母親の三者による「面談」があったと解することが自然な流れとなろう。犯行後に犯人は、居間の窓から脱出、そのまま駐車場へと向かい、車で逃走したと見られている。逃走する中年男、不審車両を見たとの目撃証言がある。何よりタバコを吸っていることから、例えば被害者と同年代、高校生辺りの男子が被害者との交際を認めて貰うべくお願いに上がった線は極めて考え辛い。この日に限り、被害者は寄り道せず、この日に限り、母親は寄り道していることからすれば、元々は三者面談だったところを犯人の所望によって被害者と一対一で話す場が設けられた線が考えられよう。

何故、この日だったか。たまたまこの日に互いの予定が適合した線の他に、この日にバレエ発表会用の衣装が被害者宅に届くことになっていたことから、犯人が衣装の選定や費用負担に手を貸していた可能性を考える。また、急造感も覚える時間設定や警察の捜査から一応は浮かび上がらなかった点を鑑みるに(警察は不倫の線を疑っていた筈だ)、犯人は妻子持ち、或いは世話焼きで通っていた人間だったのだろうなとも思うものである。

さて、凶器の包丁である。現場には凶器が遺留されていなかった。したがって外部からの持ち込みと見る向きもあるが、胸ポケットに収まるタバコは兎も角として、缶コーヒーを凶器と共に持ち込むだろうかと考えるわけである。確かに名古屋市西区主婦殺害事件に於いて、犯人はヤクルトのミルミルを持ち込んだものとされる。しかしあれは再訪並びに玄関の鍵を開けさせる口実としてのアイテムであったと見る。これに対し、本件の場合には、予め面会の設定が為されていたわけである。また、母親がすぐに帰宅することも分かっているのだから容易に露見してしまうわけで、しかし母親は無傷なのだから皆殺しを画策していたわけでもなく、したがって殺害を予定していたものとは見做せない。被害者は口を濁したから相手は誰なのか容易には分からなかったが、例えば「親戚に会う」とか「親の知り合いに会う」程度は漏らす可能性も重々予想されることであり、やはり殺意は突発的に発生したと見るべきであろう。したがって凶器は外部持ち込みではなく被害者宅台所から持ち出されたことになる。

では遺体の傍らに転がっていた犯行時に於いて使用された形跡のない包丁は何なのか。これは被害者自らが台所より持ち出したものであろう。まさか合鍵を持っていたとは思わないが、犯人が無施錠の居間の窓より部屋に立ち入った可能性はある。それと云うのも、缶コーヒーを空にして、更にタバコを2本吸っているからである。被害者の帰宅が18時、犯行は18時15分過ぎ。15分の間に缶コーヒーを飲み干し、更にタバコを2本吸うのは如何にも窮屈に見える。缶コーヒーの中身が既に空で、初めから灰皿代わりにする目的で持ち込んだ可能性もないとは云えないが。そうなると被害者宅には灰皿がないことを熟知していたことにもなり、普段から出入りしていた可能性が浮上するものでもある。

仮に犯人が未飲の缶コーヒーを持ち込んでいた場合、被害者の帰宅前に既に居間に上がり込んでいた可能性が生じる。したがって帰宅した際に奥から不審な気配を感じた被害者がそのまますぐに台所に立ち寄って包丁を装備した上で、恐る恐る居間へ向かった線が考えられる。だが居間に居たのは見知らぬ人間ではなく、しかし「嫌いな人間」ではあったから気を許さない・心を開かない態度を見せるためにも、台所に戻すことなくひとまずその場に置いたままにした…これが一つ目の可能性。二つ目の可能性としては、犯人と一対一で話を進める中で被害者が激昂、台所から包丁を持ち出して「帰れ!」と叫び、犯人と揉み合いになって包丁を落とした線。いずれの場合にしても最終的に被害者は包丁を持たずに玄関へ向かい、外へ出ようとした…しかし犯人が羽交い絞めにしてそれを阻止した展開は確実なように映る。