はるかなる楽園 -12ページ目

はるかなる楽園

それは、何処かのもう一つの世界のもう一つの物語たち・・・・。


きみは初めておれの世界の中心で咲いた。


その大きく見開かれた目とピンク色の厚くて広い唇を今でも思い出せる。

その狭いあばら骨と細い首筋と小さすぎる頭蓋骨をおれは今でも思い出せる。


長いきれいな天子の輪ができる髪をバッサリ切ってきた時、

きみの短くなった髪は日の光が当たると少し茶色に輝くんだと知った。

きみのあらわになった首筋はとても清潔な色香を放ってた。


きみは風の谷のナウシカに出てくる腐海の植物の名前に詳しかったな。



きみはなめこの味噌汁が好きだったな。
あの頃は料理が下手でごめんね。


きみの薄い黄色の浴衣姿を思い出すよ。


きみと触れたきみの手は少し湿っていたな。


きみはどれだけ抱きしめられてきたのだろう?
きみが殴られなかったことをおれはただ祈る。


・・・・。


おれは快楽の海から追い出されて生まれ変わったんだ。
はじめは打ち上げられた魚みたく干からびていたけれど。
もう、果てしない夜迷わないでいるよ。


たくさんの夜達の放つ、咲き誇る華やかで激しい情熱は、
時として探している、見つからないきみの事を忘れるのに最適だったんだ。


きみはどれだけ抱きしめられてきたのだろう?
きみが殴られなかったことをおれはただ祈る。


・・・・。


おれは泳ぐ事を忘れた。
けれど今やっと歩ける。


朝早く目が覚めるんだ。
けれどそうなってから未だ眩い朝日はおれと会いたく無いみたいだ。


おれは娘にきみと同じ名前をつけたよ。
字は違うけれどね。


きみが水色とベージュの古着のスキージャケットとインディゴブルーのジーンズを履いて、
おれに告白してくれた時の事を思い出して名付けたんだ。


きみはどれだけ抱きしめられてきたのだろう?
きみが殴られなかったことをおれはただ祈る。