ボート釣りを始めた頃、魚が釣れても釣れなくてもとにかく楽しくて、大物を夢見てはいろいろなボート屋さんに出かけていました。

しかし、どこの海に出かけても何もない海面を眺めては、どこで釣りをすればいいのか、どんな仕掛けで何を狙えばいいのか、途方に暮れる日々が続いていました。

そんな頃、師匠のK田さんに出会い、『なかねボート』を紹介して頂きました。

何でも『なかねボート』では親父さんに電話すると、魚が釣れるポイントまでナビゲートしてくれると言うのです。

しかも観音崎ではアジが釣れるとのこと!

それまでは主に三浦半島の相模湾側で釣っていた私にとって、アジは希少なターゲットでした。

これはもう行くしかありません。

後日、意気揚々と『なかねボート』に出かけると、店中が大きなマダイの写真で溢れかえっていて度肝を抜かれました。


親父さんに挨拶して初心者であることを説明すると…

「じゃあポイント案内するから沖に着いたら電話して」と、そっけない説明。


沖に着いたので電話すると…

「何やってんだよ。そんなとこじゃねーよ。もっと沖だよ沖!沖に着いたら電話して」


最初は正直怖かったです(笑)
でも、親父さんはいつも「釣らせてやりたい」という気持ちで一生懸命説明してくれているのです。

その後はずっとアジ釣りに通いましたが、ズレたポイントで釣りをしているとすぐに親父さんから電話がかかってきます。

「何やってんだよ。そんなとこじゃねーよ。」

1年間は好きなポイントで釣りをさせてもらえませんでした(笑)


初心者が危なくないか、魚を釣れているか、親父さんはいつも見守ってくれていて、必ずサポートしてくれるのです。


口調が強いのはただのキャラクターで本当に優しい親父さんでした。


2年ほど通った頃、マダイを釣ってみたいと親父さんに相談したことがあります。

「マダイなんかそんな簡単じゃねーよ。釣れないからやめときな。」


サクっと否定されましたが、今なら親父さんの気持ちがよくわかります。

観音崎の複雑な地形を覚え、上げ潮・下げ潮で潮が当たる場所を覚え、季節ごとに移り行くポイントの変化を覚え、その上で仕掛けや釣り方を工夫して、ようやく1匹のマダイにたどり着く世界。

親父さんが電話で指示しないとアジすら釣れない初心者が目指せる釣りではないです。


私がボウズで帰るとかわいそうだと思って、親父さんはマダイ釣りをオススメしないのです。

その後、何年もかけて観音崎に通い、コツコツと勉強して、試行錯誤して、積み上げた私のマダイ釣り。

2023年の春に連続でマダイを釣って、ついに親父さんに認めてもらった一言が忘れられません。

「うまくなったよ。」



親父さんありがとう!

親父さんのおかげでボート釣りできるようになりました。

親父さんのおかげで子供の頃からの夢だったマダイを釣れるようになりました。

本当に感謝しています。

親父さんのご冥福をお祈りします。


※親父さんは2023年5月に亡くなられたとのことです。
つい先日まで亡くなられたことを知らず失礼いたしました。