「人を泣かせること以上に、心から笑わせることの方が難しい」
そんな言葉をよく目にしますが、その難しい事を言葉のないバレエで思い切り実現させてくれた!!と心から思えた素敵な作品『ラ・フィーユ・マル・ガリデ』(邦題では、『リーズの結婚』というタイトルで親しんでる方も多いと思います。イギリスでのタイトルは『御し難い娘』だそう)のライブ・ビューイングを見てきました。


昨年はこの作品のライブ・ビューイングを観に行く事が出来なかったので、今年こそはぜひに!と思っていましたが、無事に行ってくることができました。
公式サイトです。

http://www.roh.org.uk/showings/la-fille-mal-gardee-live-2015



この群舞でリボンを結びながら踊る場面も素晴らしかったです


メインキャスト
未亡人シモーヌ:フィリップ・モーズリー
リーズ:ナタリア・オシポワ
コーラス:スティーブン・マックレー
トーマス:クリストファー・サウンダース
アラン:ポール・ケイ


心から笑わせ、HAPPYな気持ちにさせてくれて、それなのにどこか心の底でホロリとする気持ちも残る、フレデリック・アシュトンのバレエへはもちろん、イギリスの田園や民族舞踊への深い思いがそこここに散りばめられた、本当に素敵な作品だと改めて実感させてもらえた豊かな鑑賞になりました。

タイトルこそフランス語ですがフレデリック・アシュトンの素晴らしい振付のおかげで、すっかりロイヤル・バレエの十八番作品のイメージで有名なこの作品は、田園の朝の情景の中、鶏になりきった被り物での踊りに始まり、出ずっぱりの主役達も小道具を多彩に使いながらも役になりきって演じられ、それでいてアシュトンらしい超絶技巧を楽しそうにこなす力も要求される凄いバレエ。
これが1960年の初演作品だとは・・・・・
いやはや、本当にアシュトンがロイヤルのお客様に深く尊敬され、愛された意味が理解できますし、改めて敬服させられます!!

イギリスバレエお得意の(?)被り物で踊る大変さは、映画館でも流れた練習動画やインタからも伝わってきましたが(ブログのラストに上映中に流れた動画を貼るので、動画のみ見たい方は下の方をご覧下さい)けれども、その過酷さを知った上でも作品を観てる時には何もかもを忘れて、鶏になりきったダンサーさん達が冒頭から大活躍するのを楽しく見せてくれたあたりも素晴らしい。



とんでもないお転婆娘リーズ(ナタリア・オシポワ)の母親であり未亡人のシモーヌは、なんとかしてリーズを金持ちのボンボン息子のアランを結婚させようとあれやこれやと画策しますが、貧しいけれど誠実で優しい恋人コーラスを愛しているリーズは、母親の言いなりにはならじ!と母親のスキを掴んではコーラスとの愛を育み、村人達もそんな2人を応援します。




今までこの作品は、地元での上演が希少なので映像をメインで見てきていますが、正直なところ、ここまでタイトル通りのじゃじゃ馬ぶりを思い切り発揮したリーズは、オシポワが初めてのようにも思えました。
インタビューでも「いたずら好きで明るいリーズは自分に似ている」と語っていましたが、この役は彼女には本当にハマっていました。体中から溢れる元気さとお転婆ぶりとエネルギーは、自然に素の彼女からのものに思え、なんだかおかしくて微笑ましい気持ちにもなります。

もちろん、コーラスとの愛の象徴のようなリボンを使った踊りでは、ぎこちなくなる場面も少しばかりは見られましたが、思い切りのいいコミカルで明るい演技からは、言葉ではない気持ちが溢れてくるようでしたし、それでいて、強い技術を持つオシポワらしく、驚くようなバランスや跳躍や足捌きを何度も見せてくれて、そのテクニックの凄さには驚きに近い気持ちで見入ってしまいました。
男性並みの高さや滞空時間のあるジャンプ、それに、もしや映像を高速にしたのでは?と見まごうようなステップを見ていると、瞬きする時間も勿体ないように思えたほどで!!



また、リーズの恋人コーラス役のスティーブン・マックレーは、どれだけ引き出しの多いダンサーなのかと感心してしまいます。

オシポワと組んで踊る彼を見るのは初めてでしたが、彼女のお転婆娘ぶりがここまで生きたのはマックレーのおおらかで温かみのある、そして正確な踊りとサポートが、彼女をより闊達に見せてくれたのではないかと思えました。
それでいてソロになると相変わらず足先つま先までなんら乱れのない綺麗で清潔感溢れる美しい踊りで、難しいピルエットも笑顔でサラリと決めてしまい、見惚れてしまいます。

リーズをコーラスと引き離し、お金持ちのボンボン息子の婚約者アランと結婚させる為、リーズの母親シモーヌはあれこれと画策するものの、それを拒否するリーズ達とのドタバタ劇がこの作品のメインの流れ。
お金持ち息子のアランは、どこかおかしなキャラで、真っ赤な傘がお気に入りでいつも大事に持っています。小道具を持つ場面の多いこの作品ですが、お間抜けキャラのアランも傘を持ったまま、どこかぼーっとしてるように見せながらも実はかなり難解なステップを呆けたような演技とともに見せるあたりがスゴイ。

また、母親役のシモーヌはフィリップ・モーズリーが女装して踊られましたが、リーズとの騙し合い、掛け合いが楽しすぎでした。
シモーヌは一見、煩い母親にも見えるのですが、皆から囃し立てられると、ついつい嬉しそうに得意の「木靴の踊り」を踊り出したりするノリのよさを見せ、彼女も決して悪人ではなく、お人好しのキャラが感じられる場面も多いのです。
この作品の魅力のひとつは、どこにも誰にも本当の悪や影がないことなのかもしれない?と思ったりもします。

このシモーヌが踊る麦畑での木靴の踊りもこの作品の見どころのひとつ。
音楽も振付も本当に楽しいのですが、ダンサーにとっては大変なのではないかと思います。けれどもシモーヌはもちろん、一緒に踊るリーズの友人達もとても軽やかに楽しげに見せてくれて、アシュトンが愛したという牧歌的なイギリスの田舎の雰囲気がしっかりと伝わってきます

そんな楽しい踊りが次々に続く麦畑での収穫の場ですが、そこに突然大嵐がやってきたので、みなはバラバラになり、ここで一幕が終わります。
一幕では本物のポニーも登場してリーズ達を乗せて舞台を走るのですが、お客様から贈られたという人参や林檎で出来たブーケを楽しく食すポニーの様子を幕間でダーシー・バッセルがリポートしてくれたのも楽しかったです。




二幕の冒頭では、ますます激しくなったシモーヌとリーズとの掛け合いがますます舞台を盛り上げます。

リーズを家の中に閉じ込め、コーラスと会わせないようにしてなんとかアランと結婚させようとするため、タンバリンを叩いてリーズを踊らせるシモーヌ。(ここですぐにタンバリンに合わせて素晴らしい踊りを見せるくれるリーズですが、彼女はノリよく木靴の踊りを踊った母親に似ているのかもしれません)
けれどもだんだんと眠くなってきたシモーヌの様子を伺いながら、ポケットにそぉっと手を入れて鍵を取ろうとするリーズと、それに気づいて怒るシモーヌを騙そうとして不自然な仕草を見せるリーズとのやり取りを見てると、ここまでシモーヌとリーズが母娘だと実感させられたバージョンは初めてかも?と思うはじけた空気が漂ってきて、思わず笑顔になってしまいます。

あれやこれやとコーラスも顔を出しますが、ついにリーズが家の中に一人きりに。
家の中に閉じ込められついに絶体絶命?かと思いきや、そこで凹むどころか、コーラスとの築くであろう幸せな家庭を夢見て楽しく踊れるのが、さすがの逞しいリーズちゃん!!
けれど、部屋の中に置かれた麦の束の中から絶妙なタイミングで隠れていたコーラスが飛び出してきた時には、「恥ずかしい様子を見られた!」とばかりに泣いてしまい、優しいコーラスに鼻をかんでもらうリーズ。
彼女はきっとおとなしやかな奥様ではなく元気娘のまま、優しい旦那様に大切にしてもらえるのだろうな・・・・と、伝わってくるこのあたりの2人のやりとりにもホロリとさせられます。

そんな幸せを予感させてくれる真っ最中だというのに、シモーヌがアラン達を結婚させるために帰宅したので、リーズとコーラスは家の中で大騒動になります。
暖炉の中に隠れろ!だの、引き出しをあけてこの中に入れ!だの、無茶を指示するリーズに「無茶いうなよー!」と全身で困った気持ちを伝えるコーラス。
ここの流れのテンポのよさと演技があまりに絶妙なので、映画館でも笑いが起こっていました。
結局、リーズの寝室に閉じ込められたコーラス君^^;

コーラスが隠れた直後に帰宅してリーズの不審な様子に気づいたシモーヌが彼女を閉じ込めるのが、幸いなことにコーラスが隠れたのと同じ寝室なので、
さて結婚準備もしっかり整ったので・・・とリーズを出す為に扉を開けた途端、熱いキスを交わすリーズとコーラスの2人が飛び出してきてみながびっくりする流れも、わかっていてもとても痛快です。
当然のことながらアランとの結婚は破棄されるものの、初めてしっとりとした様子でコーラスへの愛を母親に訴えるリーズはすこーしだけ大人の女性に風情を見せてくれました・・・・・
が、、シモーヌに許しをもらい、皆に祝福され結婚の喜びを謳いあげるように踊るリーズとコーラス、そして温かい仲間達の様子を見ていると、これからも楽しい日々をコーラスや友人達とリーズは過ごしてゆくのだろうなと感じられ、見つめていると自然に笑顔になれるのです

2人を祝福して踊る友人達に囲まれながらみなが外に出て行った後、ここで終わりかと思いきや、人影が見えてきます。
ここで再び登場するのはリーズに袖にされたアランです。
初めてこの場面を見た時は「アランはなにか悪さをするのでは?」と心配したものでしたが、この作品の明るさはラストまで見事に生きていました。
アランがこの家にそっと戻ってきたのは、お気に入りの大事な真っ赤な傘を取りに来るのが目的で、アランは傘を手にした途端、とても嬉しそうになり、見事なステップを見せながらはけてゆきます。

お金持ちのボンボン息子でちょっと知恵が足りないのかもしれませんが、彼は人を恨む事を知らない愛すべきキャラなのがわかり、観客をますます楽しい気持ちにさせてくれます。
そして、いよいよ本当に楽しかったこの舞台に幕が降りてゆきます。
このエンディングにはまた違う角度の愛が溢れているように思え、大好きです。

そして大喝采に包まれるカーテンコールが続きます。
現地でこの公演をご覧になったフォロワーさんも、映画館を見ていた私達も同じように感じたのは、リーズを熱演されたナタリア・オシポワへの拍手があのスティーブン・マックレー君以上に大きかったことですが、ロイヤルのお客様が移籍してきた彼女の頑張りとその素晴らしい技術に、そしてロイヤルならではの演技力を身につけてゆく舞台を喜びながら見守り応援していらっしゃるのが感じられた、このカーテンコールもまた、温かさに満ちた時間に思えました。



ロイヤルの今シーズンのライブ・ビューイングのバレエは、このHAPPYな気持ちを届けてくれる素晴らしい作品で幕を閉じましたが、来シーズンもぜひとも続けて欲しいと願っています。

ライブ・ビューイングは手軽な値段で臨場感ある演目を見られることはもちろん、上演前と幕間で流れる練習風景やインタビューもその魅力のひとつです。

今回もアップして頂けてる動画を貼らせて頂きます。
今回のインタビューは、自身もリーズを踊られ、コーチングもされたレスリー・コレアにダーシー・バッセルが互いの経験談も含めながら進められました。
レスリーによると、オシポワはバランスや足捌きなどは完璧で素晴らしいけれど、英国スタイルのポール・ド・ブラにはまだ少し課題があるのだとか。伸びしろがまだある意味にも思えますので、彼女のこれからの踊りからも目が離せないように思えます。

小道具でもあり、大事な愛の象徴のようなリボンの扱いについてはレスリーもダーシーもやはり苦労したそうですが、これは想像に難くありません。けれどもこんなに人を自然に笑わせ幸せにしてくれる作品は、これからも長く長く踊りついで欲しい素敵な演目だと思います。

上演前に流れた練習動画です。

https://www.youtube.com/watch?v=el4z9bJDO4o


レスリー・コレアのダーシー・バッセルがインタビューされた動画。幕間に流れました。
レスリーが初演の頃のりボンを大事にされてて見せて下さいました。
また、アシュトンについて、彼の中にバレリーナが見えると語った言葉も印象的でした。
(注:映画館では字幕が流れます)

https://www.youtube.com/watch?v=_msyQ-e_cCY


一般的な仕事をされてる方にとっては、ゴールデンウィークの最後の夜になったはずですが、明日からまた大変だなぁ・・・・的な気持ちの方も多かったであろう中、ダーシー・バッセルの言葉を借りると「元気をくれる」作品を通じて笑顔で帰宅されたバレエファンも多いのではないでしょうか。

来シーズンは『ロミオとジュリエット』から始まるというロイヤルのライブ・ビューイングがこれからも日本で広く上映されることを心待ちにしています



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