ダーリンはマザコン -12ページ目

職業差別(2)

あくる日、私と宏樹はママとレストランへ行く事になりました。 ママが招待してくれると言うので断るわけには行かなかったのです。 しかし、私は乗り気ではありませんでした。 つい数日前に、例の職業差別の口論で 「母さんに言いつけてやる!」 なんて事を宏樹に言われた矢先の呼び出しだったので、またもや説教かと思い、気が重かったのです。




「こんばんは。 お久し振りです。」




待ち合わせ場所でママを見るなり挨拶した私。

それに対してママは・・・






「ヒロ君、お店にはもう予約してあるから。

 ヒロ君の分はママが払っておいたからね。」



「あれ? じゃあ美砂の分は?」



「美砂ちゃんは家族じゃないんだから自分で払わないと。」






私の挨拶を完全に無視し、更に 「誘ってやったが自腹で食えよ」 発言。 間違いなく今夜の議題は 「職業差別」 です・・・。 子供の喧嘩に首を突っ込む母親なんてたくさんいるだろうけれど、ママの場合はいつも手口が幼稚です。 無視をしたり、のけ者にしたり、そんなのばかり。



私たちは駅から徒歩15分ほどのところにある、こじんまりとしたフレンチのお店へ行きました。 ここはママとパパご贔屓のお店らしく、店の女主人はママに特別なシャンパンをサービスしていました。




「美砂ちゃん。 ヒロ君と喧嘩したんだってね。」




今日、私への初めての言葉がコレです。 私は 「やはりそう来たか!」 と思い、予め考えておいた言葉を返しました。




「喧嘩と言っても、価値観の違いから生じた口論です。

 言い争った所で解決するものでもないですし、

 どちらかが相手を言い負かした所で何の得にもなりません。

 互いの意見をぶつけるのではなく・・・」




まだ私が発言中にも拘らず、ママは言葉を返してきました。

そこから窮屈な口論は始まったのです。




「大卒と高卒、どっちが偉いと思う?」



「偉いかどうかは個人差があるので、一概には言えないと思います。」



「大卒が偉いの。 大学院卒だったらもっと偉いの。」



「それは “偉い” という表現じゃ語弊があるんじゃないですか?」



「じゃあ何? 賢い? 頭がイイ?」



「この場合の的確な表現は分かりません。

 だけど、学歴で人格が決まるわけではないと思います。」



「学歴は人生の基盤になるの。

 高卒と大卒では、社会に出るとお給料が全然違うの。

 これが社会的な評価なの。 知ってるでしょ?」



「はい。 その辺りはよく分かっています。

 でも、それがすべてではない・・・って事を言ってるんです。」



「美砂ちゃんは高卒でしょ。

 じゃ、ちょっとヒロ君に聞いてみましょうか。

 高卒の美砂ちゃんと大卒の美砂ちゃんがいたら、

 ヒロ君はどっちの美砂ちゃんを選ぶ?」






ママは宏樹に振りました。






「大卒の方だろうな。」



「ほらね? そういうモンなのよ。

 これはヒロ君だけに限った事じゃなくて、みんなそう。

 高卒よりは大卒がいいのよ。」



「・・・・・・。」



「部落出身者もそれと同じでね、社会的地位が決められてるの。

 部落の出ってだけで、そういう目で見られるのよ。」



「お母さんや宏樹君はそういう考え方でも、

 皆が皆、それと同じ考えを持っているわけではないですよ。

 少なくとも私の家族は違います。」





「美砂ちゃんの家って、

 本当は部落出身なんじゃないの?」





「もしそうだったらどうなんですか?」



「もしそうだったら?

 もし美砂ちゃんが部落出身者だったら、今すぐ帰ってもらうワ。

 ヒロ君ともここで縁を切ってもらうワ。」




「え!? 美砂の家系って武家だって言ってたよね!?」




「あ、そうなの? ならいいじゃない。」



「家系が何だって言うんですか・・・。

 確かにうちは武家の家系ですよ?

 でも、だからそれが何だって言うんです?」



「それは誇りを持っていい事よ。」



「先祖が武士だろうが商人だろうが、

 私はそれを恥じたり驕ったりするつもりはありません。

 それに第一、私の人生には未だ何の影響も無いですよ?

 強いて言えば、ここでこうして秤に掛けられているくらいです。」



「美砂ちゃんはもういい大人なのに、世間を知らな過ぎるのね(笑)。

 気付いていないだけで調べられてるのよ?

 学校に入学する時や、会社に就職する時に。

 ちゃんとそういうのを調査する専門業者があるんだから。」



「興信所の事ですか?」



「そう。 興信所はそういうのを調べてくれるの。

 身分を隠して受験する人なんてたくさんいるから、

 試験に合格したら家系を調べるのよ。

 そこで部落出身だと分かったら、学校側が入学を拒否したりするの。」






いい加減に私も気分が悪くなってきたので、この下らない説教を止めるよう言いました。 隣のテーブルのカップルも、私たちの方を訝しげな目で見ています。






「もう止めませんか?

 公衆の面前で話す事でもないですし、

 ここでお母さんが何を言ったって、私の考えは変わりません。

 もちろん、私もお母さんや宏樹君の考えを変えようとも思いません。

 こうして言い争う事で関係が悪くなるのは不毛だと思います。

 いいじゃないですか。 違う価値観があったって。」






「美砂ちゃん・・・帰って。」






おい!! なんでそーなるんだ!!

テメーから呼びつけておいて・・・無礼者!!




「母さん・・・食事くらいいいじゃん。 もう頼んじゃってるんだし。

 食べたらすぐ帰らせるから・・・。」



「宏樹、いいよ。 私も居心地悪いから帰りたい。」



「私、この子なんか嫌いだワ。

 宏樹、もう別れてちょうだい。

 この子の言ってる事、部落民と同じだワ。」



「でも美砂の家は武家なんだろ? だったらいいじゃん。

 母さんが嫌いでも、俺は好きなんだし。」






言ってる事は相変わらずだけれど、宏樹がかばってくれた事に少し安心しました。 ここで 「母さんがそう言うなら別れるよ。」 なんてならなくて、本当にそれだけは安心しました。




「アラアラ、仲良くしてくださいね。」




そろそろ退散しようかと思っていると、絶妙なタイミングで女主人が前菜を運んできました。 女主人は私たちの口論を一部始終聞いていたようでしたが(小さな店なので声が届いていたに違いない)、あえてその内容には触れず、場を和らげようと一声掛けてくれたのでした。




「ねえ、ミエさんはどう思う?」




嫌な予感はしていました。

案の定、このクソババママは女主人に話を振ったのです。






「え? 何がですか??」



「部落民の事。

 やっぱり部落出身者はマトモな扱いは受けれないわよね?」



「さぁ・・・。 どうなんでしょう・・・。

 私は料理一筋に生きてきたから世間を知らないので・・・。」



「でも、部落出身者じゃこんなお店を出したりできないでしょ?

 お料理の勉強だって出来ないものね。」



「・・・どうなんでしょう。」



「部落出身者は底辺の仕事しか出来ないのよ。

 女だったら風俗や水商売、男だったら工事現場。

 工場や配管工もあるかな。」



「あの・・・こういう話題は控えてもらえませんか?」



「そうね。 部落の人が聞いてるかも知れないからね(笑)。

 部落民の話なんてしちゃってゴメンナサイ。」







それ見た事か!!!


お~こられた~おこられた~♪


ザマーみそづけ!!!