秋山進氏の著書『企業不祥事の真相 「普通の人」を悪者に仕立てる歪んだ構造』を読み終えた。
本書の冒頭、宝塚歌劇団の悲しい事件と、ダイハツの試験不正問題が「同根の問題」であるという指摘に、一気に引き込まれた。全く違う業界に思えるが、どちらも「慢性的なリソース不足の中で、無理な計画や目標を現場に押し付けた結果、現場が限界を超えて不正や悲劇を生んだ」という構造が完全に共通しているのだ。
この本は、一部の悪人が意図的に起こす不祥事ではなく、組織の歪みによって「普通の人」が不正に追い込まれていくメカニズムを解き明かしている。経営者として背筋が凍るような危機感を覚えた。今回は、自戒を込め、自分への忘備録として、本書から得た示唆をまとめ直しておきたい。
もちろん、丸信で将来、経営の一翼を担おうとの気概を持つ方は全員一度は読んで欲しい。
読み物としても面白いので一気に読めるでしょう。
1. 業界の「常識」が、世間の「非常識」に変わる恐怖
当事者に「不正をしている自覚がない」場合でも、ある日突然「やり玉」に挙げられ、社会から抹殺されるリスクがある。リクルート事件の未公開株配布は、当時としては慣習として行われていたが、江副浩正氏だけがターゲットとなった。そもそも大手証券会社の勧めによって行ったことで訴追された訳だから御本人はさぞ無念であっただろう。(全くの余談ながら、学生時代のアルバイト先の店長のお嬢さんが江副さんの秘書のお一人であった。何度かアルバイト先でお会いした。就職したいなら言ってあげようか?と言われたが無知でプライドだけ高かった私は丁重にご辞退した記憶がある。)
既得権益への挑戦者(リクルートやライブドアなど)がひとたびターゲットになれば、その慣習は厳正に法律に照らして「重大な不正」として糾弾されることもあるのだ。
「昔からやっている」「他社もやっている」という甘えは、ある日突然、企業を致命傷へと追いやる。自社の「当たり前」を常に疑う客観的な視点が必要だ。
2. 強力な「共犯関係」に引きずり込まれるリスク
特に深刻なのが、特定の強力な顧客や仕入先の影響力が強すぎて、不正を容認せざるを得ない状況に陥ることだ。
ジャニーズ事務所の性加害問題は、20年以上も前に裁判で事実認定されていた。本来、その時点でマスコミが報じるべきだったのだ。しかし主要メディアは、強力なコンテンツ供給元である事務所への依存ゆえに一切取り扱わず、結果として被害者を増やしてしまった。加害者が亡くなり、海外メディアが報じるまで沈黙した日本のメディアは、厳しく姿勢を問われるべきだろう。
これは損保ジャパンとビッグモーターの関係も同根だ。圧倒的な取引量を失うことを恐れるあまり、不適切な要求にズルズルと引きずり込まれ、不正の片棒を担いでしまう。
丸信にとっての強力なお取引先に対しても、我々は果たして「NO」と言い続けられるだろうか。取引関係の不均衡が、現場の社員を「悪者」にしてしまうリスクを常に意識しなければならない。
卑近な事例だが、補助金や助成金に絡む不正(とまでは言えないか)を要求されることがある。
日付を誤魔化して欲しい。金額の明細を変えて欲しい等々。お金が絡むから怖い。通常の取引への影響も暗示されることもあるが、断じてお断りしている。共犯にだけはなりたくない。
3. 「素人トップ×スピード重視」という危険な組み合わせ
新規ビジネスにおいて、トップがその領域の専門知識を欠いたまま「スピード」だけを求めると、致命的な不祥事を招く。
・リクナビの内定辞退確率提供サービス:
私も「そのデータは欲しい」と感じた一人だ。しかし、当時のリクルートは個人情報保護法に対する認識が浅かった。
・セブンペイ問題:
不正アクセスが相次いだ後の記者会見で、トップは「二段階認証」という基本用語さえ知らなかった。
・DeNAの医療キュレーション(WELQ):
薬機法のチェックを経ず、他サイトのリライト(盗用)や誤情報を含むコンテンツを大量生成して収益化を急いだ。事業トップに就いた専門家はWebメディアのプロではあったが、医療や薬機法の素人であった。
かつては未成年に大量課金させたコンプガチャ問題でも法的問題を指摘された。
結論:
「素人トップ×スピード重視」は、コンプライアンスの欠如を招き、企業価値を一瞬で吹き飛ばす。
4. 「哲学」を語り「財務」を軽視するリーダーの大罪
日本の巨大企業を破滅させたリーダーたち(T芝のN氏やカネ◯ウのI氏など)の共通点は、名誉欲が強く、立派な経営哲学を雄弁に語る一方で、実際の財務や数字には無頓着だったことだ。
彼らは高邁なビジョンを掲げ、世間から称賛されることを好んだが、現場のリソースや財務的現実を無視して「なんとしても目標を達成しろ」とプレッシャーをかけ続けた。トップが掲げる「立派な哲学」と「実現不可能な数値目標」の間に挟まれた現場の「普通の人たち」は、不正な会計操作で辻褄を合わせるしかなくなった。
「哲学」を語る経営者ほど、現実の財務とリソースにシビアでなければ、社員を地獄へ追い込んでしまう。
5.非常時に甘くなる倫理観
コロナ禍は多くの企業不祥事を産んだ。
地元久留米では人気結婚式場が雇用調整助成金の不正受給で倒産し、経営者も実刑を受けた。
多くの旅行代理店(大手を含む)でも同様の事件は多数起きている。
コロナワクチン接種会場の運営受託をした企業でも悪気はなくても、不正と認定されたケースも多く出ている。
GOTOトラベルに関する不正受給も多かったようだが、これに関しては意図的でたちが悪い。
「非常時だからこれくらい許されるだろう」
「急にできた制度だから細かくチェックされないだろう」
「みんなやっているから、うちも」
同情には値するが、非常時こそ倫理観を保つことが求められる。
とは言え、私は冷静でいられるだろうか、、
6. 究極の選択で「正しい行動」がとれるか
本書の事例で、大手食品メーカーのトップがJALのラウンジで女性スタッフにセクハラを繰り返した際、JAL側が毅然と正式クレームを入れ、相手側トップを辞任に追い込んだ話がある。フジテレビがタレント側の不祥事を内部処理しようとした姿勢とは対照的だ。
JALにこれができたのは、多くの顧客層を抱えており、大手といえども一食品メーカーの取引は全体から見れば軽微だったからかもしれない。しかし、これは経営者が試される場面だ。
強力なお客様が、自社の守るべき社員に不条理な危害を加えた時、我々は自社の不利益を覚悟してでも社員を守り、正しい行動がとれるだろうか。
実は一度大いに悩んだことがあったが、お客様側から謝罪を頂き事なきを得た。
謝罪して頂けなかったら、、、大きな取引を失う覚悟でクレームを入れるか、見て見ぬ振りをして社員からの信頼を失うかの大きな二択を迫られただろう。
自分への教訓としてのチェックリスト
最後に、自分への厳しき戒めとして以下を記しておきたい。
□ 新規事業には、現場の熱量と同等以上の「法務・倫理チェック」を必須とする。
□ リソース不足や無理な計画でありながら、現場に「結果だけ」を求めていないか。
□ 強力な取引先から「不正に加担させられるリスク」を、経営者が盾となって遮断しているか。
□ 非常時(不況や混乱期)こそ、より高い倫理観が必要である。
□ 経営者の名誉欲や暴走を、客観的に牽制する仕組みを備えておく。
社員が誇りを持って、正しく働ける環境を作る。
現実の数字を直視し、現場に無理な嘘をつかせない。
名誉欲や見栄を遠ざけろ。
土曜の朝。リビングにて
