『フィードバック経営』に学ぶ。沈黙の組織を変える「コーチャビリティ」とは | 株式会社 丸信 社長のブログ

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前回のブログでは、毎年全社員から私宛に届く「直接申告書」という600通を超える耳の痛い声に向き合う葛藤と、それを丸信の未来を創る「一灯」として受け止める覚悟について書いた。

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ちょうどその直後、まるで今の私の課題を見透かしたかのように、非常に学びの深い一冊の本に出会った。三村真宗氏の著書『フィードバック経営 「沈黙の組織」から「高め合う組織」へ』である。(分厚い本だ) 著者の三村氏は、株式会社コンカーの代表として「働きがいのある会社」ランキングで7年連続1位という偉業を達成した経営者だ。

 シルバーウィークは来月の行橋別府100キロウォークの練習に多くの時間を費やしたが、せめて1冊は良書を読み切って自分の成長につなげたいと考えたのだ。

 

 

 

会議で誰も本音を言わない。現場の問題が経営に届かない。そんな「沈黙の組織」を、対話によって互いを「高め合う組織」に変えるための実践的ノウハウが体系化された素晴らしい本だった。 今回は自分自身へ反省と備忘録を兼ねて、本書の骨子を記録するとともに、苦手な「フィードバック」のコツ、部下を育成する要諦、多くの経営者に共感してもらえるであろう「権力の孤独」について書き留めておきたい。

 

心理的安全性は「原因」ではなく「結果」である

近年、多くの企業で「心理的安全性」という言葉が叫ばれている。しかし著者は、「安全な場をつくれば声が出る」という順序は逆だと指摘する。

 

声が届く仕組みをつくり、届いた声にしっかりと応える。社員同士が率直に耳の痛いことも伝え合い、互いを高め合う。その対話の積み重ねの先に、結果として「安全な場」が生まれるのだ。 心理的安全性は、対話とフィードバックを繰り返した後にできる「轍(わだち)」のようなものだという考え方は、私にとって非常に腹落ちするものだった。

 

相手の成長を心から願うがすべての基本

この本を読みながら、私自身が深く反省したことがある。それは「部下へのフィードバック」だ。

特に私は部下に対して耳の痛い改善点(ギャップフィードバック)を伝えるのが得意ではない。波風を立ててモチベーションを下げてしまうのではないかと、つい躊躇してしまう。

 

しかし本書は、フィードバックの本質は過去に白黒をつける「評価(ダメ出し)」ではなく、相手の未来を良くするための「成長支援」だと断言する。 まさに『人づくり』を経営の目的としている私にとって、これは真っ先に改善すべきテーマだ。

 

ここで絶対条件となるのが「相手の成長を心から願うマインド」である。どんなに伝え方の技術を磨いても、この大前提がゼロであれば、フィードバックの効果はゼロになる。さらに、それを根付かせる土台となるのが「経営理念」だ。何を目指しているのか、なぜこの仕事をしているのかという理念が現場に浸透していて初めて、厳しい指摘も「同じ目標に向かうための軌道修正」として意味を持つのである。

 

また、相手の強みを認め、良い行動を強化する「ポジティブフィードバック」において、私がハッとさせられたのが「I(アイ)メッセージ」の活用だ。 「素晴らしい資料だね(You主語)」と伝えると、上司からの評価・採点に聞こえ、相手が身構えてしまうことがある。これを「この資料のおかげで、私(I)は会議で自信を持って説明できたよ」と主語を自分に切り替える。すると、「お世辞」ではなく「私の仕事が役に立ったのだ」という揺るぎない事実として相手に届き、自己効力感が高まるというのだ。

 

対話の前に整える「8つのRight(ライト)」

いざ耳の痛い「ギャップフィードバック」(ネガティブフィードバック)を伝える際、本書では対話の「前」の準備が極めて重要だと説いている。同じ言葉でも、タイミングや関係性次第で届き方はまるで変わるからだ。著者はこれを「フィードバック準備の8つのRight」として整理している。

 

  1. Right Initiative(自ら伝える): 「言わなくてもわかるだろう」は上司の怠慢だ。言葉にせず不機嫌な態度で察させようとするのは、指導の放棄である。

  2. Right Timing(適切な機会に): プレゼンや商談の直後など、出来事の記憶が鮮明なうちに伝える。時間が経つとお互いに事実の認識がズレてしまう。

  3. Right Attitude(適切な態度で): 厳しさの前に「温かさ」を示す。「良い仕事をしているのにもったいないな」など、相手を大切に思う気持ちが先にあってこそ、厳しい言葉も届く。

  4. Right Atmosphere(適切な雰囲気で): 日頃からポジティブフィードバックを厚めにしておく(ポジティブ8~9割:ギャップ1~2割の割合が理想)。

  5. Right Relationship(適切な関係性で): 日々の小さな関わり合いや声かけで、一人ひとりとの信頼関係を築いておく。

  6. Right Environment(適切な環境で): 人前での指摘は指導ではなく、ただプライドを傷つけるだけ。必ず「1対1」で。また、冷たく伝わるメールやチャットは避け、「口頭」で伝えること。

  7. Right Fact(適切な事実で): 「いつも遅刻する」といった抽象的な評価ではなく、「火曜と木曜の会議に遅れた」という事実(ソラ)を伝えるために、日頃からメモをとっておく。

  8. Right Mind(適切なマインドで): 自分のストレス発散のためではなく、相手の成長を心から願って伝えること。

この8つは耳が痛い。私自身も、「あの時言っておけばよかった」と先送りにして問題が大きくなったり、メールやLINEで冷たく注意してしまったりした経験が多々ある。対話の技術の前に、この8つの条件を整えることが上司の責任なのだと痛感した。

 

ギャップフィードバックは「ソラ・アメ・カサ」で

8つの準備を整えた上で、実際の対話はどう進めればよいのか。ここで有効なのが、「ソラ(空)・アメ(雨)・カサ(傘)」のフレームワークである。

 

いきなり「カサを持て(改善策・打ち手)」と指示してはいけない。

まず、「空に黒い雲が出ているね(誰が見ても明らかな客観的事実の共有=ソラ)」を確認する。

次に、「このままだと雨が降りそうだね(事実から導き出される課題の掘り下げ=アメ)」と対話する。

双方が事実と課題に納得(腹落ち)して初めて、「じゃあ傘を持っていこう(具体的な打ち手=カサ)」という改善策が相手に受け入れられるのだ。事実(ソラ)も確認せずに「こうしろ(カサ)」と押し付けるのは、検査もせずに薬を処方する医者と同じであるという指摘は、まさにその通りだと唸らされた。

 

指摘を未来への贈り物に変える「コーチャビリティ」

そして、本書が非常に画期的なのは、伝える側(上司)のスキルだけでなく、受け取る側のスキルである「コーチャビリティ」の重要性を徹底して説いている点だ。

 

キャッチボールと同じで、いくら上司が良い球(フィードバック)を投げても、受け手がグラブを構えていなければ球は地面に落ちる。フィードバックの価値を決めるのは、受け手が耳を開いているかどうか(コーチャビリティ)なのだ。

 

コーチャビリティとは、他者からの助言や耳の痛い苦言すらも、自分を更新するための「伸びしろ」として受け止める能力のことである。

人間の心の中には、「もっと良くなりたい」という成長意欲(アクセル)と、「傷つきたくない・否定されたくない」という忌避傾向(ブレーキ)の2つの力が綱引きをしている。このブレーキが強すぎると、フィードバックを攻撃と捉え、言い訳をしたり黙り込んだりしてしまう(アンコーチャブルな状態)。

 

大切なのは、耳の痛い言葉を反射的に弾き返すのではなく、まずは自分の防御反応に気づき、「ありがとうございます」と一旦受け取ること。(これはなかなか難しい)

ただし、コーチャビリティとは何でも言いなりになる「従順さ」ではない。もらった言葉の中から事実と解釈を分け、自分に必要なものを自分で選び取り、明日の行動に変える力なのだ。

 部下の「コーチャビリティ」をどう育てるか

では、上司として部下のコーチャビリティをどう育てていけばいいのか。

 

事実として、すんなりと助言を受け入れる部下もいれば、伝える側が強いストレスと覚悟を必要とする部下もいる。後者の場合、つい伝えるのをためらい、結果として問題が大きくなってから慌てて重いフィードバックをする羽目になっていたのが過去の私だ。

 

「素直に聞きなさい」「成長のために必要だ」という精神論を押し付けても、部下の心には響かない。有効なのは「損得」で伝えることだという。「フィードバックを受けて改善できる人と、避け続ける人では、3年後のキャリアの選択肢がまったく違ってくる」と、長期的な損得を冷静に伝える。そうすることで、部下は「言われたから従う」ではなく、「自分のキャリアのために自分で選ぶ」というスタンスに変わるのだ。

 

その上で、部下のタイプ(成長意欲と忌避傾向のバランス)に合わせた伝え方の工夫が必要になる。

 

  1. 高成長タイプ(意欲高・忌避低): 遠慮せず、高い期待とともにストレッチ(挑戦)を求める。

  2. 葛藤タイプ(意欲高・忌避高): 優秀でプライドが高い層。いきなり指摘せず、まず肯定と期待を示して「安心感」を渡してから本題に入る。(このタイプは少なくない)

  3. 現状維持タイプ(意欲低・忌避低): 指摘の前に「1年後どうなっていたいか」など、本人の動機の言語化を先に行う。

  4. 拒絶タイプ(意欲低・忌避高): 過去の経験などで心を閉ざしている層。まずは「結論を前に持ってくる」などの小さな助言から始め、成功体験を積ませる。

それでも部下が変わらないとき、上司は「もう手を尽くした」と見限ってしまいがちだ。しかしその前に、3つの自己点検が必要だと著者は説く。

①期待値は明確だったか、②変わるための支援は十分だったか、③見守った期間は適切だったか。

これらをすべてやり切っても変わらないのであれば、馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲むかどうかは本人の選択である。しかし、そこまで粘り強く向き合うこと自体が、組織全体の信頼関係を強固にしていくのだ。

 

経営者が「権力の孤独」をどう超えるか

さて、ここからは当ブログの最も多い読者層である経営者やリーダーの皆様に向けた、非常に耳の痛い、しかし重要な示唆である。トップ自身のコーチャビリティ、「権力の孤独」についてだ。私の「悪い癖」の告白も交えて紹介したい。

 

「うちは風通しがいい」「何でも言ってくれ」。そう仰る社長は多い(私もその一人だ)。しかし、地位が上がれば上がるほど、聴く力は知らぬ間に奪われていく

部下にとってトップに異論を唱えることは、評価が下がるかもしれない「ハイリスク」な行為であり、黙っている方が得だからだ。

 

さらにトップの耳を塞ぐ最大の敵が「自分の成功体験」である。

「過去にこれでピンチを乗り切った」「私の判断で会社は大きくなった」。その強烈な成功体験が鎧となり、都合の悪い情報や部下の指摘を「自分の経験則と違う」と無意識に素通りさせてしまう。まさに、私自身も深く反省すべき「悪い心の癖」だ。

 

また、「軽く見られるのではないか」という不安も邪魔をする。

部下の指摘を受け入れると、リーダーとしての求心力が落ちるのではないかと恐れ、強がって意見を突っぱねてしまう。しかし実際は、意見を聞き入れないトップの方が、部下から「何を言っても無駄だ」と軽く見られ、見限られているのだ。

 

この「権力の孤独」を打破するためには、経営者自身が防御の鎧を脱ぎ捨てなければならない。

本書が勧める最も強力なステップは、「自分が間違っていたと公言する」ことらしい。

「先日のAさんの指摘を受けて、私の方針が間違っていたと気づいた。だから修正する」。トップが自らの非を認め、社員の声で判断を変えたという「前例」を見せること。これこそが、「この会社では声を上げても大丈夫だ」という最強の心理的安全性を作るというのだが、これを実際にやるとなるとなかなか難しい。

 

直接申告書における「返す」責任

この本の後半で語られている「コンストラクティブフィードバック(現場の声を経営に活かすサイクル)」は、まさに当社が毎年行っている「直接申告書」のことである。当社オリジナルと思っていたが、しっかりと経営の根幹に据え、フル活用している企業があるのだ。

 

前回のブログで、600通を超える耳の痛い声を「聴き」、それを「動く(行動する)」エネルギーに変えると書いた。しかし、本書を読んで、最も重要なピースが欠けていたことに気づかされた。 それは「返す(明確な回答・理由を示す)」ことだ。

もちろん、できるだけ多くの要望に応え、実際に会社を変えている。かならず毎回、象徴的な変化を見せてきたつもりだ。ただ正直に言えば、『週休3日制にしてほしい』といった、現状では到底実現不可能な待遇改善の要求に対しては、どう答えてよいかわからず、これまで回答を避け、聞き流してしまっていた。

 

本書ではなぜ提案を採用(対応)しないか理由をはっきり明示せよとある。

なぜなら社員は勇気を振り絞って声を上げている。それに対して、経営が「採用する・しない」の判断を下すのは当然だが、「なぜその意見を採用できなかったのか」という理由を明確にフィードバック(打ち返し)しなければならない。 声を出しっぱなし、聞きっぱなしにさせない。言っても何も変わらないし返事もない、という諦めが組織を沈黙させるのだ。経営からの真摯な応答の積み重ねだけが、「言えば変わる」という確信を現場に生むとのご指摘はなかなか手厳しい。

結びに

フィードバックは、決して一方通行の評価やダメ出しではない。お互いの成長を願い、未来を共同で創り上げるための「関係をつくる技術」だ。

 

経営者である私自身がフィードバックの技術を学びながら、その量を増やす。そして自身のコーチャビリティを育む努力をする(つまり耳の痛い意見に感情で反応せず、自らを改善していく)、過去の成功体験という鎧を脱ぎ捨てる。
 社員の皆さんのコーチャビリティが育つよう、真摯に向き合い続ける。そして直接申告書という「耳の痛い贈り物」を真っ直ぐに受け止め、行動し、明確な回答を返し続けていく。

そうやって、丸信を「沈黙の組織」から、全員で「高め合う組織」へと進化させていきたい。

 

これは一度読んだくらいでは、とても実践、習得できそうもない。繰り返し学びたい。

 

夕暮れのオフィスにて