年が改まったのでいささか気が引けるが、大晦日の早朝、テレビでたまたま見たことを。
前日、睡眠不足がたたって早々に寝くたばってしまったためか、朝5時過ぎに目が覚めた。テレビがついたままになっていて、BSプレミアムの「にっぽん縦断こころ旅」の特番放送中であった。45分の特別版「ディレクターズ・カット」の一挙10本連続アンコール放送ということらしい。
前に少しだけ触れた「入道崎」(秋田・男鹿編)も放送されたようだが、開始早々の1本目ということで思い切り見逃してしまった。寝起きのぼーっとした頭で見るともなく見ていると、ある「とうちゃこ先」で何とも心に残るシーンがあった。
北海道・当麻町編、2014年7月放送分の再編集版である。投書子から寄せられた「こころの風景」であるところの「射的山」という小高い丘を訪れるというものだったが、火野正平をはじめとする一行は現地で小学3年生の女の子と出会う。この「はつね」という子がとても明るく可愛い子だった。
はつね 「こんにちは! たまに見てます」
火 野 「しばくぞ、たまにじゃないわ。毎日見てますって言いなさい」
はつね 「うん毎日見てるよ!」
火 野 「おーよしよしよし、えらいなキミは(笑)」
はつね 「ホントだよ♪」
こんなやりとりで、はつねはすっかり火野になついてしまい、一緒に丘に登るという。
見た目よりきつい登り道だったようで、息を切らしながら丘の上を目指す二人。
はつね 「はあ、結構疲れるぅ・・・」
火 野 「疲れた? おんぶしてだけは言うなよ」
やっと丘のてっぺんにたどり着いた二人はベンチに腰掛けるが、はつねは息を切らしている。
はつね 「はああっ、疲れたぁ!」
火 野 「よーいドンとか苦手か? かけっことか」
はつね 「かけっこはぁ、しちゃダメなの」
火 野 「あっ! (スタッフのほうを見て) なんかあるんだこの子」
はつね 「病気・・・」
火 野 「病気だ。すまんすまん連れてきて。大丈夫か? それは知らなかった、ごめんごめん」
ベンチに座ったまま、眼下に広がる田園風景を眺める二人。
はつね 「風が吹いてるから田んぼがなんか動いてる・・・」
火 野 「田んぼ動いてんなあ」
はつね 「うん」
火 野 「あれな、風の足あとって言うんだ」
はつね 「風の足あと?」
火 野 「うん、風がこう足あとつけてな、動いてるみたいだろ?」
はつね 「うん」
火 野 「そういうふうに見えるだろ、なんとなく」
はつね 「うん、なんとなく…」
しばし言葉を呑んだまま、風に揺れる稲田を眺める65歳と9歳の二人。
映画のワンシーンのような美しさ。
ラストで投書子からの手紙を読み終えたあと、火野はつぶやいた。
「あの子の病気が治りますように・・・」
大晦日の早朝に、心が洗われた。
ちょっと、いやかなりウルッときたのは、歳のせいばかりではなかったろうと思う。