この1曲この1枚 (1) | Pacific231のブログ -under construction-

Pacific231のブログ -under construction-

O, Mensch! Gib Acht! Was spricht die tiefe Mitternacht?

レコード、CDに限った話ではあるけれど、なかなか気に入った演奏にめぐり逢えない曲がある一方で、この曲はこの1枚があればOK!と思える、座右の盤というのがいくつかある。
音楽好きには思い当たる人も多いのではないだろうか。

前者の場合、際限もなく音盤を買い漁り続けるか、途中で諦めて、不満な演奏を脳内でイコライジングしつつ聴くことになる。いずれにしてもはなはだ居心地がよろしくない。
(私の場合、シューベルトの交響曲第7(8)番「未完成」やベートーヴェンの3番「エロイカ」などがこれに当たる)

後者の場合は、その1枚にめぐり逢えた幸運にひたすら感謝するのみであって、LPからCDへと時代が変わっても同じ音源ソースのものを買い求め、それで満足することになる。

今回はその中から、ベルリオーズ:幻想交響曲の「この1枚」を・・・。

幻想・マルティノン

  ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14a
 ジャン・マルティノン指揮 フランス国立放送局管弦楽団



この音盤と出逢ったのは35、6年前、学生時代のこと。もちろんLP時代である。
秋葉原・石丸電気レコード館で購入したものだが、そのジャケットの美しさとともに、すぐにMy Favorite入りを果たした(笑)。

当時はレコ芸誌やFM誌、単行本などに、いわゆる名盤選びの企画があふれていたが、ほぼ例外なく推されていたのはミュンシュ/パリ管盤であった。これは今もそうであるらしい。
もちろん私も何度か聴いてはいるが、感想は「買わなくてよかった…」であった。

マルティノン盤とミュンシュ盤は、一言でいえば対極の位置にある。主知的と主情的、アポロとデュオニソスの関係であるのだが、このデュオニソス(ミュンシュ盤)はあまりにハメを外し過ぎだ。ベルリオーズの熱狂が、演奏者の熱狂に置き換えられてしまっている。目に浮かぶのはベルリオーズの奇怪な幻想ではなく、指揮者とオケの汗だくの姿のみである(ミュンシュ晩年のパリ管との録音には全て同じ欠陥がある)。

その点、マルティノン盤は、ベルリオーズの音設計を厳格に守りつつ、その音楽世界を余すところなく表現し尽くしている。コルネット・パートの復元や、本物のカリヨンの使用などは実は枝葉のことであって、本質はその再現の、これ以外にあり得ないと思えるほどの厳しさに尽きる。

残念なのは、CD再発盤がオリジナルジャケットでないこと。昨今の世情に鑑みてレコード会社が余計な気を回したのかもしれない。LP初出盤をお持ちの方ならピンとくるだろう。