
一級建築士である私が設計した物件をはじめ、インテリアや家づくりについて情報発信しています。
また、築52年の中古住宅を購入しリノベした記録、日々の暮らしについても書いています。
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この業界でひとつ腑に落ちないことがあります。
それは上棟時(家の骨組み)に建主が大工に渡すご祝儀。
昔は上棟式という立派なセレモニーを行うことが通例で、その中で棟梁などへのお礼の意味でご祝儀を渡していたとか。
しかし現代では、上棟式は行わくなったのに大工へのご祝儀だけは残ってしまったんですね。
(もちろん立派な上棟式を行っている住宅会社もあります)
時には大工ではない私までご祝儀いただくことがあるんですよね。
お客さんからご祝儀をいただくなんて不思議な感覚…断るわけにもいかないですし。
では本題。
大工(棟梁)にご祝儀を渡さなかったならどうなるのか?
大工はヘソを曲げて手抜き工事をするのでしょうか??
その答えは、「社会規範」と「市場規範」にありそうです。
(行動経済学を基にしたちょっと面倒くさい話になるので覚悟してくださいね)
アメリカのセントトーマス大学の准教授ジェームズ・ヘイマンは『社会規範』と『市場規範』について研究していました。
社会規範とは簡単に言えば人が備え持っている「思いやり」や「助け合い」など無償の精神のことで、市場規範は労働した対価として賃金を貰うことなど、いわゆるビジネスなどのシビアな世界を指します。
例えば、あなたが仲の良い友人から引っ越しの手伝いを頼まれたとします。
とても困っている様子だったのであなたは引っ越しを手伝う(社会規範)ことにしました。
引っ越し作業も無事終わり友人もとても喜んでくれました。
そして帰り際に友人は引っ越しのお礼として、5,000円をそっと差し出してきたのです。(市場規範)
これについてどう感じますか?
「え?お金のために手伝ったわけじゃないのに…」と、ちょっと冷めた気分になりませんか?
社会規範に突然市場規範が割り込んでくると、途端に人間関係を損ねる危険性が出てくるのです。
話を戻しましょう。
大工さんへのご祝儀は市場規範(工事代金の一部)に当てはまる可能性が高いのですが、実は社会規範には「風習」や「習慣」なども含まれるんです。
大工さんへのご祝儀が「風習」なのであれば、ご祝儀を渡さないことは社会規範から逸脱する行為なります。
ではやはりご祝儀を渡したほうが良さそうですね。
…
しかし、話はここで終わりません。
また1つ問題が発生します。
ご祝儀の金額です。
過去にこのような実験結果が行われました。
5分程度で終わる簡単な作業を、3つに分けたグループに以下の条件でお願いし、各グループの作業成果を調べる実験。
1番目のグループには作業の報酬として500円をあげる(市場規範)
2番目のグループには報酬として50円を(市場規範)
3番目のグループには力を貸してほしいと頼み、お金の話は無し(社会規範)
どのグループが1番作業成果が高かったと思いますか?
最も作業成果が高かったのは3番目のグループ、次に僅差で1番目グループでした。
そして50円を受け取った2番目グループの作業成果は、無報酬である3番目グループの半分以下という結果に。
この実験結果でわかることは報酬金額が高いほど人々のやる気は高まりより良い作業成果を残すということ。
そして、
僅かな報酬を渡すよりも、お金の絡まない社会規範に訴えたほうが人はより熱心に作業してくれるということ。
さあ、そろそろ大工さんへのご祝儀問題の答えが出そうです。
①
大工さんへのご祝儀は相場にそった金額か、それよりちょっと多めにする(市場規範)
②
大工さんへはご祝儀を渡さず、感謝の気持ちをしっかりと伝える(社会規範)
先ほどの実験結果からすると、このどちらかを選択しておけば間違いないということです。
え?
たくさんご祝儀を渡すのも嫌だし、全く渡さないのもそれはそれで不安??
わがままですね~笑
実はそんなわがままなあなたへ朗報があります。
それは「プレゼント」
お金の代わりにプレゼントを渡す行為は、市場規範ではなく社会規範に留まるという実験結果もあるのです。
先ほどの引っ越し作業の話を思い出してみてください。
もしもあの時5,000円の代わりに美味しそうなお蕎麦でも渡されていたら、友人に嫌悪感を抱かずに済みましたよね??
例えばご祝儀の代わりにちょっと高級なビールにお礼の手紙を添えて渡すだけで、大工さんと社会規範的な良好な関係をきっと築けるはずなんです。
以上
今回の話はアメリカの行動経済学を基にしているので、必ずしも日本人の感覚に当てはまるとは言えません。
でもご安心を。
私の経験上、ご祝儀を貰えなかったからといってヘソを曲げてる大工を見たことはありません。
当然と言えば当然ですけどね。
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