クリスマス プレゼント(後編) | たぬきのしっぽ ☆彡

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★チンチラたぬきと
メインクーンきつねの生活日記♡


 

前篇のあらすじ


響子はスタジオKの社長をしているが
若い頃の自分を見失い
人間らしさをなくしている。
最近体調をくずし
病院に行ったところ
不治の病に侵されていることがわかった。
響子は
起業する上で
ともに苦労をした敏恵をうとんじ
体よく追い払った。
だが敏恵にもらった子猫ミューが
きっかけで
知らなかった過去の事実を知り
人間らしさを
取り戻しつつある。

元恋人の浩二も
響子が嫌いで別れたのではなく
不治の病に侵されて
亡くなっていたことがわかった。


*☆*:;;;:*☆*:;;;:

 


午後10時過ぎ
響子が社長室を出ると
デザインを担当している由美が
まだデスクの上のコンピュータの画面を
にらんでいる。

「もう帰ったら?
机についているだけで
いいデザインが浮かぶわけでもないでしょ」
「……主任から聞いてませんか?」
「何を?」
「私、今月いっぱいで辞めるんです」
「そう。仕事がイヤになったの?」
「いえ、そういうんじゃないんです。
実家の祖母が倒れて
介護できるのは私だけなんです」
「……そうだったの。実家はどちら?」
「静岡です」
「そう、じゃ新幹線で通えば1時間半くらいかしら?」


「……できれば、そうしたいです。
でも、それじゃ、私は祖母の面倒がみられません」
「それは、そうね。
あなた、まだ、ここで働きたい気持ちはあるのね?」
「ええ、でも、不可能なんです」
由美悔しそうにうなだれた。


「長期休暇の扱いはムリでも
在宅の仕事を何かあげられるかもしれないわ。
主任や総務と相談してみるから
あきらめないで。
今夜はとにかく帰りなさい」

「わあ、夢見てるみたい。
社長、ありがとうございます!」
由美は急に元気になり、
跳びあがるように立ち上がって
響子に一礼をした。

「私じゃないわ。敏恵さんのおかげよ」
「え?」
「思い出したの。
入社試験であなたを選んだ時に
敏恵があなたについて言ったの。
平凡さこそが非凡なんだって。
だから、こういうコが
スタジオKには必要だって」
「としえ・・・・・・さんって、どなたですか?」
「辞めた木崎専務よ。
木崎敏恵っていうの」
「木崎専務のこと
社長はお嫌いなのかと思ってました」
響子は一瞬黙り込んだ、
やはり社員の目にも
そう映っていたのかと思った。
「そうね、
そう思われても仕方ないわね
でも、敏恵は戦友、
そう戦友だったの」
「あ、すみません」
しょんぼりと立ち尽くす由美を残して
響子は足早に会社を出た。

*☆*:;;;:*☆*:;;;:


 

部屋に戻ると
お腹を空かせた子猫のミューが
ミューミュー鳴きながら
響子の足元にじゃれついた。
「ごめんね、明日からは
ペットシッターさんが
エサをやりに来てくれるからね」
エサをぱくつきながら
ミューは目を細めて
響子を見上げた。

響子は眠った。
夢を見ながら
夢を見ている自分を
自覚していた。
傍らで眠っている子猫のミューの体が
金色に輝いていた。
その光に包まれて
響子は透明な存在になった。

古めかしい喫茶店で
響子と出会って間もない頃の敏恵が
叔父と会っていた。
「響子は気は強いですが
ホントは心のやさしいいいコなんです。
どうかあのコを
よろしくお願いします」
そう言って
叔父は敏恵に深々と頭を下げた。

叔父が私のために
敏恵に頭を下げた?
まさか。


敏恵が言った。
「頭をあげてください。
響子ちゃんは才能もあるし
私は応援したいと思ってます
でもね
お金なんか
ゼッタイ
受け取るわけにはいかないわ!」
叔父は肩を落とした。


「ワシはなんもしてやれんかったんです。
あのコの親が交通事故で死んだとき
住宅ローンが残っていて
それを返済するのに
妻の貯金を借りんといけんかった。
だから
妻のやり方に口をはさめんで。
あのコには
ツライ目ばかりあわせて
だから、これは、
ワシのせめてもの気持ちなんです」


「叔父様のお気持ちは
わかりました。
私は私のやり方で
響子ちゃんの今後を支えていこうと
思いますから
お金はいただけません」
「そうですか。
とにかく響子を、よろしくお願いします
せめて
この手土産だけでも
受け取っていただけませんかの」
叔父が残念そうに
首を振っている。
思うようにコトが運ばなかった時の癖だ。

「わかりました。
これは響子ちゃんと一緒に
いただきます。
響子ちゃんに会って
行かれませんか?」
敏恵は立ち上がって
叔父をうながした。
叔父は首を横に振った。


「合わせる顔がないから・・・・・・
じゃあ、ワシはここで失礼します」
叔父はレシートを敏恵から
ひったくるように取り上げて
レジに行き
支払いを済ませると
もう一度敏恵に頭を下げて
そそくさと店を出て行った。

夢の中で
叔父を見送る敏恵の表情に
響子は見覚えがあると思った。

響子の故郷の菓子を
会社に持ってきて
お昼休みに一緒に食べながら
敏恵が
何度も叔父にもう一度会ってみろと
すすめたことを思い出した。

響子が嫌だと言うと
敏恵の顔に浮かんだ
何とも言えない残念そうな
寂しそうな表情を思い出していた。

叔父に会いに行こう。
そして敏恵にも
もう一度
会社に戻って来てもらおう
夢の中で響子は
そう決意していた。

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目がさめると
ミューが響子の足元で遊んでいる。
だが、その飛び跳ね方が
どこかおかしい。

なんだか
苦しそうに
首を振っている。

見ると、
おもちゃについていた
鈴がひとつだけ
見当たらない。
もしかしたら。

急いで動物病院に行かないと。
その時
ペットシッターから
打ち合わせの電話が入った。
すぐに近くの動物病院を教えてくれ
響子は取るものも取りあえず
部屋を出た。

病院は
タクシーで5分ぐらいのところにあった。
ペットシッターからの電話で
先生がすぐに
診てくれることになった。

動物病院の医師は
響子の顔を見て
一瞬
驚いたような顔をした。
もちろん
響子はミューが心配で
それどころではなかった。

レントゲンを撮ると
おもちゃの鈴が
ノドの奥に
ひっかかっていることが
わかり
緊急手術で
すぐに取り出せた。

「部分麻酔をかけたので
ミューちゃんには
一晩入院してもらいます」
「よろしくお願いします」
あの、つかぬことを伺いますが
アルファデザインにお勤めだった
樋口響子さんですか?」
「ええ、そうですけど」
「私は飯田浩二の弟の飯田健
です」

え、と言ったきり
響子は絶句した。
目の前の医師が
20年前に響子の目の前から去り
響子に隠れて病死した恋人
浩二の弟だという。

浩二と付き合っていた時
獣医師をめざしている弟がいると
聞いたことがあったが
会ったことはなかった。
確かによく見れば面影がある。

「実は20年前に兄が亡くなったとき
遺品の中にあなたへのプレゼントがあったんです
あなたの写真と一緒に。
だから、今日あなたに会って
すぐに、あ、『響子さん』だと思いました」


「・・・・・・そうですか」
「受け取っていただけるのなら、
明日持ってきますが」
「・・・・・・いいんですか?
私がいただいても」


「もちろん、あなたへのプレゼントですから。
じゃあ、明日、ここに持ってきますね」
そう言って笑った笑顔が
あまりにも浩二に似ていて
響子の目から大粒の涙が落ちた。
「あ、泣かせちゃって、ごめんなさい。
でも、響子さんが
兄をちゃんと覚えていてくれて
私はとても嬉しいです」

病院を出るまで
響子の涙がかわくことはなかった。

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その夜も
響子は夢を見た。

ミューが部屋にいないのに
金色の猫があらわれて
金色の光で
響子をすっぽり包んだ。

部屋の中で
浩二がカセットテープに
自分で吹き込んだ
響子へのメッセージを
聴いて
首をかしげている。


「君に出会ってから
ボクはボクになった
君が感じるものを
ボクも感じたいと思うから

いつか海岸に遊びに行った時
君ははだしで
少女のように砂浜で遊んだ

君の見るもの
君のふれるもの
すべてになりたい
ボクの持っているものすべてを
君にあげたいと思った

だから
君は今の君のままで
ボクのそばにずっといてほしい
ボクは今のボクのままで
君のそばにいたい」


流れる音声を聞きながら
響子は思わず微笑んだ
まだ若い浩二が
とても可愛く思えたからだ。
だが、こうも考えた。

今も浩二が生きていて
今の変わり果てた響子の姿を見たら
どう思うだろうか、と。
外見より中身の問題だ。
月日というものは残酷だとでも
思うだろうか。

病院で流した涙とは違う
後悔の涙が
眠っている響子の頬を濡らした。


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今日はクリスマス・イヴ。
街の賑わいは最高潮だ。

会社の帰りに
響子は動物病院に寄った。

ミューは
響子の顔を見ると
ミューミューと鳴いて
腕の中に飛び込んだ。
そっとケージに入れる。

浩二の弟の獣医師、健が
小さな紙のバッグを持ってきた。
浩二を彷彿させる
爽やかな笑顔を浮かべていた。


「亡くなったとき
このまま部屋にありました。
だから
このまま
受け取ってやってください。
指輪と手紙です」

「ありがとう。大切にします」
響子は笑顔で受け取った。
手紙の内容は
読まなくてもわかると
思った。

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部屋に戻って
ミューをケージから出した。
ミューは嬉しそうに
部屋を駆け回り
ベッドに飛び乗って
丸くなった。

響子は紙バッグから
リボンのかかった包みを取り出した。
ダイヤモンドの指輪が
小さな箱の中で輝いている。
響子には
その指輪が
今まで見たどんな宝石より
美しく見えた。

見つめているうちに
いつもの頭痛が襲ってきた
すると
まだ眠ってもいないのに
金色の光が
響子を包んだ。

ミューの姿が
いつの間にか消えている。
人の気配がするが
目には映らない。

浩二がそばにいるような
温かさを感じた。

ごめんね、浩二
私は私のままでいられなかった。
でもね
これから
努力するから

そして
あなたに会う時には
以前の私に戻るから
そしたら
迎えに来て

すると
浩二の笑い声がした。

「時間がかかりそうだから
また出直してくるよ
必ずまた来るけどね」

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響子が目を覚ますと
朝が来ていた。
子猫のミューが
エサが欲しいと
鳴いている。
ミューにエサをやり
テーブルの上を見ると
昨夜置いた指輪と手紙が
なくなっている。

紙バッグを見ると
指輪の箱が
リボンのついたままで
入っている。

だが、
浩二の書いた手紙は
響子がいくら部屋を探しても
どこからも
出て来なかった。


そして年が明けの検査で
響子の主治医は
響子の脳腫瘍が
影も形もなくなったことを知り
首をかしげた。


 





長い文をお読みいただき
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