猫の物語 五 ヘイマン島のストロー<後編>*:..。o○☆ | たぬきのしっぽ ☆彡

たぬきのしっぽ ☆彡

★チンチラたぬきと
メインクーンきつねの生活日記♡





 


登場人物

ストロー    物語の主人公の猫
ダビデ様    ストローの飼い主 ヘイマン島の領主
ダフネ      ダビデ様の屋敷のメイド
アリス様    ダビデ様の第一夫人 毒を飲まされ死んでしまった
リタ様      ダビデ様の第二夫人 行方不明
イリア様    ダビデ様の第三夫人 行方不明
ブランシュ   ダフネの飼い猫 ストローの妻


これまでの話
ストローはヘイマン島の領主ダビデ様の飼い猫として
ダビデ様と3人の妻、子供たちと一緒に幸せに暮らしていた。

しかし、ダビデ様が
ダフネというメイドを雇ったころから、
不幸がたて続けに起こる。
お子様が全員事故や自殺で亡くなり、
奥様のアリス様まで天に召され
リタ様イリア様が行方不明になる。

ある日、ストローが
ダビデ様の部屋にいると、
ダフネがお茶を持ってやってくる。
危険を感じたストローは
そのカップに飛びかかり、
ダビデ様がお茶を飲むのを
阻止しようとする。

゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆ ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


ダビデ様
これは名医のジョナサンが
西欧から持ち帰った
ハーブを煎じたお茶ですの。
身体によいそうですから
召し上がりませんか?

ああ、そこに置いといてくれ、と
ダビデ様は言った。

熱いうちでないと
効果がありませんのよ、と
赤い髪をいじりながら
ダフネはため息をついて見せた。

ダビデ様は
ダフネが差し出すお茶を飲もうとし
オレはそのカップに
飛びかかった。

ダビデ様とダフネが
同時に叫び声をあげた。
カップの熱い液体がダフネの体と
オレの体の両方に
降りかかったからだ。

オレもダフネもやけどを負った。
だが
勝ったのは
赤毛のダフネだった。

ダフネは
熱いお茶の染みたドレスの袖を
たくしあげ 白い肌をさらし
やけどを負ったオレに
優しく声をかけた。

大丈夫?ストロー?

大丈夫なはずはない。
猫は体が小さいから
お茶は全身の広範囲に
かかっていた。

その日からしばらく
部屋に閉じこもったまま
オレはやけどの痛みに
苦しみに苦しんだ。
そばでブランシュが
心配そうに見ていてくれるのだけが
救いだった。

 


そしてやっと回復し
ダビデ様の部屋に行くと
ダビデ様は
青い顔をして
ベッドで寝ていた。

ストロー、元気になったんだね。
良かった。
お前は賢い猫だ。
お前が何を伝えようとしていたか
やっとわかったよ。
もう、遅いがね。

あの女はジョナサンと通じている。
二人は私をなきものにして
この土地の領主に 
なりかわろうとしている。
今さら気づいても遅いがね。

オレは力なくミューと鳴いた。
ちっぽけな猫のオレに
何ができるだろう。

その時 
コンコンと窓をたたく音がした。
振り向くと
アリス様が亡くなる前に消え
行方がわからなくなっていた
あの茶髪のイリア様の顔が
窓の外に見えた。

ダビデ様は
崩れ折れそうな体を
精いっぱい伸ばして窓を開け
イリア様を招きいれた。

イリア、あなたが生きていたとは!
嬉しいぞ。

ダビデ様は
イリア様の肩を抱き
茶色い髪をなでながら
涙をこぼされた。

 

イリア様も泣き顔だった。
故郷のクレマン島から
援軍を連れてきました。
港で待機させています。
ここから早く脱出しましょう、と
イリア様は泣き声でおっしゃった。

それはできない。
どんなことがあったとしても
私はこの島の領主だ、と
ダビデ様。

ダビデ様
ご存じでしょうが、
アリス様もリタ様も
ダフネとジョナサン医師により
毒殺されたのです。

知っている。
ダフネはソランジュ王国の
国王の手先。
要するにスパイだ。

私がうかつだったのだ。
執事に調べさせた結果、
この島ののっとり計画は
20年前から進行していた。

今まで
気づきもしなかったのは
私の不徳のいたすところだ。

すでに島の有力者も
大半がソランジュ王国の味方。
交流の名のもとに
勢力の浸透を深めていた。
今さら巻き返しの
すべもない。
私があまりに
無防備でお人よしだったからだ。

こんなところにいれば
あなたの命が危ない。
さっさと軍とともに
故郷に戻り
あなたの島が
けっして侵略されないように
守り通すのだ。

わかっていますが
ダビデ様
一度この島を出て
取り戻すチャンスをねらう
というのも
ひとつの方法かと
思いますが・・・・・・。

 

その時、
バタンと扉が開き
ダフネが
赤い髪を振り乱しながら
ジョナサン医師と
武装した兵を連れて
入って来た。

「久しぶりね、イリア様」と
ダフネが冷たい笑みを浮かべて
イリア様を見つめた。

イリア様をガードしていた衛兵は
簡単にやられてしまい、
イリア様はダフネの兵に
あっという間にとらえられた。
「外で待っていた衛兵も
始末しておいたわよ」
そう言うとダフネは
オクターブ高い声で笑った。

「待ってくれ、イリアには
手を出すな」と
ダビデ様が言った。

「それは無理よ。
私は生理的に
この女が好きじゃなかった」
「私は何をされてもいい。だが
イリアには危害を加えないでほしい」

ダフネ
キミの国にもその方が得策
イリアの国は
キミの国よりも大きい
将来はともかく
今のところは
コトを構えないほうが
利口じゃないのか

そこまで言うとダビデ様は
崩れるように
ベッドに倒れ込んだ。

「ダビデ様が
そうまでおっしゃるなら
悔しいけど
この女を港まで
送ってやってもいいわ。
でも その見返りは?」

そう言うとダフネは
とらえられたイリア様を
ねぶるように
見つめながら
その場を歩きまわった。
そして足元にいた
オレに目をとめて
言った。

「この猫をころしても
いいかしら?
お前は
ご主人様の身代わりに
死ねるわよね」

オレはダフネを見上げ
毛を逆立てて威嚇し
ギャッと鳴いた。
矢でも鉄砲でも持ってこい。
オレは受けて立つ!

ダメだ。
それも絶対ダメだ。
ストローには何の罪もない
だいたいストローは
お前の猫ブランシュの
大切な夫だ
ブランシュが
どんなに悲しむか・・・・・・。

それもそうね。
じゃあ
ダビデ様
アナタに拷問をするというのは
どうかしら?

ダフネは笑顔を浮かべて
そう言い
青ざめた顔で
ベッドに横たわるダビデ様の顔を
まっすぐに見つめた。

「そんなのダメ
ダメよ
あなたが死んじゃう
ダビデ様
断って
私が殺された方が
ましよ」

イリア様の悲痛な泣き声が
屋敷中に響いた。
裏切った兵たちの中にも
もらい泣きする者もいた。

いずれにしても私は殺されるのだ
拷問にかけたい?
いいだろう
もう私の命運は
とっくにつきている
ダフネ
お前を屋敷にいれた時点でね。

まあ 嬉しい
アナタの苦しむお顔を
拝見できるなんて。

ダフネの高い笑い声が響く中
イリア様は
茶色い長い髪を揺らし
泣き叫びながら
屋敷から港へと
送り出された。

イリア
元気で暮らせよ
二度と戻ってくるんじゃない
独り言のようにつぶやきながら
ダビデ様は兵たちに取り囲まれ
地下室に連行された。

そして
生きているダビデ様に
ふたたび会うことはできなかった。

 


オレが苦労して
やっと牢屋に忍び込んだとき
ダビデ様の体は
血だらけで
ゴミか汚物のように
床に転がっていた。

オレは声も出なかった。
だが 
亡くなったダビデ様のそばから 
離れることもできなかった。
何時間経ったのかも
そのうちわからなくなった。

はっと気づいたとき
地下室のドアが開き
執事が入って来た。

ストロー、お前はいい子だ。
だが、ここにいちゃ危ないよ。
いいか
絶体にブランシュのそばを
離れるな。
お前が生き残るには
今のところは
それしかない。


とにかく ダビデ様の遺体は
私がねんごろに弔うから。
オレは泣く泣く部屋に戻った。

ブランシュは
腎臓に病気を抱えていて
だんだんと体が弱ってきていた。
私はブランシュを看病しながら
部屋の中で閉じこもって
暮らすようになった。

アナタには
つらい思いばかりさせて
ごめんなさい。

ひとつだけ
アナタに
言っておかなければならない
コトがあるわ。
庭のみかんの木の下に
リタ様が眠っている。

飼い主のしたコト
ぜんぶわかっていたの。
地下室に抜け穴があってね
私はなんでも知っていた。
飼い主は地下室で
いつも悪いことをしていた。

私はあのヒトに
可愛がられて育った。
でも いつも
許せないと思っていた。
許せないコトが一杯なのに
黙っていて
ごめんなさい。

私が
いなくなったら
アナタは逃げて。
殺されるから 逃げて 
そして
もっと幸せに暮らしてね。

そう言うと
ブランシュは息をひきとった。
オレは茫然として
そこにうずくまったままだった。

ブランシュは
何も知らないと思ってた。
知らせたくもないと思ってた。
全部わかっていて
一人で悲しんでいたなんて

オレの方から話してやれば
ブランシュも少しは気が楽だったろうに。
オレはあまりのショックに
口をぽかんと開けたままでいた。

 


屋敷の奥の方で
大きな音がした。
窓の外を見ると
たくさんの兵隊が屋敷を
取り囲んでいるのが見えた。
あれは
イリア様の国の兵隊じゃないか。

オレはあわてて
大広間に行ってみた。

部屋に入りきれないほどの兵隊が
取り囲んでいたのは
縄で縛られたダフネと
ジョナサン医師だった。
ジョナサンはうつむいていたが
ダフネは顔をあげ
赤い髪を逆立て
不敵な笑いをうかべて
兵隊と
前に立つ執事と司令官を
眺めていた。

いずれ私の国の援軍が
駆けつけるはずよ。
私の国の軍は
お前たちの数倍も強いわよ。

ダフネ
残念だな
このところ
海がしけていてね。
お前の国の船は
みな海の底さ。

執事がそう言うと
ダフネはペッと
ツバを吐いた。

暴れるダフネを
兵が拘束し
司令官が
地下室に連行するよう指示した。


嘘をつくんじゃないよ。
私の国の船は
しけたくらいじゃ沈まないよ。
そう叫びながら
ダフネは部屋から連れ出された。

ダフネは拷問を受けるらしい。
飼い主のダビデ様が受けたのと
同じ拷問を受けるらしい。
メイドたちが話していた。

 


部屋に戻ると
ブランシュの亡骸が
横たわっていた。

離れていて
ごめんね ブランシュ。
ずっと そばにいるよ。

オレはいつの間にか
眠ってしまっていたらしい。
執事に起こされ
思わず噛みついてしまった。

痛いぞ ストロー。
ダフネの始末が
やっとついたというのに
ブランシュがなくなってしまうとは。
お前もあまりにツキがないな、と
執事はつぶやいた。

それから
ブランシュを丁寧に白い布でくるみ
小さな箱に入れてくれた。
明日 一緒に葬ろう、
そう言って執事は出て行った。


「地下室に抜け穴がある」
ブランシュの言った言葉が
突然オレのココロの耳の中で響いた。
きっと抜け穴のことは 
誰も知らない。

きっとこれは
オレに残された 
最後の復讐のチャンスだ。

屋敷の周りをぐるりと回ってみた。
1度目は何も見つからなかった。
2度目には集中的に
地下室の近くの竹やぶを探した。
すると竹やぶの奥に
ヒトがはいずって
やっと出はいりできるような
小さな穴があった。
これに違いない。

オレは勇気をふるって
入ってみた。
地下室の出入り口は
格子がはまっていたが
地下室の中からははずれそうだ。

突然
ダフネの
壮絶な悲鳴が聞こえた。

かわいそうに、と
思ってはいけない。
ダビデ様も同じ思いをしたのだから。
オレは静かに
竹やぶの方へ引き返した。

すると
ヒトの声が聞こえた。
誰かがひそひそ話をしているようだ。

「今夜ですか」
「今夜だ」
「今夜はちょっと」
今夜じゃないとダメだ。
拷問は始まっていて
明日になったら
死んでしまう」
そこで人声は
ふっつり切れた。

ダフネは今夜逃げようとしている。
何とかしなくちゃいけない。
どうしたものか。

ふと見ると
竹やぶの隅に生えている毒草が
目に留まった。

「この草の汁が
傷口から入ると
もだえ苦しんで死ぬの。
お茶にすると
ジワリと効いて
身体が動かなくなる
気をつけてね」

ブランシュが
屋敷に来たばかりのころ
教えてくれたっけ。

あれはブランシュの
オレに対する
警告だったのかもしれない。
ダビデ様が危ないという警告。

それなのに
オレは
何もできなかった。

あ、これを
抜け穴の出入り口に
敷き詰めよう。

そうすれば
血まみれのダフネの体に
毒草の汁がしみ
ダフネの息の根を止められる。

もちろん
オレにも危険は伴う。
草を摘み
敷き詰めるためには
オレも草の汁を
なめてしまうだろう

だがやさしい飼い主を失い
最愛のブランシュをなくした今
オレの命はどうだっていいいさ。

オレは草を摘み
竹やぶの奥の抜け穴の前に
敷き詰めた

作業の途中で死なないように
せせらぎの水で
時々手足を洗って
うがいもした。

そして夜を待った。
毒草で作った
『敵』ダフネのためのベッドの前で
仁王立ちして待ち構えていた。
『敵』がダフネが
オレの正面からやってくる。
迎え撃つのだ。
 


どのくらいしてからだろう。
ガサガサと音がして
穴の奥から
『敵』がやって来た。
そしてはいずって出てくると
ふらふらと立ち上がった。
月が雲に隠れていて
『敵』の表情までは
読み取れない。

まずい、
毒草のベッドを
足で踏みつけるだけでは
毒が回らないかもしれない
そう思った時、
『敵』の体が崩れ折れるように
その場に倒れ
ドサッと
草の上に倒れた。

やったと思ったその時
月が雲間から出てきて
ダフネの赤い髪にうもれた顔を
照らし出した。
醜いとしか
言いようのない顔だった。

血まみれで
あちこちが腫れ上がっている
この女の腐りきった本性が
やっと表に出てきたという顔。
オレはそんなふうに感じた。

間もなくダフネは
草の上を転げまわって
苦しみ始めた
転げまわるたびに
苦しみ方はひどくなった

いつの間にか
オレの背後には
執事と衛兵が
駆けつけてきていた。

でかしたぞ ストロー
執事はほめてくれたが
ちっとも嬉しくはなかった。
『敵』が死んでも
飼い主が、ブランシュが
戻ってくるわけじゃない。

ダフネはじきに動かなくなり
衛兵に運ばれていった。
オレは執事の手配で
胃洗浄を受け
命だけは助かった。
片耳としっぽを半分なくしたがね。

こうして
ダフネは死に
オレは罪のある猫になった。
それだけが事実だ。
達成感も感動もなかった。

これから先は
どこかの寺で余生を送りたい
そう思っていたら
執事が
イリア様の島のモスクの僧侶に
オレを預けてくれた。

そこでひっそりと
オレが助けられなかった
人々の冥福を祈りながら
しばらく平穏な日々を送った。

ある日、部屋の隅で
まどろんでいると
「ストロー、そろそろ、こちらにおいで」と
ダビデ様の呼ぶ声がした。
行ってみると
笑顔のダビデ様の隣にいるのは
ブランシュじゃないか。
ダビデ様の後ろには
アリス様のリタ様も
お子様たちもみんな笑顔でひかえている。
 

オレは勇んで飛んでいった。
生まれて初めて味わうような喜びだった。
ダビデ様が腕をひろげた。
オレははちきれんばかりの喜びを感じながら
その腕の中に飛び込んだ。

そして
ストローとしてのオレの記憶は
ここでぷつりと切れた。





長い文を読んでくださって、ありがとうございます☆彡
押していただけると 励みになります(*゚.゚)ゞ


人気ブログランキングへ

こちらも押してくださると励みになります(^∇^)

にほんブログ村