春先に危篤宣告されて、
覚悟を決めた家族ですが、
おばあちゃんは話ができるほど回復しました。
とはいえ、もう思い出話を自分からする体力はないのですが。
私の話に、そうね、と笑って相槌を打ってくれます。

様々な種類の葡萄と、
ケーキ。
どちらもほんの少しだけ、食べてくれました。
美味しいわ、と言ってくれて嬉しい。
おばあちゃんは私にとって、最後の「都会の奥様」。
裕福な娘時代を経て、ふさわしい「いいところの」奥様になり、
戦中戦後の波乱を経て今に至ります。
今は裕福ではないけれど。
ド庶民の孫の私にしてみれば、おばあちゃんは永遠のお嬢さんです。
小津映画の中に出てくるような言葉を喋り、着物に割烹着だった姿は忘れられない。
おばあちゃんが鏡台の前でくるくると結ぶ帯は、幼かった私には魔法に見えた。
細い細い血管が透けて見える手を、壊れないように握って短い訪問のお別れを告げました。
また来るね。
待っているわ。
ちゃんとこの通りに喋るのです。
待ってるわ、ではなく、待っているわ。
待っていてね、おばあちゃん。