上海郊外には、水の都蘇州の面影を宿す、水郷が点在している。
時の流れ、その多くはテーマパーク化、観光化しているという。
かつて運河を上る船で宿泊をしながら蘇州へ入ったことを思い出した。
バスで市内から一時間だという「西塘」へ、弟くんと足を延ばした。
昔の中国の猥雑さを残す上海南駅から中距離バスに乗る。
バスを待つ時間で入った、ターミナル脇の雑然とした食堂が、意外に美味な料理を出した。
社食や大学の食堂然としていて、好きなおかずを指差すと、一盛りしてくれる。
数種選んで、米飯とスープをとれば、充実した定食になった。
西塘は田園風景の中に突如現れる町だった。
入り口で一人100元の入場料を取る。
古きよき水郷古鎮の風景が続く。
その多くは土産店や食堂、民宿であった。
住民は観光で収入を得ながら、この町の中に暮らしている。
運河の脇はアーケード状になっている。
「ミッションインポシブルⅢ」のロケ地となり、トム・クルーズはここを走った。
・・・という証拠のトムの看板。
見学ルートを少し外れると、こうした路地も見つかる。
しかし、期待したような、本物の「町」ではなかった。
蘇州などへ回る機会のない人には、水郷の雰囲気を味わうことができるだろう。
しかし、あの小さな橋をいくつも越えて、
臭豆腐と紹興酒のにおいに包まれた美しい町を歩き回ることに勝るものはない。
広い敷地内をひたすら歩くしかなかった私たち二人は、
日没近くに門を出た。
寒かった。
バスターミナルでこの後2時間以上バスを待った。
上海から着いてすぐに、嫌な予感がして帰りのバスの切符を買ったのだが、
そのとき既に、18:20発最終便しか席がなかったのだった。
キャンセル席を期待したが、なかった。
後でわかったのだが、最終便の最後の二席だった。
暖房がない、冷蔵庫のような待合室でひたすらバスを待った。
私が心を動かした白タクの誘いを、なぜか弟くんはかたくなに拒んだ。
8元しか違わなかったのに。
彼が、拒むには何か理由があったのだろう。
聞かなかったが。
言わなかったし。
帰りのバスは、上海南駅に着く頃、暖房が効いてきた。
帰国後、重篤な風邪をひいたのは、
このときの冷えが原因だと推測している。
寒い中、姉の希望を聞いて付き合ってくれた弟くん、ありがとう。
申し訳なかったと思っている。