日本出願を基礎として米国に出願するとき、図面のフォーマットが問題となることがあります。ここでは、形式要件違反(オブジェクション)につながりがちな、良くある誤りについてまとめておきたいと思います。余計な修正費用がかからないよう、出願時に対応しておくことをお勧めします。以下、頻度の高い順に記載します。
(1) 複数の図それぞれに対応するラベルがない(ようにみえる)
図面の形式的要件は、方式審査官が判断します。たとえ(a)や(b)などで分けられていても、これは図番ではないので、それぞれ独立した図とみなされ、それに対応するラベルがないということで、オブジェクションが出されることになります。
日本の出願でよく使用される、一つの図面を(a), (b)・・・と分割する方法は、米国のプラクティスと相性が悪いです。出願人によっては、日本出願のドラフト段階から、(a), (b)といった付番はせず、すべて別図面にするか、図1A, 図1Bといったふうに、翻訳後もそのまま通用するスタイルで記述するところも多いと思います。
この問題がやっかいなのは、図面で(a), (b)といった表現を修正した際、それらを参照している明細書も修正しないといけなくなることです。数が多いと、手間がかかるだけでなく、ヒューマンエラーが起きる可能性があり、要注意です。
私のお勧めは、図面の関連性に関係なく昇順に付番していくか、図1A、図1Bとするかのいずれかです。
なお、図番の表記にはルールがあり、丸括弧"()" (parentheses) や角括弧 "[]" (brackets)は使用できません。
37 CFR 1.84 (u) Numbering of views
(2) 図を識別する数字と文字は、簡潔かつ明瞭でなければならず、括弧 (brackets)、丸 (circles)、引用符(inverted commas)と組み合わせて使用してはならない。図番号は、参照文字として使用される数字よりも大きくなければならない。
丸括弧(parentheses) については明示されていませんが、このルールの趣旨に鑑み、使用しないほうが無難と思います。
(2) ラベルの向きと図(紙面)の向きが不一致
これも時々みかける問題です。上の例では、図中の文字 heart などから紙の向きが明らかなので、それにラベルの向きも合わせる必要があります。
(3) 余白 (margin) 不足
各用紙には、上余白が少なくとも2.5cm(1インチ)、左余白が少なくとも2.5cm(1インチ)、右余白が少なくとも1.5cm(5/8インチ)、下余白が少なくとも1.0cm(3/8インチ)必要である。
複雑でステップがびっしり詰め込まれたフローチャートを記載するときには、後述の文字サイズの問題とともにご注意ください。位置やサイズの調整で対応できなくなると、フローチャートを別図面に分割する必要が生じ、追加で図面コストがかかってしまうこともあります。
(4) 小さすぎる文字
(3) 数字、文字、および参照記号の高さは、少なくとも0.32cm(1/8インチ)でなければならない。図面の理解を妨げるような配置は避けるべきである。したがって、数字、文字、および参照記号は、線と交差したり、線と混ざったりしてはならない。また、ハッチングや陰影のある面に配置されるべきではない。
紙面上の文字の高さは、フォントサイズ(ポイント)とは一対一で対応しないため、一概にはいえないのですが、上のサンプルで使用しているArialフォントだと、最低でも10ポイント程度くらいは確保したいところです。フォントによっては同じポイント数でも高さが低いことがあるため、一般論として、12ポイント以上を使用するのが無難と思います。
なお、このルールは、看過されることも多いように思います。
(5) ぼやけている
日本の図面をスクリーンショットして張り付けたりする場合にこの問題が生じがちです。オブジェクションが打たれるかどうかはUSPTOの担当者次第なところもあります。図面作成を本業としていない方のパソコンで作業をしていて、ディスプレイの解像度や表示図面のサイズの関係で、輪郭がぼやけていることに気が付かないことがあるようです。ご注意ください。
(6) 符号のない引出線
これは最近目にする機会があった問題です。実際には引出線ではない、単なる波線であったとしても、図面の形式的要件を審査する担当者は明細書を読みませんので、勘違いしてオブジェクションを打ってくることがあります。引出線と同じような形状の波線やシンボルの使用は回避した方が、後々のトラブルを防げます。
図面に関する問題は他にもありますが、特に目にすることが多い形式的な図面のエラーと対策法についてまとめました。他にも頻発する問題で漏れているものがあるかもしれないので、お気づきの点がありましたらぜひお知らせください。米国のプロセキューションコストの削減の一助になれば幸いです。