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The U.S. Patent Practice

米国での特許実務に役立つ情報を発信しています。

(以前、同じトピックのエントリを作っていたのですが、新たなエントリとして作り直しました)

 

特許の権利化コストを合理化するためには、オフィスアクションに対して適切な応答をすることが重要となります。しかしながら、日米の制度の違いを理解しないまま、無謀な応答を試みてしまうケースがあります。代理人が問題を事前に指摘できればよいのですが、問題によっては一概に誤りとはいえないものも多く、成功確率が低いとみられる主張が、出願人によるチャレンジの意思と解釈され、そのまま提出されてしまうこともままあると感じています。

 

そのような問題が頻繁に起こる一つの領域が、自明性への対応と考えられます。これは、自明性に関するルールが、日本における進歩性/容易想到性のルールと、似て非なるものであることが理由に挙げられます。

 

一言で自明性の問題といっても、多数のトピックが含まれますが、このエントリでは、先行技術の引用適格性に関連するAnalogous Art (類似の技術) の概念について取り上げたいと思います。

※ Analogousの発音は uh·na·luh·guhs

引例を特許法第103 条に基づく自明性の拒絶に適切なものとするためには,当該引例は,クレームされている発明に類似の技術でなければならない  (In re Bigio (Fed. Cir. 2004))

米国のオフィスアクションで引かれた文献をみて、本発明と関係のない分野の文献が引かれた(少なくとも日本ではそんな文献引かれなかった)と感じられた経験は少なくないと思います。この要因の一つが、その「類似技術」要件の柔軟性です。一般的に、分野が違う文献が引かれたからっと言って、その点のみを主張して反論しても、審査官が翻意する可能性はほぼありません。

 

その類似の技術ですが、以下のように定義されています。

  • 解決される課題に関係なく、クレームされている発明と同一の活動分野からのものである場合
  • 活動分野に関係なく、発明者が直面する課題に合理的に関連するものである場合。ここで、「合理的に関連する」とは、発明者が自身の問題を検討する際に、論理的に発明者の注意を引いたであろうと考えられる場合となります。

MPEP 2141.01(a) "Analogous and Nonanalogous Art"

 

つまり、本発明とは解決すべき課題が異なる、あるいは本発明の活動分野とは異なる分野の先行技術であっても、引例としては類似であり、適切である可能性があるということです。

 

例えば、自動車にトレーラー(けん引される車両)を固定する連結ピンロックに関する発明に対し、南京錠の文献が引かれた事件があります (Wyers v. Master Lock Co. (Fed. Cir. 2010))。

 

 

これは、明細書に記載された発明の分野がロック装置を示しており、かつ、ロック機構への異物混入防止という合理的に関連する課題が存在したことが理由となります。

 

また、個人的な経験ですが、小売店で使用されるキャッシュレジスターに関する発明に対して、倉庫内で使用されるフォークリフトの文献が引かれたことがあります。一見、全く異なる分野の発明なのですが、使用されるRFIDリーダーによる電波改善という課題が共通しているため、類似の文献とみなされることになりました。

 

このような場合、発明が適用される分野や解決する課題や異なる!とだけ反論しても、拒絶理由の克服は困難なため、別の観点からの対策を練る必要があります。

 

(補足)補正によらず、意見のみで応答せざるを得ない場合で、引例の組み合わせに対して反論を試みたい場合には、以下のような点を検討することになります。

  • 阻害要因
  • 引例の本来の課題が解決できない
  • 引例の動作原理を変える
  • 技術常識に反する
  • 組み合わせの動機の欠如
  • 成功への合理的な期待がない

個別のトピックについては、また機会を改めてご紹介したいと思います。