アナログ回路をコンピュータ上でシミュレーションする方法についての特許適格性を示したUSPTO発行の事例のご紹介です。
2019 PEG Examples 37 through 42 (2019/1/7発行)
PTOのSubject Matter Eligibilityのページ (PTOによる適格性に関する資料の目次)
クレーム
A method for providing a digital computer simulation of an analog audio mixer comprising:
(i) initializing a model of an analog circuit in the digital computer, said model including a location, initial value, and a manufacturing tolerance range for each of the circuit elements within the analog circuit;
(ii) generating a normally distributed first random value for each circuit element, using a pseudo random number generator, based on a respective initial value and manufacturing tolerance range; and
(iii) simulating a first digital representation of the analog circuit based on the first random value and the location of each circuit element within the analog circuit.
アナログオーディオミキサー(音量信号を調整する装置)のコンピュータシミュレーションを提供する方法であって、以下のステップを含む:(i)コンピュータ上でアナログ回路のモデルを初期化し(ii)回路の各要素に対して正規分布の乱数を生成し(iii)そのアナログ回路のデジタル表現をシミュレートする。
USPTOのガイダンスは以下の通り。
Step 1: クレームされた発明は、プロセス、機械、製造物、組成物、又はその新規かつ有用な改良か?
一連のステップを含むプロセスであり、Step 2Aに進む。
Step 2A, Prong One: クレームが自然法則、自然現象、又は抽象的概念(いゆわるjudicial exceptions)を対象とするか?
(なお、抽象的概念とは、思考プロセスや数学的概念、人の行動を組織化する方法を指し、さらに人の行動を組織化する方法とは、経済原理やビジネス上の行為、人間の社会的活動などを含む)
思考プロセスについて:記載されたステップは人間の心の中で実際に実行されるものではない
数学的概念について:クレームには、数学的な関係、式、または演算が記載されていない。一部の限定は数学的概念に基づいている可能性があるが、数学的概念そのものはクレームに記載されていない。
人の行動を組織化する方法について:基本的な経済概念や商業的および法的相互作用など、人間の活動を組織化する特定の方法が記載されていない
対象としていない。従って適格性あり。
・・・え、終わり?というのが正直な気持ちです。個人的には、2Aでは抽象的概念と判定し、Step 2A, Prong Two※に進んで欲しかったところです。
※Step 2A, Prong Two: judicial exceptions(ここでは抽象的概念)を上回る追加的な構成要素があるか、またこれらによってそのjudicial exceptions(抽象的概念)が実用的な応用(application)へと一体化されているか?
体感的には、コンピュータによる処理を、数学的な概念(0/1の演算)や思考プロセス(紙とペンに書いてできる)とみなす審査官も多いように思います。そうなってくると、反論に際し、Prong Twoの、実用的な応用の議論も重要となってくるためです。
なお、少し古いケースですが、コンピュータシミュレーションに関する発明について、適格性なしと判断されたケースがあります。
Synopsys, Inc. v. Mentor Graphics Corporation (Fed. Cir. 2016/10/17)
こちらについては後日改めてまとめたいと思います。