―――――数年後





《こら!走らないの!》



よくある風景。
仲良し家族が遊びにきている。




あれ?
どこかで……





《弘樹!待ちなさい!》

《ママ!パパ!早く!》








―そうか。




なぁ弘樹。
君が最期に愛した人は、幸せに笑っているよ。
君が望んだ通り、彼女は強く生きてる。



君もどこかでみているんだろう?



彼女は、空を見上げて言った。


《ありがとう。私は幸せだよ。今日も笑ってる。》








―――日記は、もう捨てられていた。



そして





書かれるはずのない、最後のページには、なぜかなこう記されていた。





【美砂、大好きだった。
でももうお別れだ。幸せになれよ。
次にまた会う時は
君の1番近くで君を守ってやる。
だからまた笑ってくれ。
君の笑顔が大好きだ。】






なぁ弘樹。


きみが最後に言った言葉の意味が分からないんだ。



君は最期に、何をつたえようとしたんだ?








教えてくれよ。






end

ごめんね、こんなところに呼び出して。》

彼女と、男の話声が聞こえる。

《…………。》

男は何も言わない。


《別れよう…。》


彼女は言った。
俺も、彼も、そして男も、それは予想していた一言だった。


《あたし…もう人と付き合うなんて無理だよ…》


彼はとても辛そうな顔をした。


《だから別れよう。》


『チッ』


彼の舌打ちが聞こえたと同時に、彼は俺の前から姿を消し、

気がついたら彼は彼女達の前にいた。


《……っ!?弘樹!?》

《おまっ…なんで…》

彼女達には見えているようだ。



何故だ?



――いまはそんなことどうでもいい。



『僕には時間がないんだ。』


彼は言った。


《弘樹…ごめんっあたし……》

『太一。』

“弘樹”は女の声を聞かずに“太一”(…これは、彼女の恋人だろう。)のほうを
みた。

『美砂を頼むな。』

《……弘樹》

『僕の変わりに、美砂を幸せにしてやってくれ。』

《…おぅ。あたりまえだろ。

それより…ごめんな、俺……》


『いや、そんなの仕方のないことなんだ。

僕こそごめん。未練たらしくて。

親友の太一になら、僕も安心だよ。』


太一と弘樹は友達だったのか…


『美砂。』


弘樹は美砂の顔に触れ、涙を拭いた。

『お前こんな泣き虫だったか?
…ずっと美砂を見てたよ。
美砂、もう僕のために泣かないで。』


弘樹は笑顔で言った。



『美砂、ごめんな。
こんな日記、残しておくべきじゃなかった。
美砂と太一が悲しむことになるなら、こんなもの残さなきゃよかったんだ。

…太一、本当にごめん。
最後に一度だけ、美砂と二人きりにしてくれないか?』

《……あぁ。》


太一は公園の入口に向かって歩いて行った。
太一は泣いていた。
俺は見るに堪えなくて目を反らした。


《弘樹……》

『なぁ美砂、太一が好き?』

彼女は俯いてしまった。

『美砂?』

《………ぅん。でもっ》

『なら、別れちゃだめだよ。
僕は美砂が好きだ。
だから幸せになって欲しいんだ。
君が将来、笑っていてくれればいいんだ。
でも僕にはもうそれができない。
だから、太一と幸せになれ。
それがせめてもの救いだと思って……さ。
ね、笑って?僕、美砂の笑った顔見ないと成仏できないよ。』


《いやぁっ!弘樹っ》

彼女は泣く泣く首を振った。


『ね、笑って?

…そろそろ時間なんだ。』

しかし彼は、優しく笑った。



その表情を見て、彼女は戸惑いながらも笑った。


『ありがとう。』

彼は彼女にキスをした。
そして………
『大好きだった。有り難う。


さようなら。』

そう、耳元で囁いて彼は消えていった。

《弘樹っ!!!!》




残された者の悲しみ

そして

残す者の悲しみ


それは常に一緒に訪れて

それは比べられないほど悲しくて辛くて



切なかった。




消える直前、弘樹は俺に言った。



『君は、まだ戻れる。』





女は毎日ここに来て泣いていた。

そして、“彼”はその女を悲しそうに見つめる。


女は大事そうに“本”を抱えている。しかし、開くことはない。

また“彼”はそれを悲しそうに見つめる。




“彼”は、俺と同じ“幽霊”である。



『ねぇ?なんで君はここにいるの?』

「それがわかんねーんだ。」

彼は俺によく話し掛けてくる。

「なぁ、彼女は……」

『彼女は僕の“元カノ”だよ』



以外にも、女は彼の元恋人だった。


『もしよかったら、聞いてくれない?』

「いいよ、暇だし。」


『なんだ、それ』


俺らは笑った。

そして彼は静かに語り始めた。



『彼女とは半年前に別れたんだ。
原因は彼女の気持ちが変わってしまったから。
彼女には恋人がいるんだ。
僕は彼女を忘れられなかった。

彼女が持ってるあの本は僕の日記なんだ。

誰にも見られないと思っていたから、
彼女への気持ちもたくさん書いてある。
あの本が一冊終わったら、彼女への気持ちは忘れよう。
そう思って書いていた。
不運だな。あと1ページで終わる筈だったのに。
まさか死ぬなんて思わなかったよ。』


彼は自分を嘲るような口調で話した。


俺は感じた。


彼女は見てしまったんだろう。
“彼の気持ち”を。
気持ちの変化は仕方のないこと。
他からみれば、未練たらしいだけ。

しかし許せないんだろう。
本当に愛してくれた彼を裏切ってしまった自分を。
本当に好きだったんだろう。彼が。

もう償えない、そう言わんばかりに彼女の涙は流れ続けるだけだった。




彼女が来てからもう2週間経った。
いつも通り彼女はベンチで泣いている。
俺はそれが痛々しくて…
いや、それだけじゃない。
それを見つめる彼を見るのには、もう堪えられなかった。



そんな時、ある男が来た。



もしかして………


「あいつは…?」

『あぁ、彼女の恋人だ。』