ごめんね、こんなところに呼び出して。》

彼女と、男の話声が聞こえる。

《…………。》

男は何も言わない。


《別れよう…。》


彼女は言った。
俺も、彼も、そして男も、それは予想していた一言だった。


《あたし…もう人と付き合うなんて無理だよ…》


彼はとても辛そうな顔をした。


《だから別れよう。》


『チッ』


彼の舌打ちが聞こえたと同時に、彼は俺の前から姿を消し、

気がついたら彼は彼女達の前にいた。


《……っ!?弘樹!?》

《おまっ…なんで…》

彼女達には見えているようだ。



何故だ?



――いまはそんなことどうでもいい。



『僕には時間がないんだ。』


彼は言った。


《弘樹…ごめんっあたし……》

『太一。』

“弘樹”は女の声を聞かずに“太一”(…これは、彼女の恋人だろう。)のほうを
みた。

『美砂を頼むな。』

《……弘樹》

『僕の変わりに、美砂を幸せにしてやってくれ。』

《…おぅ。あたりまえだろ。

それより…ごめんな、俺……》


『いや、そんなの仕方のないことなんだ。

僕こそごめん。未練たらしくて。

親友の太一になら、僕も安心だよ。』


太一と弘樹は友達だったのか…


『美砂。』


弘樹は美砂の顔に触れ、涙を拭いた。

『お前こんな泣き虫だったか?
…ずっと美砂を見てたよ。
美砂、もう僕のために泣かないで。』


弘樹は笑顔で言った。



『美砂、ごめんな。
こんな日記、残しておくべきじゃなかった。
美砂と太一が悲しむことになるなら、こんなもの残さなきゃよかったんだ。

…太一、本当にごめん。
最後に一度だけ、美砂と二人きりにしてくれないか?』

《……あぁ。》


太一は公園の入口に向かって歩いて行った。
太一は泣いていた。
俺は見るに堪えなくて目を反らした。


《弘樹……》

『なぁ美砂、太一が好き?』

彼女は俯いてしまった。

『美砂?』

《………ぅん。でもっ》

『なら、別れちゃだめだよ。
僕は美砂が好きだ。
だから幸せになって欲しいんだ。
君が将来、笑っていてくれればいいんだ。
でも僕にはもうそれができない。
だから、太一と幸せになれ。
それがせめてもの救いだと思って……さ。
ね、笑って?僕、美砂の笑った顔見ないと成仏できないよ。』


《いやぁっ!弘樹っ》

彼女は泣く泣く首を振った。


『ね、笑って?

…そろそろ時間なんだ。』

しかし彼は、優しく笑った。



その表情を見て、彼女は戸惑いながらも笑った。


『ありがとう。』

彼は彼女にキスをした。
そして………
『大好きだった。有り難う。


さようなら。』

そう、耳元で囁いて彼は消えていった。

《弘樹っ!!!!》




残された者の悲しみ

そして

残す者の悲しみ


それは常に一緒に訪れて

それは比べられないほど悲しくて辛くて



切なかった。




消える直前、弘樹は俺に言った。



『君は、まだ戻れる。』