女は毎日ここに来て泣いていた。

そして、“彼”はその女を悲しそうに見つめる。


女は大事そうに“本”を抱えている。しかし、開くことはない。

また“彼”はそれを悲しそうに見つめる。




“彼”は、俺と同じ“幽霊”である。



『ねぇ?なんで君はここにいるの?』

「それがわかんねーんだ。」

彼は俺によく話し掛けてくる。

「なぁ、彼女は……」

『彼女は僕の“元カノ”だよ』



以外にも、女は彼の元恋人だった。


『もしよかったら、聞いてくれない?』

「いいよ、暇だし。」


『なんだ、それ』


俺らは笑った。

そして彼は静かに語り始めた。



『彼女とは半年前に別れたんだ。
原因は彼女の気持ちが変わってしまったから。
彼女には恋人がいるんだ。
僕は彼女を忘れられなかった。

彼女が持ってるあの本は僕の日記なんだ。

誰にも見られないと思っていたから、
彼女への気持ちもたくさん書いてある。
あの本が一冊終わったら、彼女への気持ちは忘れよう。
そう思って書いていた。
不運だな。あと1ページで終わる筈だったのに。
まさか死ぬなんて思わなかったよ。』


彼は自分を嘲るような口調で話した。


俺は感じた。


彼女は見てしまったんだろう。
“彼の気持ち”を。
気持ちの変化は仕方のないこと。
他からみれば、未練たらしいだけ。

しかし許せないんだろう。
本当に愛してくれた彼を裏切ってしまった自分を。
本当に好きだったんだろう。彼が。

もう償えない、そう言わんばかりに彼女の涙は流れ続けるだけだった。




彼女が来てからもう2週間経った。
いつも通り彼女はベンチで泣いている。
俺はそれが痛々しくて…
いや、それだけじゃない。
それを見つめる彼を見るのには、もう堪えられなかった。



そんな時、ある男が来た。



もしかして………


「あいつは…?」

『あぁ、彼女の恋人だ。』