【姉の幽霊?】


その日もいつもと同じように日の出15分前に海に入った。沖へ漕ぎ出し、顔見知りの早朝サーファーと挨拶を交わし波を待つ。今日はいい波だ。2、3本波に乗ったところで水平線から朝日が上がった。海面が琥珀色に輝くその光景は何度見ても飽きるものではない。天気良し、波も良し、抜群のサーフィン日和だった。

それから1時間ほどして沖で波を待っていると、少し離れた場所からこちらを見ている女性サーファーがいることに気付いた。初心者用のソフトボードに乗ったその女性は、私を見るとこちらに向かってパドリングを始めた。見知らぬ女性なので気には止めず、波が来るのを待った。女性は私の前までやって来た。近くで顔を見ても見覚えはない。が、女性はにこやかにこちらを見ている。そして更に私に近づき「よう!」と馴れ馴れしく声をかけて来た。きっと人違いをしているのだろうと思ったが、女性は私を見続け再び「おーい」と声をかけて来た。私は思わず「誰?」と問いかけた。が、次の瞬間、その女性が誰か分かった。姉だ!ヘッドキャップを着けていたので気づかなかったが、その女性は姉だったのだ。姉に会うのは恐らく2年振りくらいになる。60歳の弟と63歳の姉が、早朝の海の上で朝日に照らされながら再会したのだ。これが他の女性であればロマンチックな話だが、姉弟となると不気味でしかない。というか、怖い! 

姉は40年前からサンフランシスコに住み続けているので、その驚きというか恐怖は尚更だった。

「えっ? 何で海に? 帰国した? 何でこんな朝早く? はぁ? えっ?」と、私の頭の中は?マークでいっぱいになった。するとそこに良い波が入ってきた。私はこのパニックから逃れたくて、その波に乗った。乗り終えて振り返ると、姉が次の波に乗って岸に向かっていた。まだパニック状態の私はとりあえず沖に向かい、先ほど姉と再会した場所付近で再び波待ちをした。訳が分からなかったが、姉がまたこちらに来るだろうと思い、それまでに冷静になろうとした。が、いつまで経っても姉が現れることはなかった。不思議に思い辺りを見回したが、姉の姿を見つけることはできなかった。

一体何だったのか? 姉の幽霊?とも思った。だが姉はまだ生きている(はず)なので、幽霊ってことはない。冷静に今の事象について考えてみた。姉は2年ほど前からサーフィンを始めたので、海にいること自体は不思議ではない。また、歳をとったので日本に帰ってこようかとも以前話していた。その際は大洗の海の近くに家を買うつもりとも言っていた。ってことは、既に日本に帰ってきて大洗に住んでるってこと?だが、もしそうであれば私に連絡くらいするだろう。何の連絡もせず、いきなり海の上でというのは一体どういうつもりなのか。サプライズのつもり?私にそんなことしても、誰も何の得にもならない。んー!何とも微妙だ。姉は一体何を企んでいるのか?

私は、中途半端に米国人化している姉が実は苦手で、出来ればこの先あまり関らずに生きていければと思ってる。なので、この幽霊騒動についても、こちらから連絡したりはせず放っておくことにした。


それからひと月半が経ったが、姉からは未だ何の連絡もない。姉の企みは何だったのか。もしかするとあれば本当に幽霊(生霊)だったのかもしれない。私の身に災難が降りかからないで欲しいと願うばかり。

くわばらくわばら・・・


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おまけのニャンズ


嫌なことがあっても、ニャンズを見れば心癒される。



お次は、いずこの山へ