まもなく廃止 「スカイレール」乗車の思い出 | あさかぜ1号 博多行

まもなく廃止 「スカイレール」乗車の思い出

広島市安芸区にある住宅団地「スカイレールタウンみどり坂」へのアクセス手段として1998年に開業した、モノレールとロープウェイの特徴を併せ持った世界唯一の交通機関である「スカイレール」(正式な路線名は広島短距離交通瀬野線 みどり口ーみどり中央間)が、あと2か月弱後の5月1日に廃止されることになりました。(運行はみどり口・みどり中央両駅を4月30日の12:00に出発する便まで)
「スカイレール」が廃止されるのではという話題は2022年11月ごろからネットニュースなどで知っていましたが、とうとう正式に廃止日がアナウンスされました。
ここ数年、JR各車を中心に、ローカル線、あるいは鉄道全体の今後のあり方をめぐる議論や動きが活発になっていますが、実は鉄道の仲間のこんな乗り物も路線の廃止という現実に直面することがあるのですね。
「スカイレール」は、おそらく交通機関としての全国的な知名度はかなり低いと思われますし、かくいう私自身も正直なところ、路線廃止かという話題が出るまでその存在を忘れかけていました。
しかし新しい短距離交通機関としての期待を担って建設されながら、まだ開業して26年にもかかわらず廃止という結末を迎えてしまうことは、やはり寂しいものです。
過疎地のローカル線とはまた拝啓が異なりますが、大都市近郊のニュータウンの輸送を担う交通機関にも存廃問題が持ち上がるところに、人口減少などの今の社会のさまざまな問題が映し出されているような気がします。
ところで、私はこの「スカイレール」に、一度だけですが乗車経験があります。今回は、そのようなわけでおそらく最初で最後になるであろう「スカイレール」乗車の思い出を振り返りたいと思います。

あれは2010年1月に広島方面へ鉄道旅に出かけた時のことです。
この鉄道旅の主な目的は、当時まだまだ広島都市圏で大活躍を見せていた103系や115系などの国鉄型電車の撮影・乗車と、やはり当時全機が健在で山陽本線上り貨物列車の広島貨物ターミナルー西条間の後部補器として活躍していたEF67形電気機関車の撮影でしたが、それらの合間に広島電鉄など他の路線の乗車や撮影もしました。
その一環で、当時まだ未乗車だった「スカイレール」にこの機会に乗っておこうと乗り鉄(?)に出かけることにしました。
鉄道旅の2日目、朝のうちに山陽本線西條駅でEF67などを撮影し、その後は呉線で103系に乗ったりしながら午前中を過ごし、昼過ぎに広島駅から115系の山陽線上り普通電車で「スカイレール」乗り換え駅の瀬野駅へ向かいました。
瀬野駅のJR改札を出て短い連絡通路を少し歩くと、スカイレールの始発駅「みどり口」駅があります。JR瀬野駅との距離はほんのわずかなのに駅名が異なるのには、スカイレールが完全にニュータウンの一部になっているという意味が込められているのでしょうか。
駅に到着したところで、さっそく終点のみどり中央駅までの乗車券を購入しました。2010年当時、スカイレールには運賃支払いに利用できるプリペイドカードやICカードのシステムがなかったので、券売機で紙の乗車券を購入。ちなみに2010年当時の運賃(全区間均一)は大人150円(2024年現在は170円)でした。
その紙の乗車券は、乗車口の自動改札機に投入するとそのまま回収され、降車駅では改札を通ることなく駅の外へ出られるようになっていました。
ホームへ上がると、間もなく次に出発するゴンドラがやってきました。
ホームにはガラス張りのフルスクリーンタイプのホームドアが設置されていて、安全度は高い反面、ホームからゴンドラを撮影したり眺めたりするのはかなり苦労します。
ゴンドラの塗装はブルー地に白のラインの入ったものや、ブルー地に黄色と緑のラインが入ったものがありました。
ゴンドラの内外には私が見た範囲ではナンバー標記らしきものは見当たらず、ゴンドラの形式や台数は不明です。
ゴンドラ内部には、前後の窓に背を向けた形でそれぞれ4人ずつが座れるシートがあり、外からの見た目だけでなく内部もロープウェイそっくりです。
また、スカイレールは1999年度の鉄道友の会「ローレル賞」を受賞していて、一部のゴンドラには受賞記念プレートが内部に掲出されているものもあります。(私がみどり口から乗ったゴンドラにも掲出されていました)
やがて、12~3人が乗ったところでゴンドラはみどり口駅を出発。
その後は、やはりロープウェイに乗っているような気分でゴンドラ内からの展望に釘付け。前後左右全方向の窓が大きいのと、当日の晴天のおかげもあり、下界の緑豊かな住宅地や造成中の宅地などを眺めながら高度を上げていきます。
少なくとも「よそ者」目線では、こうした風景を季節の移ろいも感じながら眺めつつ日々利用できるのはうらやましい気分にもなりました。

みどり口駅から約5分で終点のみどり中央駅に到着。
スカイレールは元が住宅地へのアクセス手段なだけに、終点まで来ても私のような「よそ者」が楽しめるような施設やお店があるわけでもないので、到着後すぐに逆方向のゴンドラに乗ってみどり口駅へとんぼ返りしました。
帰りのゴンドラは、恐らく私と同じようにスカイレールに乗りに来たと思われる男性との二人旅(?)になりました。
先ほどと同じように全方向のパノラマを楽しみながら乗っているうちに、急勾配を下る地点では同乗の男性と「下手な遊園地のアトラクションより面白いですよね」などと会話を交わす場面もありました。

そんなこんなで、あっという間に元のみどり口駅に到着し、スカイレールの乗車は終わりました。
個人的にはゴンドラからの眺望も素晴らしく、ニュータウンへのアクセスだけに使うのはもったいないような気もする魅力的な交通手段と感じましたが、やはり様々な「想定外」が「スカイレール」の将来性を失わせてしまったのでしょう。
同じように短命に終わった愛知県小牧市の新交通システム「桃花台新交通」(ピーチライナー)もそうでしたが、やはりニュータウン開発とセットで建設された新しい交通機関というのは、昭和の高度成長期ならともかく現在のような人口減少社会の中では運営もかなり厳しいものがあるのでしょうね。
ちなみに「スカイレール」の代替交通機関として、今月末から瀬野駅とみどり中央との間にバス路線が開設されるとか。
バスにしても運転士不足などの問題がある中ですが、結局はこれが一番現実的なニュータウンから最寄り駅へのアクセス手段ということになるということなのでしょうか。