本シリーズでは、水素原子の1s軌道の「水素原子のシュレーディンガー方程式の解」を求めます。
「水素原子のシュレーディンガー方程式の解」には、一般に「2体問題」と言われるものがあります。
「2体問題」と言う言葉は、5~6年前ころはよく見かけましたが、最近はあまり話題にならないほど一般化しているようです。
まず「水素原子の厳密解」を求める手順から話を始めていきます。
水素原子の厳密解を求める場合は、「電子と核の重心を原点においた系」を考えることから始めます。
XYZ座標で表した電子と核の点の座標は、それぞれ(x1,y1,z1)と (x2,y2,z2)。
ふつうの水素1H(核=陽子1個)の場合、静止質量を次のようにおきます。
※静止質量とは、1905年A. Einsteinが発表した相対性理論に基づく量子論であり、ここでは詳しくはふれません。
XYZ座標で表したSchrödingerの波動方程式は次のようになります。
ΨTは、この系の波動関数とします。ETは、この系の全エネルギーとします。VTは、この系のポテンシャルとします。
重心をXYZ座標で表した点の座標を(x,y,z)。
「電子と核の重心を原点においた系」と前述しましたので、重心(x,y,z)= (0,0,0)であると予測されます。
ところが、これは1方では正しく、1方では間違いです。
なにを言っているのか分からなくなりますが。
これは、この系が「電子軌道の状態方程式の系」と「重心の並進運動の系」が混在した系であることに起因します。
図で示すと次のようになります。
「重心の並進運動の系」は、XYZ座標で重心(x,y,z)の並進運動の運動エネルギーとして表わされます。
「電子軌道の状態方程式の系」は、XYZ座標で電子(x1,y1,z1)、核(x2,y2,z2)、重心(x,y,z)で表わされます。
X0Y0Z0座標を見てみます。
この系が「電子と核の重心を原点においた系」です。
上図を見ての通り、X0Y0Z0座標では、電子と核の重心は、常に(0, 0, 0)です。
X0Y0Z0座標で表すと、「重心は動かない」=「並進運動が無い」。
X0Y0Z0座標は、「電子軌道の状態方程式の系」です。
以上の説明では、「!」が消えないと思います。
逆に、「!!!」となってしまったかもしれません。
そこで波動方程式を、実際に、XYZ座標→極座標へ座標変換してみます。
そして「電子軌道の状態方程式の系」と「重心の並進運動の系」を分けます。
さらに「電子軌道の状態方程式の系」と「重心の並進運動の系」を個々に解きます。
最終的に、この系について、少し補足説明をします。
それでは解いていきます。
まず座標を設定します。
全てXYZ座標で設定します。
r,θ,φは、電子と核が重心(原点)を通る同一直線上にあるため1組しかありません。
また並進運動であるため、θ,φは、X0Y0Z0座標とXYZ座標で、同じであるとします。
rは次のようになります。
それぞれx, y, z, r, θ, φ, ρを、x1, y1, z1, x2, y2, z2で表すと、次のようになります。
r,θ,φ,ρは次のようになります。
逆に、それぞれx1, y1, z1, x2, y2, z2は、x, y, z, r, θ, φ, ρで次のように表されます。
ここまでで、座標の設定は整いました。
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XYZ座標から極座標へ変換します。
式(1-3)の波動方程式のXYZ座標のラプラシアンは次のように表されます。
微分方程式の本のラプラシアン(ラプラス方程式)の円柱座標および極座標への座標変換と全く同じ解法です。
「同焦点楕円球座標のラプラシアン(3) 」と同じ解法です。
以下に、この解法の基幹部分だけ列挙します。
○x1の1階微分
x1は、xとρとφの関数であるので次のように表せます。
∂x/∂x1と∂ρ/∂x1と∂φ/∂x1を求めれば、次のように∂/∂x1が得られることになります。
○x1の2階微分
x1の2階微分は、x1の1階微分より次のように求まります。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(2) で解きます。
●y1
再掲するとy1は次の式です。そしてy1の1階微分、y1の2階微分は次のようになります。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●z1
再掲するとz1は次の式です。そしてz1の1階微分、z1の2階微分は次のようになります。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●電子のラプラシアンを求めます。
x1とy1とz1、それぞれの2階微分をたします。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●x2
再掲するとx2は次の式です。そしてx2の1階微分、x2の2階微分は次のようになります。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●y2
再掲するとy2は次の式です。そしてy2の1階微分、y2の2階微分は次のようになります。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●z2
再掲するとz2は次の式です。そしてz2の1階微分、z2の2階微分は次のようになります。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●核のラプラシアンを求めます。
x2とy2とz2、それぞれの2階微分をたします。
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(3) で解きます。
●電子と核の極座標のラプラシアンを次の波動方程式(再掲)に代入します。
そして、「重心の並進運動の系」と「電子軌道の状態方程式の系」を分離すると、次のような2つの式が得られます。
○ 「重心の並進運動の系」
ポテンシャル0の場でm1+m2(重心)の並進運動の方程式
F(x, y, z):「重心の並進運動の系」の波動関数
E translational:「重心の並進運動の系」のエネルギー
○「電子軌道の状態方程式の系」
ポテンシャルVの場の極座標で表わした水素原子の電子軌道のSchrodinger波動方程式
換算質量μを次のようにおいています。
V:「電子軌道の状態方程式の系」のポテンシャル
E:「電子軌道の状態方程式の系」の全電子エネルギー
Ψ(r,θ,φ) :「電子軌道の状態方程式の系」の波動関数
※水素原子のシュレーディンガー方程式の解A,2体問題(4) で解きます。
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以上より、電子m1と核m2よりなる波動方程式(1-3)は、「重心の並進運動の系」と「電子軌道の状態方程式の系」の2つの系が混在していたことがわかります。
そして「水素原子の厳密解」を得るには、「電子軌道の状態方程式の系」を換算質量を用い、波動方程式を解いていくことになります。
このシリーズの解法は微分方程式(ラプラス方程式)のラプラシアンの極座標への変換と全く同じであるため省略され、通常「水素原子の厳密解」は、この換算質量を用いた波動方程式から始まります。
●参考図書
量子化学の本
◎初等量子化学―その計算と理論,大岩正芳,化学同人.
●その他/量子力学の教科書・・・・
http://adhara.hatenadiary.jp/entry/2017/01/01/233000
●後で発見したサイト・・・
http://d.hatena.ne.jp/rikunora/20080417/p1